情報授業実践記録
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情報科学教育とPBL(問題解決学習)を
有機的に統合したカリキュラムISEC-SeT

京都市立堀川高等学校 情報科
藤岡健史

 
1.はじめに
 −本校専門科目「探究基礎」の概要−

 本校は,普通科の他に専門学科「探究科」を設置している。専門科目「探究基礎」は本校探究科の中心科目であり,配当学年は1年〜2年前期(1年半)である。

 「探究基礎」は週2時間の授業と課外活動で構成されている。内容は表1の通りである。

表 1 「探究基礎」の内容
年・期 1年前期 1年後期 2年前期
内容

クラス単位で
情報活用の実践力
を育成する授業

少人数ゼミでの研究活動


 まず1年前期に,クラス単位で情報活用の実践力(本校では「4つの力」=「受けとる力」「考える力」「判断する力」「表現する力」と呼んでいる)を育成する授業を行う。ここでは,グループでの調べ学習,レポート作成,英語によるプレゼンテーション等を行う。
 次に,1年後期から2年前期の1年間は,少人数ゼミに分かれて授業を行う。本校では,文系,理系合わせて10のゼミが開講されている(文系ゼミ:「国際」「社会・文化」「言語・文学」「心理・教育」,理数系ゼミ:「物理」「化学」「生物」「地学」「数学」「情報」)。各ゼミには約10〜20名程度の生徒が本人の希望により所属し,教員は2〜3名が担当する。このゼミ活動では,生徒個人で研究論文を書き,ポスター発表を行うことが最終目標である。
 本実践報告では,著者の担当する“情報ゼミ”のカリキュラム ISEC-SeT について説明する。

 
2.ISEC-SeTの内容

 情報ゼミでは,ISEC-SeT(Information Science Education Curriculum Based on PBL with Squeak eToy)というカリキュラムを実施している。ISEC-SeTは,前半6ヶ月と後半6ヶ月の2部構成である。カリキュラムの流れを図1に示す。
 前半の6か月(表2)はオリジナルのテキスト(図2)を用いて Squeak eToy と Excel VBA のプログラミングの基礎を実習形式で習得する。ISEC-SeT の最大の特徴は,Squeak eToy を導入している点にある。もともとは初等教育向きに開発された Squeak eToy であるが,著者が高校の情報科学教育に初めて本格導入したところ,PBL 環境として適していることがこれまでの研究で示唆されている。

図 1 ISEC-SeTの流れ

図 2 テキストの一部
(情報ゼミ担当教員による作成)

表 2 ISEC-SeT前半6ヵ月の内容

 後半の6か月(表3)は,生徒自身が問題(課題)を設定し,コンピュータを活用してこれを解くという課題研究を行う。その過程や結果を論文(研究レポート)にまとめ,ポスター形式で発表することが最終目標である。ここでは教員はサポート役となり,適宜面談やディスカッションを通して進捗管理を行い,生徒の主体的な活動を支援する。

表 3 ISEC-SeT後半6ヵ月の内容

 2007年度2年生の研究レポートのタイトルを表4に示す。

表4 2007年度 情報ゼミ2年生 研究タイトル一覧
人工的な細胞による物質の生成過程

堀川高校における実用的な避難シミュレーション

堀川高校登校時のエレベータの時間的有効率

文章の照合プログラムの作成

スクランブル交差点の有用性

人口比率変動計画

多様な要求を反映させる席替え支援システム

堀高食堂改善プラン

イメージに関する色と言葉の関係

人口増減シミュレーション

軍事支出の経済への影響

 
3.評価

 「探究基礎」におけるゼミ活動の評価は,授業への取り組みの様子と成果物を総合して行っている。成果物としては,全ゼミとも共通して,前半のレポート提出2回,後半に中間発表と研究成果発表(ポスター発表),及び論文(研究レポート)を,各ゼミを担当する複数の教員が評価している。
 
4.終わりに

 本校の「探究基礎」は,まず情報活用の実践力(「4つの力」)の基礎を身に付け,それをゼミ活動で実際に活用し,生徒自身が設定した課題の研究レポートを完成させてポスター発表するという流れが構築されている。
 生徒自身の自主性を尊重するため,教員は生徒とのディスカッションを通じて研究の進捗をコーディネートする必要がある。筆者はこの授業を5年間続けてきたが,毎年異なる状況が生じるため悪戦苦闘しながら進めている。しかしながら,常に違うもの,新しいものが生まれるからこそ,教員も生徒と一緒に学ぶことができる。教員側の学ぶ姿勢が常に問われる授業であるが,とても刺激的なカリキュラムであるとも言えよう。