課題学習数学の指導
数学的活動を取り入れた確率の授業
島根県六日市町立六日市中学校教諭
村上 剛
1. はじめに

 確率は“降水確率”など日常で使われることが多く,生徒の側からしても「日常にある数学」というイメージがある。しかし,そのイメージとは裏腹に確率の言葉の使い方はあやふやなことが多く,ましてや本質的な意味についても理解されていないため,『サイコロを振って,1回目に1の目が出れば,あと5回は1の目は出ない。』と思っている生徒も多い。
 そうした生徒の実態をふまえたうえで,数学的活動を取り入れた確率の授業を構築して,実践を試みた。

2. 主題設定の理由

 数学に興味や関心を持つ一つの要素として,学んでいることがいかに役に立っているか,世の中で使われているか,現在や将来役に立ちそうか,ということが実感できることがあげられるであろう。そのためには,教材・教具の厳選,工夫をはじめとした教える側の準備が不可欠である。教えられた知識を詰め込むのではなく,教材をとおして得た疑問を突き詰めたり,発見を表現したりすることではじめて,自分で得た学力として定着するものと思われる。
 以上のことをふまえて,自ら学び,考えて理解しようとする態度につなげるためには『数学的活動』を取り入れることが必要だと考えた。
 とかく,実験などの「外的な活動の強い側面」をもつ数学的活動にばかり目がいき,生徒の興味・関心を引くことに,力を入れてしまうことが多いのだが,中学生の発達段階では,学習したことを発展させる「内的な活動の強い側面」をもつ数学的活動が活発に行えるようになることが大切だと考える。

3. 研究の方法

 (1)  数学的活動をどの場面でどのように取り組ませるのかを定め,そのための教具・教材を準備する。その際,次のような視点にもとづいて考えた。

 1) なるべく生徒に身近なものを使ったり,身近なことがらを考えさせることにより,意欲的に学習に取り組ませると同時に,「日常に近い数学」を意識させる。

 2) 活動の結果が個人にとどまらず,グループやクラスの結果としてあらわれるようにする。

 3) 多様な思考で解決でき,驚きや発見がある課題を用意する。

 (2) 生徒の活動の様子を観察すると同時に,単に確率を求めるだけでなく,考え方や結論に至るまでの過程がわかるように表現させるようにし,生徒の思考過程や表現力も評価する。

 (3)  指導計画

 1. 確率の意味 ・・・ 3時間 (実験)
 2. 確率の求め方 ・・・ 5時間
 3. 練習問題 ・・・ 1時間
 4. 課題学習 ・・・ 2時間 (レポート)

 (1),(2)をふまえて,確率の導入の場面で「実験」を用いた数学的活動を,また,まとめの場面で「レポート」を用いて思考・表現させる数学的活動を取り入れることにした。

4. 研究の実践

 (1)  確率の実験の場面から〈第1時〉

 T「この前のアンケートの結果では,押しピンを投げて,針が上になる方が起こりやすいと答えたのが13人,針が下になると答えたのが8人いました。」

 T「今日は,本当にどちらが起こりやすいのか,みんなで実験してみることにします。」

 T「その前に,針が上になるのはどのくらい起こりやすいか予想してみよう。」

 S「60%ぐらいかな。」

 S「63%くらいじゃない?」

 S「そんなにないよ。45%ぐらいだって。」

 S「わかるわけないよ。」

 T「それでは,実際に確かめてみよう。一人1000回振ることを目標にデータを取っていこう。50回ごとに記録していくんだよ。」

・・・・・・・・・

 ○1人1つの押しピンをわたし,実験をはじめた。所々で隣とデータを確認しながら作業を進めていた。

 ○1時間作業を続け,全員で10000回のデータを取ることができた。この結果は表とグラフにして,次の時間に生徒に配布した。

・・・・・・・・・

 S「思っていたよりも多くないんだな。」

 S「半分ちょっとぐらいか・・・」

 S「でも,みんなで10000回っていうのもすごくない?」

・・・・・・・・・

 ○反応はまちまちだったものの,10000回という多数のデータが取れ,起こりやすさの割合(確率)が信頼が持てるものであることを述べると,満足感あふれる顔つきになった。また,個人個人の実験の結果にはばらつきがあったものの,多数回重ねていくと収束していく様子をグラフで確認して驚いていた。


 (2)  確率の実験の場面から〈第2時〉

 ○押しピンの実験結果を踏まえて,サイコロ・コインといった経験的に確率がある程度わかっていると思われるものを使った実験を行った。

・・・・・・・・・

 T「今日は,サイコロとコインを振ってみましょう。」

 T「アンケートの結果では,コインの場合,表が出やすいと答えたの9人,裏が出やすいと答えたのが3人,同じであると答えたのが14人,と同じと答えた人が多かったね。」

 S「だって,1/2だものね。」

 S「(サッカーなどで)コイントスでものを決めるのに,同じでなかったら意味がないよ。」

 S「同じになるのは明らかだ。」

 T「サイコロの場合は,1の目が出やすいと答えたのが4人,6の目が出やすいと答えたのが9人,同じと答えたのが9人,となっているよ。」

 S「同じはずだけどなあ。」

 S「すごろくでは1が出なくてあがれないことが多かったよ。」

 S「1の赤い目を見ることは少ないと思うんだけど・・・」

 S「1/6だって。ねえ,先生。」

 T「1/6だと,どのくらいの割合になるのかな?」

 S「・・・0.17くらいかな」

 T「それでは,それを確かめてみよう。」

・・・・・・・・・

 ○サイコロの数が足りなかったので,1人1つではなく,サイコロを振る生徒とコインを振る生徒に分けて実験を行った。

・・・・・・・・・

[サイコロを振る生徒の様子]

 S「やばい,6回に1回のはずなのに,10回振っても1が出てこないよ。」

 S「ぼくなんか,もう3回も出ているよ。」

[コインを振る生徒の様子]

 S「なにか,表が多くて,数が全然合わないんだけど・・・(同数にならない)。」

 S「あら,わたしは裏が多いわ。」

・・・・・・・・・

 ○いろいろな反応を見せながら,生徒たちは実験を行った。上述の下線部のように,確率の意味を取り違えている生徒も多く,予想通り(コインだと1/2,サイコロだと1/6)にならないと不安を感じるようであった。

 ○そういう生徒には,他の生徒の様子を知らせ,トータルでどうなるかを確かめるための実験であることを指導した。

 ○この結果も,次の時間に配布した。予想通りの結果に一様に満足しているようだった。


 (3)  確率レポート〈課題学習〉

 ○単元の学習後,選択制の課題を用意し,自分で選んで取り組むようにした。

 ○2時間の扱いの中で,生徒たちは好きな課題に積極的に取り組んだ。また,グループで考えることを認めたので,仲間同士で集まり,同じ課題に取り組んでいた。

 以下,生徒のレポートの実際を,コメントを交えて掲載する。




5. 研究のまとめと課題点

 (1)  まとめ

 数学的活動を取り入れたことは,生徒のみならず,教師側にも良い刺激となり,多大な労力を使う反面,新しい発見が多く見られ,これからのあらゆる領域での数学の授業に活用できると思われる。
 以下に,いくつかの観点から本研究のまとめをしてみることにする。

 1)  確率の実験について

 単純な作業であり,実際に生徒がどれだけがんばってくれるのかという不安はあった。しかし,ただの実験ではなく,全員で多くのデータを取るという目的で行ったことが“やらねばならない”意識を高めたものと考える。また,予想を立て,その確認をするための実験でもあったので,予想のようになるのかという期待を持ちながらの活動であったことも良かった点である。
 また,コインやサイコロの実験では,実際に個人ではばらつきがあったものの,「大数の法則」にしたがって数学的な確率に近づいていく様子がグラフでよくわかり,生徒たちの労力が生かされたという実感がわいたと思う。

 2)  確率レポートについて

 問題の作成・選択にはいろいろ考慮し,生徒の興味や関心に沿うように考え,問題に取り組めない(取り組まない)生徒が出ないように配慮した。すべてに答えるのではなく,選択制にしたことから,1つをじっくりと考えようという生徒もいれば,たくさんの問題に取り組もうという生徒もおり,ニーズに合わせることができたと思われる。
 また,グループ活動をしても良いとしたことから,考えを持ち寄った仲間でじっくり課題に取り組むことができて良かった。
 提出されたレポートを見ると,いろいろな過程を経て結論に至り,それを自分の言葉でなんとかして表現しようとしているものも多く,生徒のもっている苦手意識が少しでも解消できたのではないかと思い,こうした学習方法も一つの手段として良かったと思われる。

 (2) 課題点

 ある程度の成果の出る中で,改善しなければならない課題もいくつか見つけることができた。ポイントに分けてあげてみることにする。

 1)  グループによる学習について

 グループによって,こちらが予期しなかった良い効果があったことも確かであるが,実際は,同じ課題を“仲良しグループ”で取り組むということになってしまい,意図的なグループ活動ではなかった。いろんな人の考えをもとに共感したり,反論しあうような活動が望ましいのであるが,生徒の実状からは望めなかった。今後はそうした意図的なグループ活動ができる集団を目指して,普段の数学の授業を構築する必要がある。

 2)  評価の方法について

 今回はレポート以外の評価の方法が観察だけで,評価の材料としてはとても乏しい。「個に応じた指導」を徹底させるために,ノート・学習プリントの活用や,生徒の自己評価表などを用いることも必要であったと思う。

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