授業実践記録

平方根の計算
宮崎県公立中学校
A教諭

1 はじめに

 「平方根」は,普段の日常生活の場面で使うことのない「無理数」の存在を考えるため,多くの生徒が苦手としている単元である。しかしながらその計算を教える段階においては「計算ルールの解説」→「問題演習」という流れに偏りがちである。これでは数学のよさを実感できるとは言い難いと考え,「正方形」を題材にして授業実践を行った。ちなみにこの「正方形」は「三平方の定理」でも適用でき,関連を持たせた系統的な指導ができる。系統図は以下のとおりである。

2 授業実践

(1) 指導計画(14時間取扱い)
1 平方根 (1) 平方根 ・・・・・ 3時間
(2) 平方根の値 ・・・・・ 2時間
2 根号を含む式の計算 (1) 根号を含む式の乗法,除法 ・・・・・ 4時間(本時1/4)
(2) 根号を含む式の計算 ・・・・・ 3時間
章末 (1) 基本の確かめ ・・・・・ 1時間
(2) 章末問題 ・・・・・ 1時間

(2) 本時の目標
  • 正方形の辺や面積の関係に目をつけ,根号をふくむ関係式(和と積についての等式)を見つけ,見つけた関係式から,乗法のしかたを導く。
  • 根号をふくむ式の乗法・除法のしかたを理解する。
(3) 授業展開について(略案)
段階 学習内容及び学習活動 教師の指導支援
導入
  1. 方眼紙に下の面積を持つ正方形を作る。
    (2,8,18,32)
  2. 正方形の辺の長さや,図の中になる正方形,長方形の面積を確認する。
  3. 学習課題@を確認する。

 確認した辺の長さや面積の関係を,加法と乗法に分けて,等式に表してみよう。

  • 平方根の導入の時間を思い出させ,斜めに傾けてかくことを確認しそれらの正方形が1つの頂点を共有し,重なるようにかくよう場所を指定する。

  • 学習課題@はワークシートに書かせた後で全員に大きな声で読ませる。
  • いろいろな視点から,できるだけ多く見つけられるよう,助言し,図で確認する。
  • グループを作り,個で考えた考えを理由までつけて発表させる。その後,他に考えられないかさらに考えを深めさせる。
  • 出された考えをもとに,代表者にホワイトボードにまとめさせる。
  • 代表者に自分たちの考えを発表させる。また,他のグループは他のグループの発表にもしっかりと耳を傾けさせ,自分たちが考えた式の違いを確認させ,互いに認め合い,賞賛しあう場を作りたい。
展開
  1. 学習課題Aを確認する。

 見つけた乗法の関係式から,根号をふくんだ式の乗法の仕組みを考えよう。

  • ワークシートに書かせた後で全員に大きな声で読ませる。
  • 辺の長さや面積に注目させ,加法や乗法の式を作らせる。必要に応じてペアで考えさせる。
  • 加法は乗法の仕組みがわからないと,理解できないことを告げ,今までの学習と違って,この単元の学習では,乗法(積)について先に学習することを確認する。
  • 加法の関係式は,今までの計算の常識とはかけ離れていることを強調し,乗法とは全く違う考え方であることを印象付けておく。
  • であることを確認し,3つの数の関係に気づかせる。
  • 次の(  )の中がどうなればいえるか考える。

  • (  )の中を考えることによって,平方根の積の性質についての見通しをもたせる。

  • となるのではないかということに気づき,グループで伝え合い,練り上げた内容を言葉や代数学的な式でまとめる。
  • 結果はどのグループも同じであるが,表現される内容は異なることが予想されるので,自分たちの言葉でまとめるよう,指示する。
  • グループで話し合った結果を代表者が発表する。
  • 代表者に自分たちの考えを発表させる。また,他のグループは他のグループの発表にもしっかりと耳を傾けさせ,自分たちがまとめた表現の違いを確認させ,互いに認め合う場を作りたい。
  • がいえるかどうかを調べることが,平方根の積を考えるポイントであることをしっかり確認し証明は次時にすることを予告する。
終末
  1. 平方根の積と商の関係をまとめ,確認する。

  • ワークシートに書かせた後で全員に大きな声で読ませる。
  • 代表者に自分たちの考えを発表させる。また,他のグループは他のグループの発表にもしっかりと耳を傾けさせ,自分たちが考えた式の違いを確認させ,互いに認め合い,賞賛しあう場を作りたい。

(4)この授業において実際に各グループで話し合ったことをホワイトボードまとめた内容は以下のとおりである。
1グループのみ,言葉での説明や代数学的な表現を用いてまとめることができた。
なお,この授業の3時間後に「平方根の和と差」の授業を行ったが,以下がその授業での各グループで話し合ったことをホワイトボードまとめた内容である。
言葉での説明や代数学的な表現を用いてまとめることができたグループが増えた。

3 実践を終えて

この授業のねらいを図式化すると以下のようになる。

 生徒たちにとって,右の表のような式は驚きであると同時に,知的・好奇心を書きたてられる内容である。生徒たちは,正方形を作図してそこから自分の等式を導くといったいわば「数学的活動」を通して,右のような式を発見した。これらの式が正しいのか,半信半疑であったと同時に,これまでの加法や減法の常識が打ち砕かれた瞬間であったため,驚きと期待でいっぱいであった。そこからグループでの話し合い活動を通して,自分たちで計算ルールの発見ができたことで,平方根に対する苦手意識も軽減できたのではないかと考える。例年定着度が低いこの単元のテストで,多くの生徒が高得点をあげることができたのは,自分たちで計算ルールを発見できた賜物であろう。

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