1.はじめに
1分野下「化学変化とその利用」の単元では,現在の私たちの生活の中で大切な役割を果たしている(化学)電池が,物質の化学エネルギーを電気エネルギーとしてとり出す装置であることを学習する。
現行の教科書では,電流を通す水溶液(電解質水溶液)に2種類の金属をひたすと化学変化が起こり,電気エネルギーをとり出すことができることを,実験を通して確認させる。
しかしながら,電解質水溶液を入れたビーカーに金属板を入れた装置(化学電池)は,日常生活で私たちが使用する乾電池の小型・軽量・携帯性といったイメージとはあまりにもかけ離れており,水溶液が漏れないように工夫され,しかも内部が確認できない乾電池と同じはたらきをすることが,十分に認識できない場合が多い。
そこで,フィルムケースとスライムを利用して,より乾電池に近い化学電池を作成し,本単元の補助教材として活用することを考えた。
2.教科書の単元について
啓林館版 未来へ広がるサイエンス 1分野下 |
6単元 |
「化学変化とその利用」 |
第1章 |
「化学変化とエネルギー」 |
第2節 |
「電池のしくみはどのようになっているのか」p.86 |
・ |
化学変化によって電流を取り出す実験を行い,エネルギー変換装置として電池を理解させる。 |
・ |
化学エネルギーと電気エネルギーの関係について理解させる。 |
1 |
目標 |
(1) |
物質やエネルギーに関する事物・現象に対する関心を高め,その中に問題を見いだし意欲的に探究する活動を通して規則性を発見したり課題を解決したりする方法を習得させる。 |
(4) |
物質やエネルギーに関する事物・現象を調べる活動を通して,日常生活と関連付けて科学的に考える態度を養うとともに,自然を総合的に見ることができるようにする。 |
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2 |
内容 |
(6) |
物質と化学反応の利用 |
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物質と化学反応に関する事象の観察,実験を通して,物質と化学反応の利用について理解させるとともにこれらの事象を日常生活と関連付けて科学的にみる見方や考え方を養う。 |
ア |
物質と化学反応の利用 |
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(イ) |
化学変化によって熱や電気を取り出す実験を行い,化学変化にはエネルギーの出入りが伴うことを見いだすこと。 |
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ア |
身のまわりにあるいろいろな電池について興味をもち,調べようとする。(自然現象への関心・意欲・態度) |
イ |
身近な材料で電池をつくることができる。また,他の電池の実験の結果も,発表を聞いて正確に記述することができる。(観察・実験の技能・表現) |
ウ |
電池をつくる条件について理解する。また,電池のしくみについて理解し,知識を身につけている。(自然現象についての知識・理解) |
3.教材づくりについて
ア |
スライムづくり |
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ほう砂(四ホウ酸ナトリウム),ビーカー,薬さじ,ガラス棒,お湯,合成洗濯糊(PVA:ポリビニールアルコール),スチロールコップ,こまごめピペット,割り箸 |
イ |
電池ケースづくり |
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銅板(4.5cm×9.0cm,厚さ0.1mm),マグネシウムリボン(約12cm),フィルムケース,電子オルゴール,みの虫クリップ付き導線,金切りバサミ,カッターナイフ |
ア |
ほう砂10gをビーカーに入れた100㎖のぬるま湯に入れ,よくかき回して飽和水溶液をつくる。とけきれないほう砂が残るので,しばらく静かに置いてから上澄み液を使う。 |
イ |
合成洗濯糊(PVA)50㎖をスチロールコップに入れ,水50㎖を加えて素早くよくかき混ぜる。水を入れる量によって,スライムの固さが変わる。 |
ウ |
アでつくったほう砂水溶液の上澄み液をピペットなどでとり,イの水でうすめた洗濯糊の中に少しずつ加えながら,割り箸でよくかき混ぜる。指で触ってべとつかない程度になったら,液を加えるのをやめる。これでスライムができあがる。 |
ア |
銅板を(図4)のように加工してから,丸みをつけて,フィルムケースの中に押し込む。 |
イ |
フィルムケースのフタの中央にマグネシウムリボンが通る穴を,縁の部分に銅板の電極が通る穴を,それぞれカッターナイフで開ける。 |
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ウ |
銅板を入れたフィルムケースの中に薬さじでスライムを入れ,イで穴を開けたフタをして,中央の穴に2つ折りにしたマグネシウムリボンを差し込めば,スライム電池ができあがる。 |
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4.まとめ
今回作成したスライム電池では,銅が+極,マグネシウムが−極になっており,電子オルゴールを接続すると,軽快に音楽が流れた。電圧計を使って起電力を測定してみると,1.5V以上を示したことから,本単元での化学電池の1つとして,十分に活用できることが確認できた。
また,幼少時に遊具の1つとして触れたことも多いと思われる「スライム」というゲル状の物質とフィルムケースを使用したことから,水溶液が漏れないという点で,より乾電池に近い化学電池として,生徒の興味・関心を引くものと考えられる。
しかしながら,電解質として用いた「ほう砂」は,日常の理科実験では全く使用しない薬品であるため,事前に電解質であることを確認する実験とほう砂の水溶液で化学電池ができることを確認する実験を行った上で,スライム電池づくりに取り組んだ方がより望ましいと思われる。
5.参考・引用資料
理科おもしろ実験講習会テキストVol.2 (2000) 内田洋行 教育システム事業部 発行
オンライン自然科学教育ネットワーク ONSENキッズ ホームページ
http://g3400.nep.chubu.ac.jp/onsenkids/craft/slime-b/slime-b.html
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