1 はじめに
2000年度から開始された「ミレニアムプロジェクト」では,「『各教科』の授業を,コンピュータやインターネットを『道具』として活用することにより,すべての子どもたちにとって『分かりやすい』ものにする」ことを目指しています.本校では平成9年1月に公式ホームページを立ち上げて以来,教育情報部を中心にして教職員および生徒に対しての研修会等を実施することによりリテラシーの向上に努めてきました.しかし,平成11年度までは,授業での活用となると1年次のオリエンテーション(2時間程度),家庭科の授業以外には組織的には行われていなかったのが現状です.平成12年度は必修クラブの廃止に伴い,1年生の数学の授業が増えました.その授業時間の一部を使ってコンピュータを用いた授業を行うことになりました.その授業実践例を紹介したいと思います.
2 本校のコンピュータ設置状況
・職員用コンピュータ 26台
職員室・進路指導室・図書館・保健室・制御室・各準備室等に配置.すべて ネットワークに接続しています.また,総合管理システム(成績管理・教務管理・進路データ・保健管理等の処理をネットワーク上で行うプログラム)で,ほとんどの教員がコンピュータを利用しています.
・生徒用コンピュータ 24台
図書館にデスクトップが4台,TM2と呼ばれているコンピュータ室にノートパソコンが20台設置してあります.TM2は毎週金曜日の授業後,生徒に開放しています.
また,プロジェクタが3台あり,普通教室での利用も可能です.
3 数学の授業での位置づけ
今年度の数学科の取り組みとしては,
(1)コンピュータの基本的な操作の習熟と情報収集の方法(従来のオリエンテーションの継続)
(2)実習を伴う学習(自らコンピュータを操作することによって理解を深める)
(3)実習を伴わない学習(プロジェクターでの提示による視覚的効果を図る補助的な利用)
の3つを行うことにしました.
インターネットを活用した数学の授業についてはまだ研究不足の面と進学校ゆえの授業の進度の面から(1)の内容にとどめ,授業の内容の理解を深める目的のためにコンピュータを利用する方向で進めることにしました.授業で利用するソフトは,大阪教育大付属高等学校池田校舎友田勝久先生の作成されたグラフ描画ソフトGRAPESを使用し,グラフ・図形の変化を視覚的・動的にとらえること(黒板の静的な図よりも効果的な場面で利用することにより理解を深める)をねらいとすることにしました.
4 授業計画
実際の展開ですが,授業の進度により各クラスの実施時間には多少違いはありますので,あるクラスの実施状況について紹介していきます.本校では65分授業を実施しています.65分の授業は数学の授業の際,演習・解説の時間が充実し,またコンピュータ実習等の実習を伴う授業にも有効と思われます.
第1回……(5月)
「2次関数の最大・最小」 教室で実施.
2次関数の最大・最小について軸が変化する場合・区間が変化する場合についてプロジェクターで一斉提示することで理解を深める.
第2回……(7月)
「コンピュータに慣れる」(TM2にて実施)
ネットワークコンピュータにログインする方法・マウス操作,キーボード入力の練習およびWeb Page の検索の方法(検索エンジンの利用法)について説明する.
第3回……(7月)
「2次関数のグラフ」(TM2で実施)
GRAPESの操作方法について学ぶ.また,GRAPESを用いて2次関数のグラフの係数を変化させることによるグラフの動きを調べさせる.また,2次方程式の解や2次不等式の解についても視覚的にとらえさせる.
第4回……(10月)
第5回……(2月)
「三角関数のグラフ」(TM2の予定)
教科書に載っているいくつかの三角関数のグラフを実際に描画させる.また,いくつかの性質をグラフ上で確認する.
5 授業実践例
第4回「図形と方程式」
・本時の目標
前時までに学習した2直線の位置関係,直線群,2円の位置関係,円群について描画ソフトGRAPESを用いることにより視覚的にとらえ,図形への理解を深める.
・指導計画
導入(5分)前時の復習
本論(55分)
・ax−(a+1)y+1=0,ax−4y+1=0 が平行,一致,垂直となるaの値を求める.
(プロジェクタによる一斉提示)
・(k+2)x−(2k−3)y+3k−8=0は,定数kの値にかかわらず定点を通る.その定点の座標を求めよ.
(生徒に実際にkの値を変化させる)
・x2+y2=r2 と (x−3)2+(y−4)2=9が共有点を持たないよう正数rの範囲を定めよ.
(プロジェクタによる一斉提示.内接・外接についても補足)
・x2+y2−x+y−2=0 と x2+y2+2x−8y+1=0について,2円の交点と点(1,0)を通る円,および2円の交点を通る直線の方程式を求めよ.
(実際にGRAPESを使って,f+kg=0の形にまとめることで条件を満たす曲線群が表されることを確認する)
終(5分)
本時のまとめ・次時の予告
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GRAPESの画面
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6 実際に授業を行った先生の感想
当初はコンピュータの操作に時間がかかるのではないかと思っていたが,中学時にコンピュータの授業がなされている学校が多く,第2回の授業からスムーズに展開することが出来た.また,GRAPESの操作についても2人で1台の環境であったためか,とまどう生徒は少なく,熱心に取り組んでいた.生徒の反応も良好で,実際に値とともに曲線が変化していく様子は画面で確認でき,とても分かりやすかったと多くの生徒が述べている.
7 今後の課題
今年度実施してみて,コンピュータの利用は生徒の理解を助けるのに有効に機能することが確認出来ました.しかしながら授業を進めるにあたってコンピュータの実習を行っていくと授業の進度がどうしても遅れがちになってしまいます.年度当初は1か月1回程度行ってみようという試みでしたが現実には少ない実施回数になってしまいました.
授業の進度を遅らせることなく,コンピュータを活用する方法としては普通教室でのプロジェクタによる一斉提示の機会を増やしていくことだと思われます.今まで黒板で扱ってきた図を実際に動かしてみせることは,分かりにくかったイメージをとらえる手助けにもなり,導入の際に有効に機能します.ただ,教室でプロジェクタを使用する際,その準備に時間がかかる,またプロジェクタを載せる台が無い等の施設的な問題を解消する必要があります.
また,授業に使えるコンテンツを蓄積していくことが大切です.どの先生でも簡単に利用することができ,また利用したいと思ってもらえるものをデータベース化し,年々改良していくことが必要だと思います.
さらに数学Bの複素数平面の一次変換やベクトル方程式,数学Cの極方程式などコンピュータを利用することが有効な分野についても教材を考え,継続してコンピュータを使った授業を進めていきたいと思います.
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複素数平面での利用
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8 GRAPES について
GRAPESは,パソコンの画面上に陽関数,陰関数,媒介変数表示の関数および極方程式のグラフを描き,それを様々な角度から調べるためのソフトで高校数学で扱うほとんどの関数を自由に組み合わせて使うことが出来るソフトです.また,スクリプトを記述することで簡単なプログラムを作成することが出来ます.サンプルも用意されており,初心者でも比較的容易に操作することが可能なソフトです.GRAPESはフリーソフトウェアで自由にコピー・配布して使用することができます.最新版は,次のURL(http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~tomodak/grapes/)にあります.また,愛知県高等学校数学研究会の数学科教育情報委員会のページの「コンピュータ利用授業のヒント」においてもGRAPESの活用例を紹介しています.
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