選択理科の指導例
−川の教材化と活用の方法−
1.はじめに
 新学習指導要領では,理科の学習について「目的意識」をもった主体的・意図的な「実験観察」が一層重要視され,さらに,生徒の興味・関心,日常生活との関わり,総合的な見方を培う選択的な履修の内容が示されている。身近にある自然や水の流れという自然現象を通して「大地の変化」に関心を寄せることができるのではないか。また,全国各地の川でも応用が可能であると考え,活用方法を紹介する。

2.研究の概要
 最上川は,山形,福島両県境の西吾妻山(標高2,035m)を源とし,米沢,山形の両盆地をほぼ北に流れながら置賜白川,須川,寒河江川等の大小の支川を合わせて新庄盆地に入り,流れを西に変えて鮭川,立谷沢川等の支川を合流しながら最上峡を抜け,庄内平野を貫流し,酒田市から日本海に注ぐ。その延長は229qで農耕,飲料水,漁業,交通,産業のもととして古代より利用されてきた。この最上川や最上川の支川の写真を使い,観察のポイントを示し,生徒の主体的・意図的な観察につながることができるようにしたい。

3.研究の実際
 川の流れは,実際に降り注いだ雨や雪が重力の関係から地面の低いところを伝わって流れていくところにはじまる。この時,水は地面の弱いところを削り,土砂を運び,流れの緩いところに堆積させる。これだけの作用であるが,大地の変化には大きな役割を担っている。また,流れる水があることによりたくさんの生物がそこで生活している。川の仕組みを知ることにより自然観察できる素地が育ってくれるものと考える。


写真1 上流の渓流

写真2 渓流の魚(ヤマメ・ニジマス)

 (1) 流れる水の働き
 実験室で「水流台」を利用して観察を行うが,写真3にあるように,雨上がりの造成地などで容易に川のモデルを見つけることができる。
 この時,特に削られる地面の硬さや体積する場所,体積する様子などを観察させたい。写真をもとに説明し,各自が関心を寄せて観察対象を見つけさせたい。

写真3 流れる水のはたらき

 (2) 川の上流

写真4 上流の滝

写真5 上流の大きなれき

写真6 砂防ダム

 最上川は多くの川が合流して本流をつくっているため,それぞれの支流の上流部を観察することは容易にできる。上の写真のように川の上流部では,川幅は小さく,水量は少ない。さらに岩石は大きい。崖になっているところの岩石が砕けたり,崩れたりする。また,大きな岩石がごろごろしている。このような岩石は水の流れのほかに,雪や氷により削りとられたりするものも多い。写真6は上流部にある砂防ダムである。大きなれきが多く,少しくらいの流れでは動きそうにもないが,大雨や雪解け時などには大きなれきも流される。一気に流れ出ないよう各地に砂防ダムが設けられている。


 (3)

 川の中流部
 上流から中流にかけては,たくさんの支川が合流したり,地盤の関係から蛇行しているようすが観察される。蛇行した川は盛んな浸食や運搬作用を観察することができる(写真7・8)。川岸の地層を観察させると,含まれるれきの大きさや形,堆積状態などから過去の川のようすを考察させることができる(写真9)。
 また,中流部には大きな川原も目につく。水が伏流水となるため,川底に流れる水を見ることができないところもある(写真10)。川原では特に,れきの大きさを,形,並び方などに注目して観察させたい。 ハンマ−などがあれば,れきを割って風化していない中身を観察させたい。岩石も風化していくこと,風化するため岩石は細かくなっていくことなどを指導したい。(写真11)
 川岸のようすをよく見ると河岸段丘も観察される(写真12)。河岸段丘のでき方や利用のしかた,過去の川の流れのようすなどを考察させることができる。過去の洪水や治水のための護岸工事などを指導する材料にもなる。河岸の地層が観察できるところでは,れきの大きさや並び方などが観察できるが,ノジュールや化石などが含まれているところもある。


写真7

写真8

写真9

写真10

写真11

写真12

 (4)

 川の中流部から下流部
 中流部から下流部にかけて川幅は大きくなり,大きく蛇行するところも見られる。高い山に登って観察できる機会があれば,ぜひ観察させたい。川の蛇行は,水の流れやすいところを削っていくため,削られる地形,洪水などの災害,堤防の整備などの治水対策などの指導も行いたい。さらに,川に沿って道路が発達し,集落が発達しているようすも見ることができる。
 下流に行くにしたがい,大きな川原もあり,れきも小さくなり砂に変わる。河口の砂を観察することにより,上流の岩石について考察することをさせてもよい。


写真13

写真14

4.おわりに
 日本の河川は急流が多く短いものが多いが,車などを利用して移動する機会には必ず川を見ることができる。「川幅」,「流れ」,「水量」などを観察しながら,そこに住むであろう魚やカニなどの身近な生物を思い浮かべることは楽しいことである。
 しかし,生徒の観察には,ある程度の教師側の事前の準備と情報提供が必要である。今回のように身近にある川の観察のポイントを事前に子どもたちに知らせておくことにより,他の河川でも同じように観察できる目をもってもらえるものと思う。
 身近な川を教材にして観察することにより,「水質汚染」,「ゴミ問題」など環境について気づき,考えることのできる機会となることも期待している。

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