静岡大学情報学部教授 永野和男
高校も21世紀の教育に向かって自己改革
新しい学習指導要領の実施では,教師自身も,その役割,指導法,評価などに対する大きな意識変革が求められている.新しい学習指導要領では,「総合的な学習の時間」が設定された.
この時間は,高等学校にも3年間で105−210時間(3学年に均等配分したとしても週あたり1または2時間相当)配当される.総合的な学習の時間では,教育内容や方法に関する指針は示されているが,その具体的な内容や展開(カリキュラム)や評価については,学校の実態や目的に合わせ独自に設定できる.このことは,文部省が教育内容を(学習指導要領や解説書として)決定し,教科書を検定し,教科の指導主事を配して,その実施を監督するという,これまでのカリキュラムの運用方法を根本的に覆すことになる.したがって,この時間の活用によって,新しい学習観に基づく学力向上に成果が上がれば,今後も,このような規制緩和は,ますます拡大し,教育の自由化,学習の多様化が図られることになる.
しかし,逆に旧来の学習観の立場に立てば,明らかに,指導の時間が少なくなった分だけ,定着のための徹底化がされなくなり,いわゆる,知識・理解の学力の低下が数字に表れてくるように見える.そして,「総合的な学習の時間」のような自由化路線は「失敗」と判断され,10年後にはまた,教育内容を細かく規定して,全国民に同じ内容を徹底指導する,古い教育に戻ることになるかもしれない.
高校の教育は,いつのまにか,未来に向かった人間形成の場の提供ということを忘れ,目の前の試験や入試を無事クリアすればよいなど,その場限りの対処を重視するようになってきた.しかし,それでは,国際化や情報化の進んだグローバルな社会において,創造的で問題解決的な人材を育成することはできない.
大学入試の方法や内容も新しい教育課程の成果がでる平成18年ごろには,大きく変化することが予想されている.すでに情報化社会では,まさに情報を活用する能力が要求されている.高校も,21世紀における教育の仕組みの変化に向かって,その役割に柔軟に対応しながら,自己改革を繰り返していくしかない.教師自身も,自らのアイデアと努力によって,学校を望まれる方向に変革していけるように,情報を収集し,判断し,コミュニケーションを進めていくための基礎的な能力(教師の情報活用の実践力)を身につけることが不可欠になってくるのである.