発展的な思考力を高める授業の創造
−オープンな問題と問題作りを中心として−
岡山県高梁市立高梁中学校
菊楽 達夫
1.生徒の実態
 定期テスト前になるとテスト対策として学級で,予想問題を作ることがある。そのときに,「どんな問題がでるの?」と質問に来てヒントを与えているのだが,出来上がった問題を見ると質問に答えた問題そのままだったり,問題集の問題をそのまま写していたりする。数字や図の状態くらい変えればいいのにと思うのだが,生徒に尋ねてみてもそういう発想はないようである。また,教科書にあり授業でも扱った問題を数字を変えて出題したら,正解率が思ったほどではなかったという経験は,数え上げればきりがない。
 【問題1】「点P,Q,R,Sが各辺の中点のとき,四角形PQRSが平行四辺形であることを証明せよ」と,【問題2】「点P,Q,R,Sが辺や,対角線の中点であるとき,四角形PQRSが平行四辺形であることを証明せよ」を授業で扱ったときのことである。点の取り方は若干違うものの,どちらも中点連結定理を使う問題であり,基本的には同じ構造の問題である。【問題1】を解いた後に【問題2】を解いたのだが,全く別な問題として考えており,同じようにしてやれば解けるという発想をする生徒は少なかった。

  【問題1】   【問題2】

 このようなことから,問題の構造をきちんと把握し,問題の関連性を深めるような授業をしていく必要があると感じた。

2.教材について
 オープンな問題や問題作りの授業は,生徒の思考を促し,多様な考えを伸ばす。また,問題の構造をはっきりさせ,さらに問題を発展させていく。
 証明の進め方の後に問題作りの授業を組んでみた。
 【原題】
 3点A,C,Bがまっすぐに並び,AC,CBを1辺とする正三角形ACDと正三角形CBEを線分ABと同じ側にとり,AE,DBをひきます。
 図をかいて,いろいろな性質を探してみよう。
 教科書では,「AE=DBを証明しなさい」となっているところであるが,問題のもつ条件をはっきりさせ,証明問題に少しでも進んで取り組めるようにするために,オープンな形での問題提示とした。
 自分で問題に合う図をかき,問題のもつ条件をはっきりさせるためにあえて図は示さないことにした。また,自分でいろいろな性質を見つけ,それが本当に成り立つかどうか,そして,説明が必要であることを実感できるために,いろいろな性質を自分で見つけるような設定とした。また,この問題はいろいろな発展性を秘めている。予想される反応として次のようなものが考えられる。
(1) 並び方 「まっすぐ」を変える。(間の角を広くする。狭くする)
(2) 形を変える。「正三角形」を別な形に。
(正方形,二等辺三角形,ひし形,直角二等辺三角形,他の正多角形)
(3) 位置を変える。「同じ側」を反対側に。
(4) 示すものを変える。
(5) 逆の問題にする。

3.指導のねらい
 問題を作りながら,問題の構造(仕組み)をより深くつかむことができ,証明の必要性を感じ取ることができる。
 問題作りの観点をはっきりさせ,問題を発展させていこうとする意欲を高める。

4.授業の実際
(1)原題の解決


 問題に含まれる条件をつかむために一人ずつが定規とコンパスで作図した。
 点Cが右よりのものと,中点のものが多く認められたので黒板に作図させた。
 「辺や角に注目して,いろいろな性質を探してみよう」と発問し,たくさんの性質をあげさせた。これらを,当たり前として納得できるものと,証明が必要であるものとに分けた。証明の必要性を感じさせるとともに,課題を自分で設定できるようにしたためである。そして,条件の関係を確認しながら次表のようにまとめた。

 △ACE≡△DCBの関係がいえればほとんどの性質は説明できそうだ,ということに気づいた。条件の関係がつかめたところで,自分で見つけた性質の1つを証明した。
 自力で解決し,発表を通してどんな証明の方法がいいのかを全員で検討した。
 この後,
 3点A,C,Bがまっすぐに並び,AC,CBを1辺とする正三角形ACDと正三角形CBEを線分ABと同じ側にとり,AE,DBをひきます。
 AE=DB を証明しなさい。
の問題をもとにして,問題作りに取りかかった。
 生徒は,問題作りにあまり慣れていなかったので,問題中のどの部分がどのように変えられそうかを発表し,確認した上で一人ずつが問題を作り始めた。
3点→4点,まっすぐに→ガタガタに,正三角形→正方形
同じ側→対称な位置に,結論を変えるAE=DB→角
 この結果,どの条件を変えるかの目的をはっきりもって問題作りに取り組んでいた。
 変更点が発見できず,行き詰まっている生徒には個別に対応した。ほとんどの生徒が目的をもって取り組めていたので個別に対応することができた。
 生徒へのアドバイスは,他の生徒の考え方を具体的に示して,どの条件をどう変えたいのかをはっきりもたせるようにした。
 図形を扱っている証明の問題なので,問題を図に示す形で問題を表すことにし,早くできた生徒から画用紙に書き込み,発表させていった。
 一人ずつが発表した。変更した条件,何を証明するのか,どんな気持ちで作ったのかを中心に発表していった。
 問題として成り立つものがほとんどだったが,
【問題】
 二等辺三角形ACDと二等辺三角形CBEが次の図のようになっているとき,AE=DBを証明せよ。
の問題のように,条件不足の問題もあり,合同な二等辺三角形であればよいことを確認し作り直した。また,相似な図形に関連させることもできる。
 変更した条件によって,問題を分類,整理した。
 その中からタイプ別に問題を取り出し,次の3問を共通問題として取り組ませた。
 証明問題として最初から解くのではなく,原題と比較して変更した点を比べながら,証明の内容のどこが変わってくるのかを予想して,証明させた。(原題の証明中の間の角の表し方を変えて考えればよいこと)
 その後,問題の条件を少し変えたぐらいでは,解き方はそう大きくは違わないことや,問題に疑問をもって解決にあたり,次々に発展させていくことができることなどを確認して授業を終えた。

5.生徒の反応
 (生徒の作った問題)
 (1) 3点→4点,5点,・・・に変更
 4点A,B,C,Dが等間隔にまっすぐに並び,それぞれを1辺とする正三角形を作るとき,AG=EDを証明せよ。
 (2) まっすぐな並び→ガタガタ に変更
 正三角形ACDと正三角形BCEが図のようになっているとき,AE=DBを証明せよ。
 (3) 正三角形の形→正方形など に変更
 2つの正方形が次の図のようになっているとき,AF=EBを証明せよ。
 (4) 同じ側という位置関係→対称な位置,反対側 に変更
 2つの正方形が次の図のようになっているときAE=DBを証明せよ。
 (5) 結論としていいたいことを変更
 2つの正三角形が次の図のようになっているとき,先端の角度が等しいことを証明せよ。
 (6) その他
 2つの合同な四角形が図のようになっているとき,AE=DBを証明せよ。
 2つの合同な平行四辺形が図のようになっているとき,AE=BDを証明せよ。
 2つの合同なおうぎ形が図のようになっているとき,DF=EFを証明せよ。
 (生徒の感想)
いろいろな考え方ができてよかった。
自分で問題ができたのでよかった。
証明が少し好きになった。
仮定を変えればいろいろな問題が作れることがわかった。
図形をかくのが楽しかった。今度は全員の傑作を発表してもらいたい。
正三角形じゃなく,正方形でも同じ解き方ができる。
決まっていたところを変えたところがおもしろかった。
いろんなことを変えても,解くやり方は変わらなかった。
問題を変えて別の方法で,また新しい問題を作るのにいろいろな角度から考えることができた。新しい発見もできてよかった。
図をかくのが難しかった。いろんな人の図を見ていろいろ変えれるんだと思った。
新しく自分で問題を作り変えたのが作れたのでよかったです。
1つの問題でも条件を少し変えるだけでいろいろなことができるなあと思った。
問題はいくらでも作り変えれるということがよくわかった。
他の人のいろんな考え方がわかってよかった。自分が考えれないものを考えていたのでよいと思う。
問題をつくりかえたりするときは,大体“できない”と思ったらすぐやめていたけど,今日はねばった。
図形を変えたり,考えたりすることは苦手だけど,この授業で少しは発展できたと思う。
おもしろかった。図をかくのが楽しかった。時間がたつのを忘れたよ。

6.今後の課題
 問題作りの指導は,そう難しいものではない。問題を作り変えどんどん発展させていくことは,生徒にとって楽しいものであり,成就感がもてるものである。また,生徒の反応を予想し発展性を考えていくことは教師にとっても楽しいものである。
 問題作りの初期段階では問題作りに慣れていないので,発問を工夫したり,問題中の条件をつかみやすくするための工夫をするべきである。教師の援助というよりは,生徒から出てきた考え方をうまく例示していけばよいと思われる。問題作りに慣れるにしたがって,自由な発想にまかせていってもよいだろう。自由な発想を大切にし,成就感をもたせればよい。作った問題の分類の仕方等を工夫することに重きをおけばよいだろう。
 ここ数年で問題作りは,教科書にも多く登場するようになってきた。数学的な考え方を伸ばし,広がりを感じさせるのに有効であるからだろう。問題の条件を明確にさせ,問題の構造をつかむことに対し,特に有効であり,生徒の多様な考え方を生かすことができると思われる。

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