授業実践記録

アンモニアの噴水実験(簡易版)の実践について
川崎市中学校理科教諭
1.はじめに

 教科書の気体の単元の中に,アンモニアが水に溶けやすいことを調べる実験として,むかしから丸底フラスコを用いたアンモニアの噴水実験が紹介されているが,多くの先生方は,実際に生徒に実験させたり,演示実験として行ったりすることも,あまりないのではないだろうか。
 その理由として,使用するフラスコを乾燥させるのに手間がかかることと,フラスコにふたをするゴム栓に通して使うスポイトと先を細くした噴水用のガラス管の加工が面倒であることが考えられる。クラス数が多い場合は,1クラス分の班の数だけ装置を作っておいても,授業が連続しているときは,次のクラスの実験までにフラスコを乾燥させることは困難になる。その対策としては,装置を2クラス分製作すればよいのだが,その手間を考えると,ついビデオを見せるか口頭での説明で済ませておこうと考えてしまう。(本当は,教師の仕事として,その程度の実験器具の製作は当然なのだが・・・)
 そこで,もう少し簡単にこの実験を行えないだろうかと考案したものが,以下に示す実験である。

2.この実験で生徒に気づかせたいこと

 (1) アンモニアは水に非常によく溶ける。
 (2) アンモニアが水に溶けると,水溶液はアルカリ性を示す。
 (3) アンモニアはアンモニア水を加熱すると発生する。
 (4) アンモニアは無色で刺激臭がある。

3.実験方法のポイントと利点

 丸底フラスコは,一度実験に使用すると水滴がつき,洗浄・乾燥に手間がかかるので,無色透明のポリ袋を使用する。この利点は,ポリ袋のしぼむ様子から,アンモニアが非常に水に溶けやすいことを視覚的に確認できる。そのうえ,ポリ袋は実験後捨てることができ,実験の度に新しいものが使えるので,洗浄・乾燥する手間も省ける。
 噴水の部分には,プラスチックの注射器を使う。この利点は,注射器のみでの洗浄ができ,先端部分の乾燥も容易である。
 装置が簡単で軽量なため,演示実験も,装置を手に持ち,机間をまわりながら生徒の目の前で行うことができ,ポリ袋のしぼみ具合やフェノールフタレインの色の変化を確認させることができる。

4.実験の実際

準備(図1)
図1
ポリ袋,注射器(針があった方がよいが,生徒実験の場合は危険なので,先端に安全のための工夫をしておく),三角フラスコ(または大きめの試験管),ビーカー,ガラス管付きゴム栓,アルコールランプ,フェノールフタレイン液,アンモニア水,セロハンテープ,スタンド

方法
1)  三角フラスコにアンモニア水を入れ,ガラス管を通したゴム栓でふたをして,アルコールランプで加熱し,出てくる気体をセロハンテープでガラス管に留めたポリ袋に集める(図2,図3)。

図2 図3

2)  アンモニアを集めたポリ袋の中に,注射器を使ってフェノールフタレイン液を加えた水(水100cm3にフェノールフタレイン液を1,2滴加えたもの)を注入する。(図4)
 このとき,フェノールフタレイン液は,注射器の中では無色なのに,針先からポリ袋の中に飛び出すと,赤色に変わることに注目させる。それと同時に,袋がみるみるうちにしぼんで行くことにも気づかせる。しぼむのは,決して注射針で穴が開いたために中の気体が逃げ出したわけではないことを説明する(気体が穴から抜けてしぼむときとは,しぼむ速さが違う)。(図5,6)

図4 図5 図6

結果

 実験結果から、
  1)  アンモニアが水に溶けると,水溶液はアルカリ性を示すこと
  2)  アンモニアは水に非常に溶けやすいこと
が確認できる。
 また,アンモニアを捕集する過程で,
  3)  アンモニア水が沸騰して,アンモニアが発生すること
発生させるとやや外部に漏れるので,
  4)  アンモニアには刺激臭があること
なども確認できる。

5.成果と課題

 ○はじめに書いたとおり,アンモニアが水に溶けやすいことを調べる実験は,むかしから教科書で紹介されている方法では,気軽に行うことはできなかったが,今回の方法ではほとんど準備もいらず,簡単に演示実験を教室で行うことができた。ぜひ,多くの先生方に,チャレンジして実際に行っていただきたいと思う。

 ○課題としては,生徒に実験をさせるときには,注射針が危険なため,安全に扱えるように工夫が必要である。また,この捕集方法では,上方置換と違って空気よりも軽い気体であることを説明しにくいことがあげられる。

 ○同じ実験器具を用いて水素の実験をすると,ポリ袋は浮き上がるので,スタンドに糸で固定しておくと,空気より軽いことが視覚的に生徒にわかりやすい。また,そのままポリ袋に火をつけて発火させても(空気との割合に注意),発火の状況が試験管にためたものに火をつけるよりインパクトがあると思う。なお,発火させるときは,危険がないようにどのくらいの大きさのポリ袋を使えばよいかなどを予備実験で確かめてから実施するようにしたい。

 ○今後も,教科書にある実験をそのまま行うのではなく,実情にあった工夫を加えながら,わかりやすく生徒の興味関心を引くような実験を行っていければと思う。

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