使い捨てカイロの定性分析と定量分析
−発熱量の調節の仕組み−
栃木県那須郡西那須野町立西那須野中学校
矢口 輝夫
1.はじめに
 筆者は,ここ数年,使い捨てカイロの教材化を研究実践してきた。平成11年度には共に研究してきた3年生の荒玲生と佐藤慶一が栃木県理科研究発表会において一連の探究活動を発表した。本稿は,その要約である。

2.研究の動機
 真冬の登校や下校のとき,使い捨てカイロをよく使う。その袋には成分として鉄粉,水,食塩,活性炭・木粉,ヒル石などが示されている(写真1)。使い捨てカイロは,各成分がどんな割合で混合されているのだろうか。また,どんな仕組みで発熱するのかがわかれば自分で使い捨てカイロを作ることができると考え,本研究を始めた。


写真1 使い捨てカイロ

3.研究の目的
 【研究T】 使い捨てカイロに含まれる各成分を定性的に確かめる。
 【研究U】 使い捨てカイロに含まれる各成分を定量的に調べる。
 【研究V】 使い捨てカイロに含まれる各成分が発熱量を調節していることを調べる。

4.【研究T】 使い捨てカイロに含まれる成分を定性的に確かめる。

 <実験T−1> 磁石を使って,鉄粉が含まれることを確かめる(写真2)。
 <実験T−2> 塩化コバルト紙を使って,水分が含まれることを確かめる(写真3)。
 <実験T−3> 食塩が含まれることを確かめる。
 <<方法(1)>>:水に溶かし,ろ過,再結晶する。
 <<方法(2)>>:炎色反応によりナトリウムの存在を確かめる(写真4)。
 <<方法(3)>>:硝酸銀水溶液により塩化物イオンの存在を確かめる(写真5)。
 <実験T−4> 炭素が含まれることを確かめる。
   <<方法>>:酸化銅を還元する(写真6)。
[観察T−1] ヒル石や木粉を肉眼で観察する(写真7)。
*ヒル石とは風化したウンモのこと。水を極めてよく吸収する。

写真2 磁石で鉄の存在を確かめる。
写真3 塩化コバルト紙で水分の存在を確かめる。


写真4 ナトリウムの炎色反応
写真5 硝酸銀水溶液で塩化物イオンの存在を確かめる。


写真6 炭素による酸化銅の還元
写真7 水をたっぷり吸収したヒル石

5.【研究U】 使い捨てカイロに含まれる各成分を定量的に調べる。(A社製品の分析)
 <実験U−1> 水分の量を定量的に調べる。
 <<方法>>:シリカゲルで水分を吸収し,その増加量から計算する(写真8)。
 <<結果>>:14%
 <実験U−2> 食塩の量を定量的に調べる。
 <<方法(1)>>:水に溶かし,ろ過,蒸留,再結晶し,計量する。<<結果>>: 2.8%
 <<方法(2)>>:デジタル塩分計で濃度を測定する。<<結果>>:1%(写真9)

写真8 シリカゲルによる水の吸収
写真9 デジタル塩分計による塩分濃度の測定

 <実験U−3> 炭素・木粉,ヒル石の量を定量的に調べる。

 <実験U−4> 鉄粉,ヒル石の量を定量的に調べる。

写真10 使い捨てカイロの粉末の燃焼
写真11 ふるい分けた酸化鉄とヒル石

【結果と考察U−1】 4社の製品の分析結果の比較

6.【研究V】使い捨てカイロに含まれる各成分が,発熱量を調節していることを調べる。
  文献によれば,使い捨てカイロからの発熱は,下の化学式による。
   Fe+3/4O2+3/2H2O→Fe(OH)3+96kcal
<実験V−1> 鉄が水酸化鉄になるとき,食塩水が触媒として働いていることを確かめる。
<実験V−2> 炭素を加えると,発熱がすみやかに起こることを確かめる。
<実験V−3> ヒル石が水分を補給して,発熱を継続させている事を確かめる。
 (ヒル石の代用品として,スライムを用いた)
<実験V−4> 木粉が,発熱をおだやかにしていることを確かめる。
<実験V−5> 自作の使い捨てカイロの完成(総量50g)

7.おわりに
 筆者の様々な課題研究の実践は,拙著「中学校選択理科の課題51」にまとめました。この本は市販されていませんので,Eメールで御連絡ください。
 E-mail:teruo-yaguchi@mrj.biglobe.ne.jp

8.参考・引用文献
 ・使い捨てカイロの教材化 新潟県教育センター実践研究収録 1986
 ・使い捨てカイロ 日本使い捨てカイロ同業会編 1998

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