授業実践記録

個に応じた指導(発展的内容の学習)〜生物単元における観察・実験の工夫〜
神奈川県川崎市立富士見中学校
織笠 友彰

1.はじめに

 20世紀の100年間は「科学の世紀」とも称されるように,科学の飛躍的な発展がありました。科学技術の発展は現在の私たちの身のまわりのものだけではなく,ひいてはひとつの国のみならず,地球,そして宇宙へと広がっています。現在の科学技術の発展はわれわれ人類のあくなき探究心がもたらしたものだと思います。

 そして21世紀となった今,情報技術(IT)の飛躍的な進歩により,子供たちはインターネットをはじめとする,さまざまな先端技術に容易に触れながら生活をしています。しかし,実際の体験から離れたバーチャル(擬似的な)世界が作る映像と音響だけでは,本当の意味での五感に訴える力が足りないように感じるのです。すばらしい映像資料や,視聴覚機器の体験も授業に取り入れているものの,実物を目にしたときの「すごいっ!」「何?」「不思議だ!」という生徒たちの生の声が発せられる瞬間にこそ,本当の感動があり,心を揺さぶるような体験が伴っているのではないでしょうか?そしてその体験が新たな知的好奇心を刺激し,本当の意味での学習への興味・関心が育つのではないでしょうか?われわれ理科の教師においては,学校で行う授業の中で,そのような場の設定や条件の整備が求められているのだと思います。


2.研究の概要

 今回,私は「動物の体のつくりとはたらき」の単元では十分な観察・実験が必要と思い,さまざまな実験実習を取り入れました。小学校でも行う実験の振り返りはもちろんのこと,身近な道具でできる簡易な実験を心がけました。実験の準備の時間をできるだけ簡略化し,「最小限の準備で最大限の効果」が得られるように考えたつもりです。

 また,食品として手に入れることのできる食肉や食用の内臓等を利用しての大々的な解剖実習ではなく,簡単な準備でできる観察・実験を試みました。回を重ねるごとに生徒の観察・実験に対する抵抗感も少しずつ和らぎ,積極的に取り組むように変わっていくのを感じました。生徒自身の体験から動物の体のつくりについての理解を深め,学習の深化を図りました。単元の最後には,授業で習った知識を整理して発表させる「課題発表学習」を取り入れて,自分で説明したり,質疑応答のやり取りをしたりすることによって更なる知識の定着を目指しました。


3.研究の内容

単元名               2年2分野 第3章「動物のくらしとなかま」
 
1. いろいろな動物 2. 感覚と運動のしくみ 3. 生命を維持するしくみ
単元のねらい
   本単元は,身近な動物の観察や実験を通して,動物の体のつくりとはたらきを理解させるとともに,動物の種類と,その生活についての認識を深めるのがねらいである。その中で,生命尊重の態度を育てることも重要である。


4.単元指導計画

「動物のくらしとなかま」 全21時間扱い + ゆとりの時間5時間
※実験の詳細は後ろにまとめて掲載しました。
1.いろいろな動物 8時間  
1 動物の生活とからだのつくり
 5時間 
植物と違った動物の特徴を考えよう
 
実験1
  動物イメージクイズ
   
せきつい動物の生活や体のつくりを調べる
 
実験2
  動物フィギュアスケッチ
(目のつき方・からだのつくり)
2 動物のなかま分け
3時間
せきつい動物の生活と体の特徴をまとめる
2.感覚と運動のしくみ 5時間  
1 感覚
2時間
感覚器官
 
実験3
  ひとみとこうさいのしくみを調べよう!
黒目と白目
 
実験4
  盲点を探そう。目の疲労について
〜見えない色〜
 
実験5
  ブタの眼球を見てみよう!
 
実験6
  鼓膜の振動を体感しよう!
2 運動
1時間
運動器官
 
実験7
  膝蓋しつがい反射・ピョコッとキック!
 
実験8
  ニワトリの手羽先を動かそう!
(関節と筋肉の観察)
3 神経
2時間
神経系
 
実験9
  ニワトリの脳を見よう!(神経系の観察)
 
実験10
  ものさしキャッチ・パルスチャンピオン
3.生命を維持するしくみ 8時間  
1 食物の消化と吸収
3時間
消化のしくみ
 
実験11
  だ液のはたらき(アミラーゼの観察)
   
消化管の観察
 
実験12
  消化管を観察しよう
(ブタの消化管の観察)
 
実験13
  小腸ってすごいっ!(小腸の観察)
2 呼吸
1時間
呼吸
 
実験14
  ペットボトルと風船の肺(呼吸系の観察)
3 血液とその循環
4時間
血液の成分
 
実験15
  血液を顕微鏡で見てみよう!
(赤血球の観察)
血球をイメージしよう!
   
血液の循環
 
実験16
  心臓を体験しよう!
(ブタとトリの心臓の観察)
 
実験17
  心音を聞いてみよう!
(お医者さんごっこ)
 
実験18
  赤い血? 青い血?
(血液と酸素の関係の観察)
 
実験19
  血液成分のモデル
   
排出
 
実験20
  人工尿と人工汗(排出成分の観察)
ゆとりの時間 5時間  
課題発表学習
5時間
課題発表学習の説明と計画書の記入
課題発表学習の準備
課題発表(提案)

5.各実験について

実験1
  動物イメージクイズ

動物イメージクイズ(アリ・ニワトリ・ヒトの消化器官の想像スケッチ)
生徒の既有の知識の確認が目的であり,生活体験の実態が分かる。以下に生徒のものを載せておきます。
キリン・ゾウについては実験2のフィギュアのスケッチを載せておきます。
  ※ これまでの研究収録・学習指導事例集を参考にしてみました。

実験2
  動物フィギュアスケッチ(目のつき方・からだのつくり)

 「トイザらす」などの大型子供玩具売り場で動物の小さな模型(フィギュア)を使用。40体で4000円ぐらいのものを購入しました。思いのほか本物に忠実なつくりで,細部まで精巧にできているため観察やスケッチに最適であると判断し,1人につき1体を配布し,スケッチをさせた。
 「微生物のように動かないから描きやすい」「触っても怖くないので安心」という生徒の意見がありました。
 また,草食動物と肉食動物の目のつき方のちがいについてもフィギュアにて確認できる。その際に目のつき方については遠近感の説明をする。
       
参考実験
片目・両目のときにペンの先端をくっつける実験。(遠近感の説明)
      両手にペンを持ち,ひじを伸ばしてまっすぐ前方に出し,片目・両目でペンの先端を合わせる簡単な実験です。(右写真)
       
参考資料
NHKビデオ「生命第7集 昆虫たちの情報作戦」は複眼についての説明があります。
      学習指導要領外ですが,無脊椎動物についての補足で使っても良いと思いました。

実験3
  ひとみとこうさいのしくみを調べよう!黒目と白目

教科書の方法では暗幕の無い教室では実験ができず,懐中電灯は数量の関係と目を傷める可能性があるので別の方法を考えました。非常に簡易で効果的です。
       
実験方法
  1 2人1組となって,1人が目を閉じて,約1分間目に光を入れないようにする。
      2 1分経過したらゆっくりと目を開け,もう1人にひとみの大きさの変化を観察させる。

実験4
  盲点を探そう。目の疲労について。〜見えない色〜

盲点を探そう
       
実験方法
  盲点試験用紙(右図)を配布し,その説明にしたがって盲点をさがす。

この部分が盲点となる
視神経の疲労
       
実験方法
  1 赤と緑もしくは青と黄の色紙を使って補色の関係の説明をする。
      2 白い紙に載せた緑色の紙を30秒ほどじっくりと見つめたのち,色紙を取り除くと・・・(視神経の疲労による)

 ここに述べた2つの実験は単純さの割にはかなり効果的でした。「見えるはずのものが見えなくなる。見えないものが見えてくる」という単純な驚きがあったようです。

実験5
  ブタの眼球を見てみよう!

             切る
 昔であればウシの眼球を使用していたが,BSEの関係で今は禁止されています。
 マグロの眼球でも観察ができるようですが,今回はブタの眼球で行いました。
       
実験方法
1 ペトリ皿にのせた眼球をピンセットと解剖用はさみ・カッターナイフ(安全カミソリ)で真ん中から2つに割る。
  2 レンズのついているほうは,レンズをピンセットで取り出し,観察する。文字の上にのせると凸レンズと同じ効果がある。
  3 視神経のついているほうは,網膜内部の黒い部分を観察する。
なぜ内部が黒いのか?を考えさせるとよい。(→ 眼球にひとみ以外からの光を入れないため。)

 大手の食肉店に頼んでおくと眼球ならば用意してくれるかもしれません。

実験6
  鼓膜の振動を体感しよう!

音の伝わり方の確認
 音叉を使った実験で空気の振動によって音が伝わることは1年時に学習済みである。もっとダイナミックかつ単純に理解させるために行いました。
 (※注 理科室などの普通教室とは離れた部屋で行うこと。)

 大太鼓を使って空気の振動をからだで感じてもらいました。空気の振動が鼓膜の振動につながることが理解しやすくなったようです。

実験7
  膝蓋しつがい反射・ピョコッとキック!

いわゆる脚気(かっけ)の反応。ひざをたたくハンマーは音叉(おんさ)のもので代用した。(写真右)
  ハンマーは,ゴム栓に穴を開け,割りばしにさしたものでも代用した。
  TVのコントなどではよくネタとして紹介されていているが,実体験は少ない模様。
  知識としての理解ではなく,体験としての理解が印象に残ることが実感できました。
  2〜3人の演示でも十分興味を引く。実際に見ること,体験することが重要です。
   ※特に疑り深い生徒ほど効果が高いようでした。

実験8
  ニワトリの手羽先を動かそう!(関節と筋肉の観察)

 ニワトリの生の手羽先の観察によって,筋肉の伸び縮みと骨・関節の関係などをとても分かりやすく理解することができる。(手羽先の関節はヒトでいう手首に当たります)
 なお,観察の際にはラテックス製の密着するタイプの手袋を使用しました。これによってかなりの心理的な面での負担が減るという生徒の意見がありました。また,衛生面でも安全です。(※ただしラテックスのアレルギーがあるらしいので事前に確認が必要)
 費用は1枚10円程度です。大きなドラッグストアで販売しています。なお,ビニール製のものはより安価ですが,使用感が悪く,操作性もよくないのであまりお勧めできません。
       
実験方法
1 皮と肉の間からちょっとずつハサミを入れながら皮を切って,筋肉を露出させる。
  2 関節の部分の皮を慎重にはがすと,骨についた白い帯が見える。これが腱やじん帯です。
  3 筋肉の間には膜があるが,筋肉をより分けながらハサミを入れる。
  4 筋肉と腱のつながりが見えるように慎重かつ,丁寧に作業を進める。
  5 筋肉を引っ張って骨の動く様子を観察する。
  6 骨を引っ張って筋肉の動く様子を観察する。
  7 筋肉の伸び縮みによって身体が動くことを体験から考えさせる。

       
参考資料
  骨・筋肉は骨格標本があればそれを使用するのが良い。可動性ならばなおさら良い。
      本校には骨格標本がないので選択理科の時間を使ってペーパークラフトの組み立てを行いました。
       
参考実験
  実際に生徒同士で力こぶを観察させました。腕の曲げ伸ばしによる筋肉のふくらみの確認の有無。
      演示実験にはクラスの筋肉自慢に半袖で出演してもらいました。脂肪分が少なく見やすいです。

実験9
  ニワトリの脳を見よう!(神経系の観察)

 鶏頭水煮缶(ニワトリの頭をゆでたもの)を使用。ドッグフードの缶詰です。
 大型のペットショップやホームセンターで売っている「鶏頭水煮缶」を使用して,脳の観察を行いました。生体ではないのですが,解剖になると思います。しかもかなりグロテスクなので最初は生徒のかなりの抵抗が予想されます。
 また,使い捨ての密着型のゴム手袋がこの観察では非常に重宝します。
 
実験8
にて説明済みですが,この実験を素手で行うのはかなり厳しいと思います。

      
実験方法
 
1 シャーレにのせた鶏頭1個をピンセットと柄つき針,カッターナイフで頭皮の部分をはがしとる。 その後,頭蓋骨の合わせ目を確認する。
(↑頭蓋骨はいくつかの骨が合わさっていることを確認)
2 頭蓋骨の部分を丁寧にピンセットで取り除き,脳の部分を露出させ,その様子,大きさなどを観察する(スケッチの技能の評価)。
3 脳の周りの部分をピンセットで丁寧に取り除き,脳の部分だけを取り出す。大脳とそれにつながるせき髄の部分,そして視神経につながる部分の観察ができる。
(二股に分かれていることを確認)

実験10
  ものさしキャッチ・パルスチャンピオン

       
参考実験
  ものさしキャッチの実験
教科書に載っている反応速度を数値化できる分かりやすい実験。
  とても分かりやすく単純明快なので,生徒が熱中する実験です。
       
参考実験
  トレーニングによる反応速度の向上の実験
10人ぐらいで1列になって手をつなぎ,前の人が手を握ったら次の人の手を握り,刺激を伝達する。繰り返し行うことによって反応速度もアップする。感覚神経と運動神経の説明を入れると効果的です。
   
※陸上競技のフライングの話 人間の場合,脳から足まで刺激が伝わるのには約0.1秒かかるといわれています。そのため,オリンピックや世界陸上などの陸上の大会では,スターティングブロックにセンサーがついていて,それ以前にスタートを切った場合には自動的にフライングとされるようです。

実験11
  だ液のはたらき(アミラーゼの観察)

 教科書の実験です。だ液採取の際に脱脂綿を使うことに抵抗があるようなので,ストローを使って直接試験管にだ液を入れました。定量的な対照実験はできないが,時間短縮と抵抗感の軽減になりました。

実験12
  消化管を観察しよう(ブタの消化管の観察)  
実験13
  小腸ってすごいっ!(小腸の観察)

消化管について
 「NHKビデオ 人体  第2集 消化吸収のメカニズム」
 「NHK理科探求ビデオ 消化について」
これらの映像を見せてから授業を行いました。ややもすると食物の道筋のみの説明になりがちですが,生徒の「消化」に対するイメージができるようです。
   また,消化器官や内臓についてはブタのものを使用しました。食肉店で調達しやすいということのほかに人間に近い大きさであることがその理由です。学校付近の大型の食肉店に行き,ほとんどものを調達することができました。食肉店での購入は事前に連絡をしておくと原型のまま用意してくれることもありました。また,解剖には衛生上の問題もついてまわるが,食肉店では食品衛生上問題のない内臓(洗浄済)となっているので,匂いも抑えられている。洗浄のため内臓は開いた状態となっています。私はタウンページにて大きそうな精肉店で検索しました。

食道 食肉店では「ナンコツ」
状態がよければ食道と気管がくっついたものも調達できます。
食道の筋肉組織と気管の軟骨組織の違いも観察できます。
  食肉店では「ガツ」
形は我々が普段目にするイラストと同じ形をしている。
内側(粘膜組織)と外側(筋肉組織)の違いにも注目したい。
  食肉店では「モツ」
ブタのものだと柔毛までは見ることが難しいので「ギアラ」という部位で代用すると,柔毛のイメージがつかみやすい。湯通しするとさらによいのかもしれません。大腸の部分では肛門付近に筋肉がついているのが観察できます。
小腸との役割の違いがわかる。
  肝臓 食肉店では「レバー」
人間では約1.2〜1.6kg にもなり,その生の迫力に驚く。
実際の大きさを体感させるためにはいいのかもしれない。

実験14
  ペットボトルと風船の肺(呼吸系の観察)

 ペットボトルと風船を使った模型の作成です。過去の事例集やネットで検索してみました。作り方は,指導書にも載っていたはずです。比較的簡易な実験装置なので身近な素材を使っての体験的な授業になりました。
 富士見中では理科教材の肺の模型があったので横隔膜の説明がうまくできました。肺は筋肉ではなく,うすい膜状のものであることをイメージさせたい。ちなみに肺胞や小腸の柔毛の表面積のイメージは新聞紙約26枚分です。気体検知管による酸素と二酸化炭素のガス交換の実験を行っても効果的です。

実験15
  血液を顕微鏡で見てみよう!(赤血球の観察)

       
参考資料
NHKビデオ 人体  第3集 心臓・しなやかなポンプ
      TVKビデオ 血液の種類とはたらき

 これらの映像を見せてイメージをつくった。
 実際に教科書に載っている稚魚の尾びれの血液の観察は,生体を扱うため今回は見送った。メダカのほかグッピーやカダヤシでも行えます。

実験16
  心臓を体験しよう!(ブタとトリの心臓の観察)

 ブタの心臓の観察を行いました。大きな食肉売り場にでも心臓はハツとして売られている。大きさ・心室心房の数などがほぼ人間と一緒なのでイメージしやすい。
 心筋の厚みや色・大動脈などの血管の様子も十分観察できる。1個200〜300円。
 血流の様子も調べたければトリの心臓(ハツ)を使うと良い。こちらのほうが安価。
 血管(大動脈)にスポイトを刺し,水を注入してみる。薄い墨汁などでは切り開いたときに,黒いあとが残るので血液の通る様子が分かります。

実験17
  心音を聞いてみよう!(お医者さんごっこ)

 聴診器を購入し,2人1組でお互いの心音を聞く実験を行った。あまりにもあたりまえの光景ではあるが,実際に聴診器を通じた心音は大きく驚いていた。安静時と運動後,呼吸の有無,心音だけではなく脈に当ててみても良い。
実験16とともに行うことで心臓のリアルな運動の様子が認識されやすくなるようです。

実験18
  赤い血? 青い血?(血液と酸素の関係の観察)

 血液は横浜市食肉公社(鶴見)に連絡を取って調達しました。ただし,事前の電話連絡に加え,朝8時に現地に出向かなければならない。なお,そのときには血液の凝固防止剤として1%クエン酸ナトリウム水溶液を血液量の10%溶液をあらかじめ用意しておかなければならない。(血液は1リットル500円程度)
【血液の分離】
     試験管などに入れ,しばらく放置すると,赤血球・白血球・血小板などの固形成分と血漿などの液体成分に分離する。血液が凝固していなければ何回でも混ぜることができます。冷蔵庫にて2週間ぐらいはもちます。
【動脈血と静脈血】
     赤血球に含まれるヘモグロビンと酸素の結合により変色する様子を観察する。血液を入れた三角フラスコまたはビニール袋に酸素を入れて,よく振り混ぜる。酸素不足(暗赤色) → 酸素有り(赤色)への変化がきれいにわかります。
この実験は生徒の反応もピカイチでした。

実験19
  血液成分のモデル

 赤血球の変形の様子や白血球のアメーバ状の動きは粘性の違うスライムでの演示実験を行った。その後,班毎に用意して,実際に手で触れて見ることによってイメージを膨らませましょう。
 白血球だけではなく,赤血球も形を変化することを学習する。

実験20
  人工尿と人工汗(排出成分の観察)

 実際に資料集やHPに載っている成分割合から人工の尿と汗を作ってみた。塩化ナトリウムと尿素が主成分なので比較的簡単に調整できました。また,におい成分については「アンモニア」のイメージがあるので,実際にうすめたアンモニアのにおいを嗅がせてみるのもいい。
 自分たちで作ってみると,尿や汗がより身近なものに感じられるようです。ちなみに体内でたんぱく質が分解されたときにできるアンモニアはほとんど入っていないことを強調しました。
 
尿 血しょう
水分 93〜95 98〜99 90〜93
NaCl 0.95 0.52 0.09
ブドウ糖 0 0.002 0.1
尿素 2.0 0.03 0.03
アンモニア ごく微量 ごく微量 ごく微量
ビジュアルサイエンス理科資料より


6.課題発表学習に向けての指導例

(1) 課題発表学習会のねらい
  「課題発表学習」を通じて授業で習った動物の知識をもう一度グループで調べ,発表会の場で説明したりお互いに教え合ったりすることにより,更なる知識の定着を図る。
(2) 課題発表学習会の展開(2時間扱いでもよい)
  生徒の学習活動 教師の指導・留意点

 
テーマ     人体のつくりについて調べよう
 
本時の目標・活動内容を確認する。
班ごとに流れの確認と発表の準備を行う。
本時の目標,流れを確認する。
注意点を説明する。
プリントと評価カードを配布。

発表班
     課題学習の発表を行う。
見学班
  発表班の説明や実験を見る。
  疑問に思ったことは質問する。
  発表班の評価を行う。
落ち着いて説明を聞く雰囲気をつくる。
評価カードに発表の点数を記入させる。
質疑応答については各班が答えられないレベルの質問については適時助言する。
感覚器官について
     目のつくりの説明をする。
  耳のつくりと音の伝わり方の説明をする。
  感覚器官のまとめをする。
消化器官について
     消化管(食道・胃・小腸・大腸)の構造とはたらきの説明をする。
  消化酵素の説明をする。
  小腸(柔毛)のつくりの説明をする。
血液・心臓・血管について
     血液の成分の説明をする。
  心臓と動脈・静脈の説明をする。
運動器官について
     骨格の説明をする。
  筋肉・けん・関節のつくりを説明する。
  反射の説明をする。
呼吸器官について
     肺のつくりの説明をする。
  肺胞と肺の表面積の説明をする。
  呼吸の説明をする。
排出について
     肝臓のさまざまな役割の説明をする。
  腎臓や汗腺のはたらきの説明をする。
  尿と汗の説明をする。

教師の説明を聞く。
必要に応じて補足説明をする。
発表方法のアドバイスをする。
評価カードを集める。

(3) 評価例
観点 評価項目 評価規準
自然現象への関心・意欲・態度 課題発表学習に対して,動物の体のつくりに関心を持ち,進んでそのしくみやはたらきを理解しようとする。 動物の体のつくりに関心を持ち,そのしくみやはたらきを生命維持のメカニズムと関連づけて理解しようとする。 動物の体のつくりに関心を持ち,そのしくみやはたらきを理解しようとする。
科学的な思考 動物の体のつくりとそのしくみやはたらきを考察することができる。 動物の体のつくりとそのしくみやはたらきを予想し,考察することができる。 動物の体のつくりとそのしくみやはたらきを調べようとする。
観察・実験の技能・表現 各班で演示実験や観察を伴った発表を行い,動物のからだのつくりやしくみを説明することができる。 ねらいを意識した演示実験の発表を行い,動物のからだのつくりやしくみを説明しようとする。 演示実験や観察を伴った発表を行って説明することができる。
自然現象についての知識・理解 動物の体のさまざまな部分が協同してはたらくことによって,生命の維持が行われていることを理解している。 動物の体のさまざまな部分が協同してはたらくことによって生命の維持が行われていることについて具体例を挙げて説明できる。 動物の体のさまざまな部分が協同してはたらくことによって生命の維持が行われていることについて説明しようとする。


7.今後の課題

 昨年度の実践は自分だけではなく,生徒にとってもプラスの面があって,とても意義のある試みでした。ここには載せきれていないもっと簡易で効果的な観察・実験はあるとは思います。私の今回の授業実践は,理科室に保管してあった授業実践記録やさまざまな実験の本,そしてインターネットなどで集めた情報をもとに自分なりにアレンジして,できるだけ簡単にかつ分かりやすく伝えるために,授業を再構築したものです。この取り組みの際に,研究大会の冊子,他の学校での研究授業の記録に,すばらしいものがたくさん残っているということを再発見しました。「これまでのさまざまな授業の取り組み」がもっと有効に活用できないだろうかと考えました。一人ひとりの理科の教員が試行錯誤しながら創ってきた授業・実験のアイデアを「宝のもちぐされ」にならないように生徒に還元していきたいと思いました。生徒たちに与えることのできるちょっとした工夫をすることが,よりよい教育環境の整備につながるのです。

 情報化社会といわれて久しい昨今,われわれ教職員も積極的に教育に関する情報を上手に活用していくことができれば,そこにさらなる可能性が広がってくるように感じました。今後は動物の単元だけではなく,すべての単元にわたって分かりやすい授業の工夫が課題だと思いました。

※参考資料(VTRの紹介)
NHKスペシャル 脅威の小宇宙

 人体I <総集編>
パーフェクトコレクション
 全2巻セット
 
NHKスペシャル 生命 50億年はるかな旅
第1集 海からの創世   第6集 奇跡のシステム「性」
第2集 進化の不思議な大爆発   第7集 昆虫たちの情報戦略
第3集 魚たちの上陸作戦   第8集 ヒトがサルと別れた日
第4集 花に追われた恐竜   第9集 ヒトは何処へ行くのか
第5集 大空への挑戦者   最終回 地球と共に歩んで
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