情報授業実践記録
理科目次へ

「通信制の課程における情報教育」

大阪府立桃谷高等学校 通信制課程
中田知里

 
1.はじめに

 本校は大阪府下で唯一の公立の通信制課程を持つ定時制(朝・昼・夜の定時制)と併設された学校である。そもそも通信制の課程とはどのような学校なのだろうと疑問に思われる方も多いと思うので、本校通信制の学習システムについて、まず述べることとする。
 全日制は週5日、毎日6時間の学習システムである。
 通信制は「自学自習」が基本であり、報告課題集(レポート)に合格し、週3日の面接指導(スクーリング)を受け、テストで合格基準を満たした者が単位を修得できる学習システムである。
 レポートは、教科書に基づいて科目担当者が本校独自に作成したものであり、スクーリングとは、一般に言うところの「授業」と思っていただければよい。本校は、年度毎に単位認定していく体制であり、各科目によって年間に課せられるレポート枚数、必要スクーリング出席回数が異なる。テストに関しては、基本的に年3回の合計点数が120点以上(平均して40点以上)であれば合格となる。

 
2.本校通信制の課程における
  生徒実態について

 平成21年5月現在の在籍人数は2190人であり、生徒の年齢層は10代から80代と幅広い実態である。この年齢層の多様性は、教科「情報」にとって色々な課題を持つこととなる。

 
3.本校通信制の課程における
  教科「情報」の展開について

 本校通信制の課程では、「情報A」を必履修科目2単位(2年次生以上対象)として展開している。学習指導要領に基づき、本校ではレポート、スクーリング、テストの合格基準を以下の通りに設定している。

(1)レポート ……年間6枚合格
(2)スクーリング ……年間6回出席
(3)テスト  ……年3回実施、合計で120点以上
 
4.「情報A」の授業内容について

(1)レポート……教科書に基づき、独自に作成する。

(2)スクーリング……「情報A」は年間に14回の授業内容を展開する。学習指導要領に基づき、教室で行う講義を7回、LAN教室での実習を7回と座学と実習を2分の1ずつに分けて展開している。講義、実習では以下の内容に取り組んでいる。

・講義: レポートの内容に補足説明を入れ、生徒が理解しにくいと思われる用語を解説し、時事問題を取り入れながら展開している。
・実習:

[1]

パソコンの基本的な操作方法の習得
(デスクトップ・マウス・キーボードの基本操作)
[2]

文書処理ソフトウェアを用いて案内文作り
(体育祭の案内文を作成)

[3]

インターネットで情報検索
(最寄駅から目的地までの効率的な交通手段探し等)

[4]

表計算ソフトウェアを用いての分析
(ファーストフードのセットメニューを例に、どれくらいのカロリー摂取をしているかを表とグラフを作成し、分析)

[5] プレゼンテーションソフトウェアを用いて自己紹介
[6] 情報モラルを身につけよう
(「ネット社会の歩き方」)
[7] ペイントソフトを使い、カレンダー作成

(3)テスト……レポートに即したテスト問題を作成する。ただし、スクーリング内容が実習の回に出席するとは必ずしも限らないので、スクーリング内容の実習部分についての出題はしていない。

 
5.おわりに

(1)私は、本校通信制の課程に赴任して3年目であるが、生徒の学習に対する真摯な態度に感銘を受けている。生徒層が10代から80代に及ぶと先に述べたが、10代の生徒は小・中学校時代に不登校を経験した者や、前籍校からの編転入生が多い。20代から50代は仕事をしながら、子供を育てながら等、さまざまな事情を抱え勉強している。60代以上の生徒層は、年々減っているが、一番元気よく、前向きに学習する態度には頭が下がる思いでいっぱいである。
(2)幅広い生徒層に対して、授業展開は難しい。例えば、座学で取り入れる話題に「携帯電話」を取り入れたとしよう。若年層は使い慣れているが、年配層にすれば未知の分野でちんぷんかんぷんといった具合である。
 さらに、実習ではパソコンの操作レベルが一様でなく、年配層の生徒についてはパソコンを壊してしまいそうという恐怖感を常に抱く場合が多い。また、若年層であっても小・中学校時代に不登校の場合、家庭にパソコンがあれば使い慣れているが、ない場合、全くパソコンに触れずに高校に入学してくるケースも多い。
 また、年間の必要スクーリング出席回数は6回であるが、これは内容を問わないので、例えば座学の回にばかり6回出席すれば、全くパソコンに触ることなく合格基準は満たすことになる。情報活用能力を身に付けて、単位修得できているかは疑問である。
 上記4.(2)スクーリングの実習内容について紹介したが、通信制のスクーリングは1回完結で授業展開をしなければならない。今日のスクーリングに出席したが、次回のスクーリングに出席するかどうかは分からない。よって、長期的な取り組みができないのが現状である。また、授業時間数を例にとると、全日制は年間70時間(35時間×2単位)確保されるが、本校通信制では年間14時間しか授業を展開できない。実に5分の1の授業時間数である。この少ないスクーリング展開の中、私は1回1回のスクーリングに多くの付加価値をつけ、生徒が何か1つでもいいから得て帰ってもらいたいと願っている。通信制では、授業に代替されるのがレポートであるため、教科書の中でこの部分を理解してもらいたいという意図を入れ、レポート作りに励んでいる。
 最後に、幅広い生徒層への授業展開に日々試行錯誤しながら、「学習できる喜び」というものを本校通信制の生徒から教えられ、教育の原点を振り返ることができたことに感謝している。