課題学習数学の指導
生徒は,何思う?〜数学態度調査(MAI)を利用して〜
兵庫県中学校数学教諭
1.数学態度調査(MAI)とは

 数学態度とは,「『好意−非好意』で表される数学の学習態度」である。この2極性の情意的反応を測定しようとしたのが,数学態度調査(MAI)である。この数学態度調査(MAI)は,アメリカのWelch(1972)が開発したMathematics Attitude Inventory (MAI)を和訳したものである。つまり,MAIの日本語版である。まず,英語の専門家に依頼し,できるだけ原文に近い訳をお願いした(和訳したものの具体例は文末参照)。それをもとに調査を実施して因子分析を行い,次の5因子を抽出した。

第1因子・・「数学における自己概念」の因子
 生徒自身の数学に対する能力の知覚を表している。高得点は,数学において有利な自己概念を示している。
項目番号内  容
  2私は,数学を大変楽しんでやっています。
  4*私は,数学があまり得意ではありません。
  10数学は,私にとってやさしい。
  16私は,数学の授業中のことはたいていわかります。
  19*私は,どんなに頑張っても数学はわかりません。
  30私は,数学の問題を解くことが得意です。
  35私は,数学で習ったことのたいていを覚えています。
  43私は,数学が好きです。

第2因子・・「社会における数学の価値」の因子
 数学的知識の有用性についての生徒の見方を反映している。高得点は,高く知覚された数学の価値を示している。
項目番号内  容
  1私は,数学は,毎日の生活で役にたっていると思います。
  9*私は,ほとんどの職業に数学は,必要がないと思います。
  12私は,誰でも数学を勉強すべきだと思います。
  15私は,数学は,今日の社会を理解するのに役立っていると思います。
  23私は,数学は,国の発展のために非常に役立っていると思います。
  24私は,良い職業を得るためには,数学の知識は,重要だと思います。
  33*人は,数学がなくても日常生活を十分にうまくやっていくことができると思います。
  38*私は,ほとんどの数学の考え方は,生活には役に立たないと思います。

第3因子・・「数学不安」の因子
 数学場面における不愉快で,不安な生徒の感情を反映している。高得点は,数学に対する高い不安を示している。
項目番号内  容
  20私は,誰かが,私に数学について話しかけてくるだけで緊張します。
  34私は,数学を使った勉強をするだけでとても不安になります。
  36私は,数学のことを考えるだけでいらいらします。
  39私は,数学を勉強しなければならないというだけで嫌な気持ちになります。
  48私は,数学の問題がすぐ解けなければ解けたためしがありません

第4因子・・「数学教師への知覚」の因子
 数学の先生の教え方の特徴に対しての,生徒の見方を反映している。高得点は,数学教師への好意的態度を表している。
項目番号内  容
  17私達の数学の先生は,数学をおもしろくしてくれます。
  21私達の数学の先生は,よくわかるように教えてくれます。
  27私達の数学の先生は,数学の問題が解けずに困っていると気づいてくれます。
  40私達の数学の先生は,よく個別指導をしてくれます。
  44私達の数学の先生は,数学のことをよく知っていると思います。

第5因子・・「数学における動機付け」の因子
 生徒が,授業での要求以上の勉強をしようとする意欲を表している。高得点は,生徒の数学に対する高い動機付けを示している。
項目番号内  容
  8*私は,数学の時間に数学とは別のことをしたくなります。
  13*私は,学校で数学の授業は,もっと少ない方がいいと思います。
  32私は,宿題の他に時々もっと数学の問題をやります。
  37*私は,数学の問題を自分の力で解くより早く正しい答えを教えてもらった方がよいです。
  42私は,数学の時間に勉強したことをきちんと理解することは,重要なことだと思います。
  47私は,数学をもっと勉強したいと思います。

項目番号は,「数学態度調査(MAI)」の質問番号であり,番号の横の*は,逆転項目である。

2.得点の仕方について

 1)「数学における自己概念」,2)「社会における数学の価値」,3)「数学不安」,4)「数学教師への知覚」,5)「数学における動機付け」,これら5つを,下位尺度として,「まったくそのとおり」4点,「そうだと思う」3点,「そうだと思わない」2点,「ぜんぜんそう思わない」1点として4段階評定で測定した。 ただし,逆転項目は,逆に得点化した。それで,1)「数学における自己概念」と2)「社会における数学の価値」は,32点満点,3)「数学不安」と4)「数学教師への知覚」は,20点満点,5)「数学における動機付け」は,24点満点となった。

3.実践結果

[図1]


 図1は,本校の1年生のあるクラスの数学態度調査(MAI)の結果である。つまり,5つの尺度の各個人の素点をグラフ化したものである。各尺度の満点の得点が違うので図1のような5種類の折れ線グラフになった。
 このクラスの現状は,小学校よりつまずいている生徒が,4名(下の生徒番号の1,3,19,23)いる。23の生徒は,学校を休みがちな生徒である。これより,生徒番号の前にMAIをつけ,各生徒を表すこととする。調査の結果を日頃の観察や生徒環境から分析して気になる生徒を書き出し,現在の取り組みや様子をまとめてみた。

・MAI1男: この生徒は,先に述べたように小学校段階でつまずいている生徒である。九九があやしいときがある。家が商売をしており,数学の社会的価値は,認めているが,数学に対する自己概念が低く(自信がなく),数学不安が高い,もちろんやる気も低い(動機付け)。しかし,教師への認知は高く,声かけなどを欠かさず,複数指導の時,問題を別に与えたり,できるだけ自信を持たせる個人指導をしている。

・MAI3男: この生徒は,てんかん気質が強い。薬服用。小学校段階からつまずいている。計算が遅い,分数はできない。社会的な数学の価値も低く,数学不安も高く,やる気ももうひとつである(動機付け)。ただ,教師に対する認知が高いので,声かけなどに心がけ取り組んでいる。まじめで,正負の数の計算は,できるようになった。文字の計算は,まだまだである。補習等には積極的に参加し,側にいるとなんとか計算ができるようになった。

・MAI7男: この生徒は,おとなしく授業は,真面目に取り組んでいるので,ついつい見過ごしてしまうが,観点のすべてに問題である。気がついて,認めてほしいのである。「やるな。」「がんばってるね。」と声かけをすることにより,見違えるほどやる気と自信ができたように感じる。

・MAI17女: この生徒は,できるのだけれど,自分にまったく自信がなく,数学に対する不安も高い。上記の生徒同様,自信を持たせるよう指導したい。

・MAI19女: この生徒は,数学の価値も認めており,やる気もある。しかし,自分に自信がなく数学不安が強い。自分ができないことを悟られまいと自分勝手な理解をし,とりあえずまわりを取り繕うときがある。まわりの目が特に気になる生徒である。授業中での声かけは,できるだけ少なくし,放課後等を使った指導をしている。

・MAI23女: この生徒は,休みがちで怠惰な傾向があり,勉強よりも違う方向に興味のある生徒である。数学に対する興味が低く,数学不安は高い。来たときの授業態度は,真面目である。プリント等はやろうとする気持ちがあるのでその面を大切にしたい。

・MAI31女: この生徒は,提出物もきちんと出し,実力もあるが,このグラフから勉強に対する取り組みは,あまり前向きでない。これからが心配である。興味付けを行いながら見守っていきたい。

 このように,生徒の情意面から,見てみることは,生徒理解の一助にもなるし,教師自信の指導の振り返りにもなると確信する。できれば,より信頼のおける調査にするため,ご活用いただき,ご意見の交換をして頂けたらと思います。

〈参考資料〉 数学態度調査(MAI)の具体例
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