三重県立菰野港等学校 浦田 治
「インターネット理解」を目指す試み
"情報教育" ひとつの切り口
1.はじめに
本校では,平成10年度より数学科で開講している選択講座の中で,インターネットの理解を単元として扱うことになった.情報通信インフラの基幹となっている“インターネット”の特性を理解するために,いかに教材化を進めたか,その概要をここでまとめてみたい.
2.講座「計算処理」について
本校では,2,3年次に科目の自由選択制度を設け,個性的な講座開設を目指している.「計算処理」(2単位)は数学科が開講するその講座の一つである.従来は表計算ソフトでの学習であったのでこの名前がついているが,特に近年はネットワークを意識した授業方法や内容の展開を進めている.実習や個別指導への対応から定員は20人にして指導を行っている.
生徒は2年次までに数学や商業などの授業でPC室を活用しているが,本講座を選択してきた生徒はこの分野に興味が高く,マシンやネットワークの扱いに長けた生徒たちも多い.生徒は2年次までに以下の基本的な学習をしている.
・Windowsの基本操作
・ネットワークログインの概念
・タッチタイピング,マウス操作
・EXCELによる表計算の方法
・ブラウザの利用と情報検索の方法
・WEB作成と公開の手順
これを踏まえて3年生対象に設けられた本講座は,前期を“EXCEL表計算データ処理”,後期を“インターネット理解”と2つの単元に分けることにした.
前期は2年次のEXCEL基礎学習を継承し,全校生徒アンケート「情報通信端末の利用」のデータなどを元にEXCELの関数を使って表現すること,グラフ化や表現効果も指導・評価の対象にした.
3.単元「インターネット理解」
後期を通して行った「インターネット理解」について,ここで以下の各階層別に説明を行う.この4つの階層に分けることで,私は授業の組み立てを整理しやすいと考えている.
目 的 | 何を目指すのか |
内 容 | どんな題材を扱うのか |
方 法 | どのような方法で |
環 境 | どのような環境の上で |
・パケット通信,自立分散型の特性
・ドメイン名,IPアドレス,DNS
・10進数⇔2進数
・TCP/IP の成り立ちと特徴
・フリーソフトの威力
・ログ(履歴記録)
・RFCに見る技術標準化の方法
・個人情報とデジタルデータの取り扱い
<実習>
・オンラインコミュニケーション
E-mail の設定項目,ヘッダの理解,
各種コミュニケーションツールの活用
・ネットワーク関連コマンド
DOS窓およびUNIXシェル上から
winipcfg (端末基本設定の確認)
nslookup(IPと名前の関連付け)
tracert (通信経路の確認)
ping,traceroute など
<WEBレポート>
以下の4つのテーマでWEBレポートの作成を試みた.(詳細はwww.bebop.gr.jp/kadai.html)
〜 Yahoo! で変わる生活 [生活]
「常にインターネットが使える環境で生活する時,Yahoo!はどう使えるか?」
〜 誰が何してこうなったか? [人]
「インターネットには誰の発見や貢献,活躍や成功があっただろう」
〜 データに見る普及の推移 [データ]
「普及や発展を示すデータから,今後10年間で起こることを予測しよう」
〜 インターネット上の事件 [事件]
「ネット上での青少年の関係した犯罪や事件から,その問題点を考えよう」
提出リポートはWEB での作成によるので,文書・画像・リンクを取り入れた作品?が出来上がるわけだが,中にはTV番組から映像の一部をREALビデオとして取り入れる生徒などもいた.
レポートWEBは校内で常に閲覧可能な状態になるので,他人の写しや盗作などの行為が行われにくくなる.そのため,独自性が問われ,質に対する意識や緊張感が高まるなどの効果があった.また,作成過程中にもこちらの指導や評価を入れることも可能だ.
<メーリングリスト>
学校のメールサーバに,本講座用のメーリングリストを設け,生徒のアドレスを登録し,連絡事項や課題内容を流すことにした.生徒間の情報共有や,欠席者への授業内容の連絡にも役立った.
<ディスカッション>
ネットワーカーとして経験を積んでいる生徒らとのコミュニケーションは実に重要である.彼らの持っている情報や考え方に驚かされることも多いが,現実社会のあり方を知る意味でも有益だ.特に個人情報,複製権,チェーンメールなどの話題は彼らの実体験を基に大いに盛り上がった.
3.4 環境
マシンがLAN整備されインターネットに接続されると同時に,端末とネットワークの適切な管理が重要な仕事になる.PC室を使いやすくするためのいろいろな仕掛けが必要である.
Linuxマシンでの設定や記述の詳細をwww.bebop.gr.jp/tl4.htmlに記す.
<回線の確保とトラフィックの軽減>
地元CATV局が学校向けに昼間常時接続サービスを行っているため,ケーブル広帯域でのインターネット利用が可能になっている.また,LINUXマシンをPROXYサーバに仕立てることで一層のパフォーマンスを得られる.PROXYを通すことでアクセスログの採取も行える.ほとんど見ることはないが,アクセス履歴が残っていることは生徒に示している.
<生徒機のルーティング制御>
生徒機のルーティングを教師側で制御する仕組みが指導上必要になってくる.教室の端末は内部用にアドレス変換(IPマスカレード)してIPを割り振ってあるが,この仕事を行っているLinuxマシンでIpchainsコマンドを用い,生徒機IPの外部アクセス制御を行っている.
<有害情報のフィルター>
有害情報へのアクセスは学校にとって頭の痛い問題である.本校では現在,約1万件のURLブラックリストに順次書き加えて,アクセスの遮断を行っている.完璧なものは不可能だが,ある程度の対策は必要だろう.また特定字句での検索遮断も含め,プロクシーの設定ファイルを記述することで対応している.
<生徒機のモニターと画像提示>
IBMの「Desk Top On Call」を使うことで,生徒がトラブルや行き詰まった時にリモートで対応できる.また,教師側の画像提示を別モニターで行うことで指導のバリエーションを広げられる.
4.まとめと今後の課題
ネットワークが本当の威力を発揮しだすと,学校では「知」の価値が根本的に問われ,従来型学習に相当な揺さぶりがかかるだろうと認識している.
ネットワーク型社会への急変化に対し生徒らの問題意識は予想以上に高かったし,この進展から自分が取り残されるような不安をもつ子供も少なからずいる.
本校ではインターネットの“何をどう”理解するかについての検討が始まったばかりであるが,この社会を生き抜く力を養う上で,インターネットの理解は重要な要素であるという認識を持ち,題材選定の工夫を今後も行っていきたい.
Eメール:urata@bebop.gr.jp