情報授業実践記録
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学習活動に自己評価,相互評価を取り入れた
普通教科「情報」の授業実践
広島県立大和高等学校
栢野彰秀
 
1.はじめに

 平成15年度から普通教科「情報」が実施された。本校では2単位の「情報A」履修後に、1単位の学校設定科目「パソコン基礎」を設置し、学習者自身による自己評価と学習者同士による相互評価を行わせる学習活動を導入した問題解決的な授業を実践している。本稿は、この授業実践を報告するものである。
 
2.「パソコン基礎」授業の内容構成

 授業の内容構成を表1に示した。
表1 授業の内容構成
[1] プレゼンテーションソフトウエアを用いて、自己紹介スライドを作成する。
[2] 作成したスライドをもとに、クラスの友だちの前で自己紹介を行う。
[3] 自分の発表を振り返り自己評価する。クラスの友だちの発表も評価(相互評価)する。
[4] 表計算ソフトウエアを用い、自己評価と相互評価を集計・整理する。
[5] 自己評価と聞き手による相互評価を分析し、発表のよかった点と改善すべき点を見つけ、具体的な改善策を考える。
[6] スライドと発表内容を修正・改善する。
[7] 修正・改善したスライドをもとに、再び自己紹介を行う。
[8] 自分の発表を振り返り自己評価する。クラスの友だちの発表も評価(相互評価)する。
[9] 表計算ソフトウエアを用い、自己評価と相互評価を集計・整理する。
[10] 表計算ソフトウエアを用いて、2回の発表データを分析・検討し、発表の改善された点とさらに改善すべき点を見つける。
[11] よいプレゼンテーションを構成する要素とは何か考える。

 「情報A」における学習を基礎に、自己紹介(以下、発表1と略)をプレゼンテーションソフトウエアを用いて行わせる。その発表を振り返り自己評価を行うと共に、クラスの友だちの発表も評価(相互評価)する。それらの評価を比較・分析し、自らの課題を見つけ、プレゼンテーションの改善を行い、発表(以下、発表2と略)し、再び自己評価及び相互評価を行う授業構成となっている。2枚の写真は、生徒によるプレゼンテーションの一場面である。


写真1


写真2

 授業対象者は、直前に2単位の「情報A」の履修を終えた1年生1クラス29名である。授業は全30時間で構成され、TTによる指導で、平成15年11月初旬から平成16年3月中旬にかけて実施された。

 
3.評価項目一覧

 表2には、評価項目一覧が示されている。自己評価,相互評価とも同一の評価項目を用いた。
表2 評価項目一覧
項目番号 評 価 項 目
1 声の大きさは適当か
2 話す速さは適当か
3 話にメリハリがついているか
4 間の取り方は適当か
5 発表態度に好感が持てるか
6 聞き手との双方向コミュニケーションが成立しているか
7 スライドが主題と合致しているか
8 スライド画面が話している内容と合致しているか
9 スライド画面の強調したい部分がよく分かるか
10 スライドごとの時間配分は適切か

 表2に示された10の評価項目には、図1のような4段階の評定尺度を与え、そのどれに該当するか回答させた。授業評価の際には、それぞれの評定尺度に与えられた数値に分析を加えた。


図1 4段階の評定尺度

 
4.まとめと考察

 自己評価及び相互評価の全項目平均値の変化から、プレゼンテーション全体の傾向を考察したい。表3には、発表1,2における自己評価及び相互評価のクラス全員の全評価項目平均値が示されている。
表3 発表1,2における自己評価及び相互評価のクラス全員の全評価項目平均値

発表1
発表2
自己評価 2.07 2.51
相互評価 2.88 3.23

 表3より、自己評価,相互評価とも発表1よりも発表2で有意に増加している
  (自己評価,t=6.4,df=25,p<0.01;相互評価,t=12.2,df=25,p<0.01)。

 「情報A」で学んだ知識と獲得したスキルを用いて行った発表1の平均値は2.07であり、“やや努力を要する”段階の発表であると自己評価していることが分かる。相互評価は自己評価の値を上回ってはいるものの、その平均値が3を超えていないため“よい”発表の段階には至っていないと聞き手も見ていることが分かる。
 発表1における自己評価と相互評価を比較することで自己の課題を見いだし、プレゼンテーション全体に修正を加えた発表2においても3以上の評定が行われていないため、発表1に比べ改善はされてはいるが、未だ“よい”段階のプレゼンテーションには至っていないと自己評価していることが分かる。だが、発表2における相互評価の平均値は3を超え、発表1を修正・改善して“よい”発表になっていると聞き手は見ていることが分かる。
 表2に示されたそれぞれの評価項目ごとの自己評価及び相互評価の発表1に対する発表2の評定も同様な傾向を示した。
 自己評価及び相互評価の平均値の分析より、自己紹介プレゼンテーションの改善のために、自己評価から自らの学習を振り返ると共に、他者からの評価と自己評価を比較し、自らの学習課題を見つけ出し、プレゼンテーションに工夫改善を加え、よりよいプレゼンテーションを作り上げていった学習過程が明らかになったといえよう。
 加えて、生徒の感想文からは、よいプレゼンテーションを行うために「情報A」の学習で獲得した知識やスキルをリンクさせ、学習が行われたことが明らかになった。
 これらのことから、普通教科「情報」の学習に自己評価と相互評価を取り入れた学習活動の有効性が分かる。

 
5.おわりに

 学習を振り返り自己評価を行うだけでも、自らの学習課題を見つけ出すことができよう。しかし、同一の項目で行われた他者による評価(相互評価)と自己評価を比較することによって、自己評価では気がつかなかった点も分かることがある。自己評価と相互評価を同時に行うことによって、自らの次の学習課題がより明確になる。そして、その課題を解決する活動は、まさに問題解決的な学習といえるのではないか。加えて、自らが見つけた学習課題を解決するためには、「情報A」で獲得した知識やスキルを互いにリンクさせたり、再構成する学習活動の必要性がある。
 このように、普通教科「情報」の授業に自己評価、相互評価を取り入れた学習活動は、同教科の主旨である「総合性を重視し、具体的な問題解決の過程で情報を扱うための見方や考え方が必要かつ有用であることを認識させ、それを学習していくこと。」が具現化できるのではないかと筆者は考えている。