授業実践記録
イメージを大切にする指導方法
−等差数列の一般項の公式から−
兵庫県立宝塚北高等学校
山 崎 俊 喜

1.はじめに

 本校で勤務するようになってから8年が過ぎようとしている.転勤してきた年は,現教育課程が開始された年でもあり,今までとは大きく異なり手探りの状態であった.旧数学Iで指導する内容が数学B,数学IIIに移行されていたりして,現地調達方式などと呼ばれてあらかじめプリントなどで指導される方法がどこでも取り入れられていたように思う.その現教育課程にもなれてきたのに,もうすぐ新教育課程が始まる.私は現在兵庫県数学教育会の研究部に所属しており,新教育課程における課題,問題点をいろいろな角度から探ろうとしている.そして現在実施しているさまざまな指導方法を改良していくよう試行錯誤を繰り返している.これから,いろいろな単元における現在の指導方法をいくつか紹介したい.

2.基本的な指導方針

 最近,計算力が低下していると言われている.また,それに伴って考える力も低下していると言われている.そのためどういった授業をしていき,定着を図るかといったことが,重要になってきている.私が今掲げているテーマは「イメージを大切にする」ということである.数学にはたくさんの公式が出てきてなかなか覚えられない.覚えても途中に複雑な内容が入ってくると,計算を間違えてしまう,といったことが起きてきて,「どうせ私は数学なんか嫌いだ」という気持ちを持たせてしまいかねない.また,それが継続されてしまうと全く何もわからない,わからないからやらない,という悪循環を繰り返すだけである.そのために,教材を精選して,「できるではないか」という自信を持たせることが大切である.人間叱られることはとても大事であるが,「ほめる」ということはもっと大事ではないかと思う.
 公式を記号的に理解することはとても労力を要することである.また,丸暗記をしたところで,すぐに忘れてしまうといったことが起きて,とても公式を用いて考えていく段階にいかない.それでは数学を勉強しようという気は起こるはずもない.そうならないために,
[1] 公式を直接教えるのではなく,概念を説明した後,具体的な例をたくさんあげながら,公式を自ら考えさせ,予想させる.
[2] 公式を記号のまま教えるのではなく,言葉(例えば,俳句にしたり面白い名前を付けたりしてみる)や図を用いたりして,視覚的に公式を頭に植えつける.
といった工夫を心がけている.教科書の内容を機械的に教えていくことだけは避けようと思っている.
 [1]については,具体例にいくつか触れることによって,公式が予想できるようになってくる.「では,こんな場合はどうなるかな」という問いかけをしていくと,生徒は公式を知らなくても規則性を身につけていき,別の場合も考えつくようになる.ここで,生徒が自ら考えるということがポイントである.決して難しい例であってはいけない,誰でも思いつく例でなければならないのである.全員にノートに解かせるなりして,机間巡視をする.そして,苦手としている生徒ができていると,「いいぞいいぞ」とほめるようにしている.そうすることによって,生徒は「なんだ,この内容は簡単だ」と感じるようになればしめたものである.
 [2]については,[1]の作業が終わったあと,公式を提示する.しかし,単なる記号では記憶している時間が短い.そこで,公式を視覚的に理解させると,定着している時間は長くなる.例えば,久しぶりに出会った人の場合,顔は覚えているが,名前が出てこないという経験は誰にでもあると思う.それは,右脳で記憶されたもの(図など)の方が,左脳で記憶されたもの(言語,記号など)よりも,より記憶されているからだそうである.その概念が数学の基礎力の定着に結びつかないであろうかと考えたのがきっかけである.また,自分自身が記号で公式を覚えようとしたとき,なかなか覚えられないといった昔の体験もきっかけになっている.自分自身が高校時代によくこじつけて覚えたものや,勝手に名前を付けたりして覚えた(ある塾の先生の影響が非常に大きい)ものも多かった.だから,少しでもその考えを理解してもらいたいと思っている.後は,それを聞いた生徒たちが,理解する方法を自らあみ出してくれるとこれほどうれしいことはない(公式の中身を考えるということになり,意味を十分理解しなければ生み出せないので).

3.具体例

 生徒たちが高校に入学して,数学Tの「2次関数」のところで,数学がわからないと言い出している.我々教師にとっても頭の痛いところで,「数と式」の基本的な計算をどこに入れていこうか悩むところである.特に最初の2次関数の頂点の座標を求める変形(平方完成とも呼ばれているが)が苦労するところである.実際に私も教師として指導し始めた頃と比較して,指導方法を何回も改良している.これからも改良していく予定であり,他の先生方も工夫されていると思うのでここでは割愛させていただきたい.
 もう一つ,生徒が数学が難しい,嫌いと感じてくるのが,数学Aの「数列」である.私もまだまだ不十分であるが,一つのイメージを持たせることに配慮し,次のような考え方で指導するようにした.


等差数列の一般項
 2, 5, 8, 11, 14, 17,… で表される等差数列の一般項を求める問題であるが,それを直接公式を使わせることなく他の項がどういった形で求められるかに着目させた.
第5項を求めさせるにはどうすればよいかを考えさせる.
  2+3+3+3+3=2+3×4=14
であることに気づかせる.そして,2は何?,3は何?,4は何?ということを考えさせる.このとき,2は初項,3は公差ということには容易に気づくが,果たして4は何であるかを考えさせる必要がある.単にn−1 という形ではなく,5個並べたときのその間の数であるということを図で理解させたい.また,第5項にしているのは,左手(もしくは右手)の指をだしてみると,ちょうど5本ある.その間の個数は1少ない4であるということに気がつくようにさせたい.だから,第5項にしている.わからない場合は指を見て実感させるとよいだろう.つまり公式は,初項に公差を間の回数だけ足せばよいということがわかる.(2に3を4回足す.)それをもとに第8項あたりを求めさせるとよい.
 それを俳句(川柳?)の形で公式にしてみた.
等差数列の一般項

初項に
  公差をあいだ(すきま)
    だけ足す
          としきかく


黒板に書くときは縦にしている.としきとは私の下の名前で,「そこが大事や」と冗談を入れながら,定着を図っている.(ちなみに等比数列の一般項は「公差」を「公比」に,「足す」を「掛ける」に変えるとできる.)

4.おわりに

 他にもいろいろ公式に名前をつけて,紹介している.できるだけ,公式を確実に理解させ,確実に利用させる指導が必要であると実感している.また,それらが定着したのち,応用問題に対応できるよう指導していくことが必要である.

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