課題研究理科の指導


電気パン作りを通して
広島県呉市立横路中学校
亀崎 貞之
1.はじめに

 子どもたちは,学習した「科学的な概念」を日常的なものに置き換えて考える機会が少ない。そのため,発展的な学習として,電気パン作りを試みた。
 中学校理科の学習内容から「イオン」が削除されたので,イオンの概念を発展的に学習する内容としては少々無理があるかもしれない。しかし,炭酸水素ナトリウムの分解や電流の学習の発展としても試みることができるのではないだろうか。

2.学習内容と学習方法

 まず,水溶液には電流が流れるものがあることを示し,それを利用したパン焼き器があったことを教えた。その原理を使用して「電気パン」づくりを行った。次に,それを利用した調理方法をグループごとに考えさせて,それを実験させた。



3.授業の成果

 今回は,電気パンの応用の調理ですが,今回ほど失敗から学ぶことが多いと実感したことはありませんでした。授業後に生徒一人一人が書いたレポートには,次のような気づきや失敗談が出ていました。
 カップ麺を作ったグループは,銘柄によってお湯が沸騰する早さが違うことに気づきました。そして,その違いは,スープのからさ,すなわち塩分濃度によるのではないかと仮説を立てています。
 一方で,冷凍のうどんを用意したグループがありました。もちろん,いつまでたっても沸騰しません。もちろん,氷が溶けきるまで待てば沸騰するでしょうが,そこまで時間の余裕がありません。これは,粒子概念を考えるには,もっともよい材料でした。電流が流れるということは,電子などの粒が移動するということですから,いくらスープでも凍っていては,電流が流れることができなかったのです。
 四角い牛乳パックではなく,ケーキらしく丸いケーキの型で焼こうとしたグループがありました。しかし,このグループも見事に失敗してしまいました。いつまでもケーキは焼けず,電極と電極の間の短い部分しかケーキはふくらまなかったのです。電流は,電極の間をまんべんなく均等に流れるのではなく,流れやすい最短距離しか流れないということが分かりました。
 同様の失敗で,カップ麺のカップの底まで電極を差し込んでいなかったために,上の電極のところだけが沸騰して,うまく調理できなかったということもありました。同じような理屈ですが,ウィンナーを並列につないでうまく焼けなかったグループもありました。

カップ麺を作る。


冷凍うどんを熱くする。

ウィンナーを並列につないで焼く。ケーキを丸い型で焼く。

 次のレポートは,丸い方のケーキで失敗したグループのものです。



4.おわりに

 偉大な科学的な発見や発明が失敗からという逸話はよく聞きます。中学校の理科室で行う実験でも,失敗は,宝の山でした。失敗を「なぜ」「どうして」と考えることにより,より深く科学的なものの見方や考え方をすることができました。また,調理というきわめて日常的なものを取り入れて実験を行うことで,学校で学習したことと日常の中のさまざまな現象が科学というもので結びつけることができるようになったのではないでしょうか。

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