大阪府A教諭 |
1.はじめに 今回の授業は,市内の中学校数学教育研究会で私が担当した示範授業で,中学校現場に1日だけ入って実践したいわゆる投げ込み教材です。 平素,研究授業に呼ばれて辛口の指導助言・講評をしている私が,今回は現場の先生方に授業を観てもらうということで,本番までの毎日が緊張の連続でした。 しかし幸いにも,今回授業をさせてもらえる学級の生徒たちは非常に元気のある明るいクラスで,初対面の私を明るく迎えてくれたので,かえって授業当日は少しリラックスできたのを覚えています。 授業は中学校第2学年を対象にPC教室にて行いました。以下はその時の授業の様子をまとめたものです。 2.題材について 1次関数や三角形は,第2学年で学習する重要な単元ですが,一部の生徒にとっては「応用問題」と捉えて苦手意識を持ってしまう場合もあります。しかし本時で扱う「星型五角形」は「5/2角形」の定義※1で表せるなど,これまで課題学習の題材のうち生徒の関心意欲を高める素材として,しばしば取り上げられてきた題材です。本時ではこの題材を扱うことにより,生徒たちの関心意欲を引き出すとともに,数学的な見方や考え方を深めることをねらいとしました。加えて本時は,座標平面上や2次元平面上にある星型五角形をPCのデスクトップ上で「動かす」ことにより,操作活動を通して傾きや切片の意味,内角の和の一般性等を確認し,図形を多面的に考察する態度も伸ばしたいと考えました。 3.本時の目標
4.使用ソフトについて
大阪教育大学附属池田高の友田勝久先生著作の「グラフ描画」のフリーソフトです。本時のように授業で使う他にも,グラフをワードや一太郎等の文書ファイルに(コピー&ペーストで)貼り付けて,プリント作成等にも手軽に使えます。標準で関数のサンプル例が数多く用意されているうえに,web上でも様々な実践例が日々紹介されています。
愛知教育大の飯島康之先生著作の「作図ツール」のフリーソフトです。こちらもweb上でたくさんのサンプルデータが提示されています。インターネットを通じて使うオンライン版のGC/JAVA版とローカルで使えるGC/Win版があります。本時はGC/Win版を使用しました。 5.授業の流れ 当日はまず比例の復習をGrapesの基本的な操作で確認した後,次のような課題を与えました。
まずは生徒たちに,一次関数の一般式y=a+bの傾きと切片の意味を全体で確認したうえで,5本の式を個別にワークシート(PDFデータが開きます。192KB)に記入させました。 グラフでは切片の値が等しく,傾きの絶対値が等しい直線が2組(赤と青,緑とピンク)ありますが,生徒たちは「えっと,y軸と交わる点が切片だったっけ?」と隣席の子と確認しながら見つけていってくれました。また少し難しいかと思われたy=3(薄い青)の式も,生徒たちは特に戸惑う様子もなく答えてくれました。 答え合わせには,あらかじめ隠しておいた「式表示パネル」を再表示させて生徒に提示しましたが,生徒の中には,すでにマウスをグラフに近づけると式が表示される隠しコマンドを見つけていた生徒もおり,「さすがIT時代の子どもたちだな」と感心しました。 グラフから式の読み取りができるのを確認した後,次のような課題を提示しました。
この課題では生徒たちの解法は大きく2通りに分かれました。1つ目はy=a+bのパラメータa,bにおおよその数をいろいろと代入していき,他の4本と釣り合いがとれる星型を作る方法です。もう1つはパラメータは文字のままにしておき,▲と▼をクリックして大小を調整し,星型になったところのa,bの値をよみ,記入する方法です。答としてはy=30+250やy=−50−300など,傾きや切片が小数の場合も含めて正解が何通りも現れ,授業としては大いに盛りあがりました。 実は黄色のグラフは,星形を作ると切片の絶対値が大きくなり,もとのグラフからわざとはみ出すように設定しています。答え合わせでは,生徒たちには自分で見つけた式が(切片が250とか−300などの場合でも),グラフをドラッグして,"黄色のグラフはy軸と,自分で見つけた切片の値できちんと交わっている"ことを確認させました。 授業の後半では,作図ツールGeometric Constructorを使って次のように提示しました。
作図ツールのいい所は与えられた図を変形(特殊化)して答えの見通しを立てた後,元の図に戻って予想が正しいかどうか確認(一般化)できる点だと思います。 教科書によくある解法としては「中央の五角形のまわりに三角形が5つあるので,5つの三角形の内角の和は180°×5=900°である。次に五角形に外角の総和をそれぞれ右回りと左回りの2回分求めると360°+360°=720°である。よって星型の頂点∠Aから∠Eまでの総和は,900°−720°=180°となる。」というものが一般的だと思います。 もちろん生徒の中には上のような模範的な解答を出した生徒もいましたが,この日はせっかくGCを使うのでマウスで頂点の位置をドラッグして動かしながら,正解を予想する,という活動を組み入れました。 例えば上の図のように頂点Aをドラッグし線分CD上に移動すると,∠D+∠Eが頂点Aの左側の角と等しくなる(∵ADEで2つの内角∠Dと∠Eとの和は他の外角と等しいから)。 同様にして∠C+∠Bは∠Aの右側と等しい。ここで一直線∠DAC=180°である。 よって∠A+∠B+∠C+∠D+∠E=180° さらにこのあと,頂点Aを線分CD上で動かしても和が180°のままであることを,図を動かして確認していました。 また更に特殊化して,頂点Cを頂点Aに重ね合わせると,星型はくずれて次のような図になります。 このように生徒はそれぞれが,元の星型五角形を動的に観察しながら,予想を確かなものにしていきました。 これらの活動は,単なる念頭操作では実現できない「数学的活動」であると思います。 当然のことながら,このような特殊化して予想をたてた後は,元の図にもどって一般化した論証が必要になってきますが,多くの場合,(平素の授業では)予想から証明へ切り替わるステップが早すぎる場合も,多いのではないかと思います。生徒たちにしっかりと課題の意味をつかませ,予想する時間もじっくり取りたいと思います。そのためには,このようなICTの利活用が非常に効果を発揮すると感じています。 6.研究授業後の反省会より
7.おわりに 教員のICT活用指導力について,平成19年3月の文部科学省の調査より,大きな変更が示されました。従来は「PCを操作できる,できない」と「PCを使って授業ができる,できない」の2点のみの調査でしたが,この調査より「A.教材研究,指導準備評価などにICTを活用する能力」「B.授業中にICTを活用して指導する能力」「C.児童生徒のICT活用を指導する能力」「D.情報モラルなどを指導する能力」「E.校務にICTを活用する能力」の5つのカテゴリーに分類され,それぞれが「わりにできる,ややできる,あまりできない,ほとんどできない」の4段階で評価するように細分化されました。 その後文科省より本調査結果の速報値が発表されましたが,「わりにできる,ややできる」と回答した教員は全体では7割弱の割合でした。文部科学省は100%を目標にしているそうです。この調査は全国のすべての公立学校の常勤の教職員を対象に,今後しばらくは続きそうです。 今後も私は微力ながらも,先生方のICT活用指導力向上を支援するため,研鑽を積み「魅力ある算数・数学の授業づくり」に取り組んでいきたいと考えています。 〔参考〕※ 5/2角形の定義 円周上に5点を取り,2つおき(1つ飛ばし)で結ぶと星型が出来る。このような結び方で出来る図形を5/2角形と定義する。この場合5/3角形と定義しても同じ図形になる。(右図参照) また同様にして,円周上に4点を取り,1つおきに結ぶと,4/1角形(四角形)になる。(左図参照) いずれの場合も正n角形の1つの内角は{180×(n−2)}÷nの絶対値で表される点が,非常に興味深い。プログラム言語ソフトLogoを使った実践例も有名です。 |