メディア社会と情報教育
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新しい時代の基礎基本としての「メディア・リテラシー」
静岡大学情報学部助教授
堀 田 龍 也

1.「メディア・リテラシー」とは何か

 「メディア・リテラシー」の定義は,各国によって少しずつ異なり,それぞれの国の諸事情が絡んで教育内容が決定されているが,概ね次のようなものである.
 「メディアの伝える情報が日常のあらゆる局面に深く浸透し,我々のものの見方や考え方から文化の形成にいたるまで大きく影響するなか,メディアが送り出す情報を単に受容するのではなく,意図を持って構成されたものとして,積極的に読み解く力を養うこと」(菅谷明子「メディア・リテラシー」岩波新書より).
 要するに,メディアが伝えるものは「事実」ではあっても,「事実のすべて」ではないことを教えるということである.限られた時間・紙面で表現される情報は,当然事実の「一部」を切り取ったものであり,その情報は発信者によって「編集」されているということを教えるということである.さらに言えば,メディアの影響によって私たちの思考の中にさまざまなステレオタイプなものの見方が埋め込まれつつあるということを教えることである.
 メディア・リテラシーの教育は,英国ではすでにカリキュラムにしっかり根付いており(ただし「メディア教育」と呼ぶことが多い),現在ではGCSE(義務教育終了試験)の1つの科目として「Media Studies」がある.
 このように諸外国でメディア・リテラシーの教育が行われ,一方,日本であまり根付いていないことの背景には,思考方式の違いが影響している.すなわち,諸外国においては「批判的思考(critical thinking)」が大事にされており,小さい頃からそのような思考能力を育てることが教育の重点になっているのに対し,日本では「他人のやったことを批判する」ということはむしろ望ましくないことだというムードが教育の世界にある.海外では「critical」は否定的ととらえられているわけではなく,論理的で根拠に基づくということを指していることが多く,これ自体は日本の教育の中でも存在してはいるものの,それを前面に出して議論したりすることは,どこかはばかられる雰囲気がある.
 例えば,諸外国では十分に学習指導されているディベートも,日本ではよく「口先ばかりの人間を育てている」とか「自分の考えと反対のことを言わせるのはおかしい」のような非難の声が聞かれる.ディベートは論理の学習であり,相手の立場になって反論してみることを通して自分の論を確かにする学習である.
 論を否定することが人を否定することだと思ってしまう日本の風土は,「情報を疑わない」ことを是としてしまう危険性をはらんでいるのである

2.「メディア・リテラシー」と情報教育

 日本における情報教育の目標は3つに整理されたが,メディア・リテラシーと対応されると次のようになる.

    (1)情報活用の実践力
    ・課題や目的に応じてメディアを活用する際に適切に利用すること.
    ・受け手を意識して発信すること.

    (2)情報の科学的な理解
    ・メディアの特性を理解すること.
    ・情報を処理していく段階での情報の変容を理解すること.

    (3)情報社会に参画する態度
    ・社会生活におけるメディアの役割や影響を理解すること.
    ・情報に対する責任について考えること.

 以上より,メディア・リテラシーは情報教育の守備範囲全般にわたる大切な学習内容であることがわかる.
 あえて違いを明確にさせるならば,日本における情報教育は,特に義務教育段階においては「情報活用の実践力」に焦点があるが,メディア・リテラシーはどちらかといえば「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」に焦点があると言えるだろう.さらには,情報教育がどちらかといえばパーソナルメディアの個人的活用に重心があるのに対し,メディア・リテラシーはマスメディアの影響を大衆を視野に入れて考えることに重心があると言うことができるだろう.

3.メディア・リテラシーはこれからの時代の基礎基本となる

  放送と通信が融合し,これまでいわゆるマスメディアを介して届けられてきた情報は,今後,ビデオ・オン・デマンドのような形に変化し,いつでも必要な映像情報が取り出せるようになっていく.インターネットを通じて得られる情報は文字中心であったが,これからは映像が中心となっていくだろう.
 文字情報を読みとる力の育成に比べて,映像を読みとる力の育成は,ほとんど教育されていないと言ってよい.特に,映像は編集されていることによってわかりやすくなっているということを見失いがちである.このことをきちんと教えていかなければ,所詮は受け身でわかりのよいだけの人間を大量生産してしまうことになる.

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