鳥取大学教育地域科学部附属中学校 吉田 祐一郎 |
1.はじめに 今や環境教育は学校教育における重要な領域の一つである。理科のみならず,社会科や家庭科において,あるいは総合的な学習の時間における課題の一つとして取り扱われている。この環境教育を実践するうえで重要な視点は,自然環境を守っていくために「自分にできること」を具体的に考え実践していく力を育てることではなかろうか。しかしながら,自分自身の実践をふりかえると,環境問題を我がこととして捉えさせ,自分にできることをやってみようとする実践力を育てるまでには至っていなかったように思う。 そこで,環境問題を自らの問題として捉えさせるために,本校の選択理科の課題研究において,まず,身近な環境問題からスタートして学習を進めることにした。学習教材として,学校のすぐ傍にある『湖山池』の水質悪化の問題を扱い,自分たちにできることを探っていくことを通して,環境に対する実践力を育成できるのではないかと考えた。さらに,学習の成果をインターネットを利用して情報発信することで,より自己の行動に責任を持たせることをねらった。 以上のようなねらいのもとに過去3カ年間取り組んだ実践について報告する。 2.課題研究のテーマについて 課題研究テーマ “湖山池を通して環境問題について考えよう” 本校は,地元では「湖山長者の伝説」で知られる『湖山池』の池畔に位置しており,生徒たちは四季折々の姿を見せる湖山池を階下に見下ろしながら日々生活を送っている。この湖山池は,「池」としては全国最大であり,周囲にはレクリエーション施設が点在し市民の憩いの場となっている。その一方で,家庭排水の流入や,灌漑用水への利用のために水門によって海水の流入を堰き止めたことによる水質の悪化が大きな問題となっている。本校の生徒は,部活動で湖山池周辺をランニングする時などに多くのゴミやアオコが覆った水面を見る機会が多く,湖山池の環境に関する関心が高い。 このような実態をふまえ,本校の選択理科では身近な地域素材としての『湖山池』を取り上げ,総合や理科の授業では経験のない水質検査への取り組みを通して身近な環境問題について考えることをねらい,上記のテーマを設定した。また,この実践では,水質の測定にコンピュータを用いたり,学んだ結果をWebページとしてまとめることにより,情報機器の活用能力を高めることもねらっている。 本校の屋上から見た湖山池 3.授業の実際
4. 生徒の反応 比色計の製作に取り組んだのは昨年度の生徒が初めてであるが,なんとか作動するものを作り上げることができた。ただし,はんだごてを初めて扱う生徒が多く,はんだ付けの不良のためか,正常に作動しないグループもあった。特に,発光ダイオードと光センサーを取り付けるところが生徒たちにとっては難しかったようである。苦労はしながらも楽しみながら製作に取り組むことができた。 その後,自作した比色計で湖山池のCODを実際に測定してみたが,その測定結果だけでは汚れの程度がピンとこなかった。しかし,他県の湖沼や河川のCOD値と比較することによって,COD値が10mg/lを越えるというのは,有機汚濁の程度としてはかなりひどいほうであることを実感したようである。 ホームページの制作においては,インターネットでの公開ということもあり,非常に意欲的に取り組んだ。また,単に校内で研究成果をレポートにまとめるのとは違い,ページを見る人のことを意識するので,「分かりやすいように」とか「目を引くように」といったことを考えながら制作に取り組んでいた。 5. 成果と課題 自らの手で水質汚濁の程度を定量的に測定することにより,湖山池の汚れを実感として捉えることができた。一方で,水質検査の中で自分たちが使う水道水を取水している千代川のきれいさを知ることで,このきれいな状態を守らねばという意欲が生まれた。研究後の感想には,環境の保護について意欲的な言葉が多く書かれていた。例えば,調査研究の中で,鳥や魚がプラスチック類を飲み込むことで死んでしまうことがあると知り,ごみを正しく捨てたり,分別をきちんとしたいという感想を書いている生徒があった。今後生活の中で実践していきたいことが具体的に記述されているところに,この実践のねらいに対する成果を感じる。 ただし,生徒たちが生活の中で何らかの行動が実践できているのかどうかは,きちんと把握できていない。今後,日常生活の行動に実際に変化があったのかどうか,追跡調査をしていきたいと考えている。 〈参考文献〉 杉本良一・紺野昇 共著,環境教育と情報活用−パソコンで測る身近な環境−,大学教育出版,1998 |