生徒が主体的に学習するコース別選択学習の指導
−ティーム・ティーチングの活用を通して−
福岡県遠賀郡芦屋町立芦屋中学校
堀内 修史
1.はじめに
 ティーム・ティーチング(以下,「T・T」と略す)とは,自ら学ぶ意欲や思考力,判断力,表現力などの育成を学力の基本とする新しい学力観に立った取り組みの1つである。また,その活用については,さまざまな実践が各学校で積極的に進められている。
 ここで,T・Tのよさを確認しておくと,
(1)複数の教師が指導にあたるため,生徒の能力や適性,興味・関心の違いなど,学習の個別 化・個性化を図ることができる。
(2)複数の教師が学習指導のP−D−Sの各段階で協力でき,より計画的,意図的に学習指導 ができる。
(3)複数の教師が役割を分担して指導にあたるため,より教師の専門性が発揮できる。
(4)複数の教師が指導にあたるため,内容,方法,時間等に弾力的な指導が期待できる。
などである。したがって,数学の授業の中にコース別選択学習を設定し,T・Tを積極的に活用すれば,生徒自らが主体的に学習する態度が育成されると思われる。

2.授業の実際

      T・T週時程表
 
1−31−53−5 1−4
 3−1 1−3 
3−3   1−5
1−11−41−23−4
3−2   
1−2 3−61−1
 授業実践を進めるにあたって,1年と3年の授業を設定し,T・Tの週時程表を作成した。

*M:打ち合わせ時間


3.年間指導計画
 単   元重点指導内容主な形態



1 正の数・負の数
2 文字を使った式
3 方程式
4 変化と対応
5 平面図形
6 空間図形
・正の数・負の数の加法,減法と乗法,除法
・文字式の計算
・方程式の計算
・正比例や反比例のグラフのかき方
・基本の作図の仕方
・立体の断面
形態2
形態2
形態2
形態1
形態1
形態1



1 式の計算
2 平方根
3 二次方程式
4 関 数
5 円の性質
6 図形の計量
7 確率と標本調査
・式の乗法,除法と因数分解の仕方
・平方根の計算
・二次方程式の解
・y=ax2 のグラフ
・円周角
・三平方の定理
・確率の求め方
形態2
形態2
形態1
形態1
形態2
形態1
形態1
*形態1・・・一斉授業でT1が授業の中心となり,T2が補助する形態
 形態2・・・一斉授業で確認問題をするとき,T1とT2ができる限り多くの生徒に個別指導が行えるようにしている形態

4.指導にあたって 単元名「方程式」
 中学校1年での「数と式」の内容は,中学校の全領域と深い関わりを持ち,また,それらの基礎となる重要な位置を占めている。その中でも,方程式の指導は数量の関係を一般的に,かつ簡潔に式に表現できることやそれらを操作したり形式的に処理したりすることで容易に結果を導くことができることから,数学的な見方・考え方のよさを生徒に味わわせることができる単元であると考えている。
 生徒はこれまでにも,小学校でかなり方程式に深く結びついた内容を学び,また,中学校でも「正の数・負の数」で,方程式がいつでも解を持つように,数を負の数まで拡張して学習している。さらに,「文字の式」においては,数量関係を文字式を使って式にしたり,簡単な式の計算ができるように学習している。
 そこで,方程式を導入することにより,これまで解けなかったさまざまな事象を簡単に解くことができることに気づかせることは,物事を幅広く考察し,処理する能力を高めることができると考えられる。

 本学級の生徒は,男子20名,女子18名で構成されている。与えられた課題に対しては一生懸命に取り組み,授業態度も意欲的である。これまでに学習した「正の数・負の数」や「文字の式」の単元の実態調査では,約80%以上の生徒が基礎的な計算を理解しているが,難度の高い計算になると逆に,約30%の生徒しか理解ができていない。また,「文字の式」の単元では,文字の導入にともなって,さらに計算力の低下が著しい。これは,文字に対する抵抗感が計算の能力を妨げていると思われる。さらに,中学校入学時点で小学校の基礎的既習事項である「かけ算」や「わり算」などにおいても,計算能力や計算速度にかなりの個人差が生じている。

 本単元の指導にあたっては,まず,文字に対する抵抗感をなくすため,簡単な例題や身の回りの事象を取り上げ,文字の計算が数字の計算と同じようにできることを理解させたい。次に,既習事項が定着するように,授業の導入部分やまとめの部分で,前時や本時の学習内容の確認問題を解かせたい。また,本単元においては,個人差に応じた学習指導の展開を考え,授業の設定としてコース別学習を取り入れた。これは,生徒が自分の習得段階を判断して,いくつかのコースに分けた練習問題の中から,自分に合ったコースを選択することによって興味・関心を持ち,自ら課題を解決しようとする意欲を高めることをねらいとするものである。さらに,本単元の学習指導にあたっては,T・Tを活用したい。すなわち,T1が一斉授業での指導を行い,T2が個別指導を行って学力の定着を図り,生徒一人ひとりの問題解決能力が高まるようにしていきたい。

5.単元指導計画
       方 程 式                   配当時間:12
時間

・文字を含んだ等式から,文字の値を求める方法を知り,これを用いて実際の問題を形式的,能率的に処理できる。
 そのために,
(1) 方程式とその解の意味を知り,一元一次方程式が解ける。
(2) 方程式を問題解決に利用できる。
配時指導内容指導形態



§1 方程式とその解・方程式を利用すると問題解決が容易になること
・方程式とその解の意味と,方程式を解くことの意味
・等式の性質と,それによる簡単な方程式の解き方
一斉
2(援助)
§2 方程式の解き方




§3 方程式の利用




・移項の意味(本時)
・いろいろな形の一次方程式の解き方



・方程式をつくる手順
・方程式を使って問題を解くこと
・方程式の解を問題について吟味すること
・方程式を使って問題を解く手順のまとめ

一斉
2(援助)
個別指導
コース別

一斉
2(援助)
個別指導

演 習 個別指導
コース別

6.本時の指導
(1)本時の授業設計
 本学級は,前時までに等式の性質を用いた1次方程式の解き方を学習し,さらに,前の単元「2 文字の式」でも文字式の計算や数量関係を式で表すことを学んでいる。しかし,同じ文字どうしの計算や等式の式変形の操作が十分定着していない生徒もいる。そこで,本時では,生徒たちの個人差に応じた授業の設定としてコース別学習を取り入れた。これは,生徒が自分の習得段階を判断し,基本問題と発展問題の2コースに分けた練習問題の中から自分に合ったコースを選択し,興味・関心を持って意欲的に取り組み,生徒一人ひとりが主体的に学習できるようにするものである。
 なお,T1は基本問題を選択した生徒を,T2は発展問題を選択した生徒を中心に個別指導の徹底を図りたい。
(2)本時の主眼
 1)方程式が,移項を使って解くことができる。
 2)基本問題と発展問題のコース別学習を主体的に選択し,自ら進んで問題を解こうとする。
(3)準 備
 教師・・教科書,学習プリント,模造紙,マジック
 生徒・・教科書,ノート,筆記用具
(4)展 開

学習内容
学習活動
教師の役割と指導上の留意点形態配時
12

1 前時の学習内容を確認する。
2 方程式の基本的な解き方についての説明を聞き,本時のめあてを確認する。
・等式の性質を使って方程式が解けることを確認させる。・机間指導をして理解できていない生徒に説明する。一斉
個別
10分
方程式を移項を使って解こう!

 


3 方程式
 4x−15=9
 の解き方の説明を聞く。
・何を移項するか見つけさせる。・見つけだせない生徒の横について援助・支援をする。一斉15分
4 方程式
 8x=5x−21
 の解き方の説明を聞く。
・方程式の解を求めさせる。・解の求め方について援助・支援する。個別
5 学習プリントの問題1を教師の説明を思い出しながらする。・問題1をするように指示し,机間指導をして理解できない生徒に援助・支援する。・T1と同様に机間指導して,理解できない生徒の援助・支援をする。個別
6 答え合わせをする。・生徒数名を指名し,答えを言わせる。・間違えた生徒への援助・支援をする。一斉
7方程式
 7x−2=6+3xの解き方の説明を聞く。
・理解できない生徒の横についてかっこをはずすように指示する。・T2が一斉指導を行い,どのようにして解くかを説明する。一斉
8 学習プリントの問題2をして理解できたかどうかを練習問題をして確認する。・練習問題をするよう指示し,机間指導をして理解できない生徒に援助・支援する。・T1と同様に机間指導をして,理解できない生徒に援助・支援する。個別
9 答え合わせをする。・生徒数名を指名し,答えを言わせる。・間違えた生徒にどこで間違ったかを指摘する。一斉

 


10 これまでの方程式の解き方を確認し,自分に合ったコースを選択し,問題を解く。・本時の方程式の解き方を確認させ,コース別の練習問題をするよう指示する。・Aコース,Bコースのプリントを生徒に配る。一斉

個別



個別

15分
〔コース別選択学習〕
 〔Aコース基本問題〕
・T1は,主に基本問題を選択している生徒の援助・支援をする。特に,理解できていない生徒には,そばについて指導する。

 〔Bコース基本問題〕
・T2は,主に発展問題を選択している生徒には,最小限のアドバイスをして援助・助言する。



14 本時のまとめとして,Aコース,Bコースのコース別確認テストを受ける。・Aコース(基本問題)を選択した生徒の採点をする。・Bコース(発展問題)を選択した生徒の採点をする。個別10分
15 今日の授業を振り返って,自己評価用紙に記入させる。・本時を振り返って自己評価用紙にまとめさせる。・机間指導をして,自己評価用紙に記入するよう指示する。

今日の授業を振り返って自己評価をしよう

1年(  )組(  )番 (           )
1.今日の学習に意欲的に取り組めましたか?
2.方程式の解き方がわかりましたか?
3.このような授業を続けていきたいと思いましたか?
4.今日の授業の感想を書いてください。
 
 
 

(5) 考 察
 授業後の「自己評価集計結果」より
1)今日の学習に意欲的に取り組めましたか?
2)方程式の解き方がわかりましたか?
3)このような授業を続けていきたいと思いましたか?
 評価項目1),3)の結果から,全体的に見て大変意欲的に取り組んでいることがわかる。
また,評価項目2)からも,この授業形態(コース別選択学習)は,効果があったといえる。
 生徒の感想文をまとめると,次のような内容が多かった。
集中できた。
緊張したけどおもしろかった。またやりたい。
方程式の解き方がよくわかった。こんな授業をまた受けてみたい。
今日の授業はすごくよかった。わかりやすかったし,一生懸命に取り組めた。

7.指導の成果
 数学科に本年度初めてT・Tの加配を受け,1年と3年で計画・実施している。
 これまでの取り組みの成果としては,次のようなことが挙げられる。
複数の教師で指導にあたるため,より多くの生徒に関わることができ,つまずいた生徒や理解の遅い生徒に援助・支援ができるようになった。
生徒の個人差に応じた授業設定を考えるようになり,生徒が主体的に授業に参加するようになってきた。
校内授業研修会を実施し,全職員でT・Tのよさやその方法について認識を深めることができた。
複数の教師で意見を出し合うことで,教材研究をより深めることができた。

8.課 題
 今後,さらに生徒一人ひとりの個性に応じた学習活動を進めていく上で必要なことは,次のようなことが考えられる。
(1)T・Tを取り入れたことで生徒一人ひとりに細かい個別指導ができるが,生徒は教師にすぐ頼ってしまい,試行錯誤する時間が減る傾向がある。生徒への助言・援助のタイミングをもっと工夫する必要がある。
(2)T・Tの役割を明確にし,その分担を話し合う時間や授業後の評価を生かすための打ち合わせの時間の確保を工夫することで,もっと効果的な授業実践が可能になると思う。
(3)T・T配当教科だけでなく,配当外の教科や学校全体におけるT・Tの実践を推進していけば,生徒一人ひとりの個性をもっと伸ばすことができると思う。

[資料1]
 1年 数学(方程式)学習プリント
  1年( )組( )番 (   )
   Aコース・基本問題
 次の方程式を解きなさい。
 1 x+2=7
 2 x−6=8
 3 2x−5=3
 4 7x+6=−15
 5 6x+4=8
 6 8x=6x+12
 7 −4x=−5x+6
 8 8x−12=5x+9
 1年 数学(方程式)学習プリント
  1年( )組( )番 (   )
   Bコース・発展問題
 次の方程式を解きなさい。
 1 7x=2x+15
 2 6−5x=−4x
 3 5x−12=−7x−6
 4 30−4x=6−10x
 5 7x+1=9x−11
 6 −4x+5=33x+35
 7 27x−31=33x+35
 8 19.5x−38.3=0.5x−0.3
 
[資料2]
  Aコース・基本問題テスト
  1年( )組( )番 (   )
 次の方程式を解きなさい。
 1 x+3=5
 2 6+x=9
 3 6x=5x+4
 4 2x−5=5
 5 7x−2=5x+10
  Bコース・発展問題テスト
  1年( )組( )番 (   )
 次の方程式を解きなさい。
 1 7x−17=3x−5
 2 −4−4x=9x+16
 3 −12x+9=−15x+24
 4 25x−37=−13+21x
 5 21.3x−35=18.3x−14


前へ 次へ

閉じる