聖心女子大学教授 永野和男
「情報活用」を軸に教科「情報」を学ぶ
前回まで,高校普通教科「情報」にかかわる背景を解説してきた.今年にはいって,現職教員を対象とした指導者の研修が各地ではじめられた.しかし,参加した先生方の報告や感想を聞いてみると,指導する講師の側にも設置の意図等が十分理解されていないケースがあり,参加した教師をさらに混乱させている.現場ではいまだに,「情報教育は,コンピュータの普及と教育が目的で作られたものだから,キーボードの習熟,典型的ソフトの練習や,インターネット利用法の紹介で十分ではないか」といった考えがある.普通教科「情報」の生みの親の一人としては,残念な限りである.
正直にいって,普通教科「情報」の内容は指導するのに困難なほど難しいというわけではない.実施段階で大切なのは,教科の真のねらいの理解であり,そのために高校で行われてきたこれまでの教育方法を,どれだけ改善できるか,ということである.
情報教育のねらいについて,文部省では,すべての国民が高等学校段階の卒業までに,
の3つの能力をバランスよく身に付けることと定義した.
教科「情報」が高等学校の普通科に,しかも,選択必修の教科として設置されたのも,この3つの能力育成の総仕上げ的な意味がある.
普通教科「情報」は,職業教育としての情報処理教育の教科でも,情報科学の専門教科でもない. しいていえば,「情報活用」を軸として,その背景となる原理や仕組み,社会的な影響などについて演習や討論などを中心として学習を進める,まったく新しい枠組みの教科である.指導には,情報の基礎だけでなく,マルチメディアによるデザイン,作品制作,インターネット利用による社会調査などについても幅広い知識と技術が必要とされる.