東海大学助教授
菊池 文誠
王立協会
The Royal Institution of Great Britain
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旧グリニッジ天文台
Old Royal Observatory at Greenwich
イギリス(2)
王立協会(ロンドン)
(The Royal Institution of Great Britain)
所在地
:21 Albemarle Street, London W1X4BS
電話番号
:0171-409-2992
交通
:ロンドン中心部にあり,地下鉄のPiccadilly Circus駅,または,
Green Park駅から徒歩で数分の距離にある大きな建物である。
開館時間
:週の内,限られた日の午後数時間で変更になることもあるので,
事前に確認が必要である。
写真撮影
:可能だが照明が暗く撮影条件は悪い。
王立協会(王立研究所ともいう)は,18世紀末に創立されたイギリスの学術研究,および教育普及を目的とした機関である。イギリスには ROYAL(王立)という名称をつけた機関が多いが,これは国王が設立したとか資金を提供したということではなく,単に「イギリスの」といった意味である。
ここはいうまでもなくマイケル・ファラデー(1791-1867)の活躍した舞台である。製本 屋の奉公人から当時の最も有名な化学者ハンフリー・ディビーに認められ,彼の実験助手として王立協会に就職して以来,ここで約50年にわたる研究活動を続けた。電気容量の単位のファラッドはいうまでもなく,電磁誘導についてのファラデーの法則,電気分解についてのファラデーの法則,ファラデー定数,ファラデーカップ,ファラデーケージ,ファラデー効果,ファラデー暗部など,彼の名前のついた物理・化学用語の多さは他に例を見ない。この国の20ポンド紙幣には彼の肖像が用いられている。
王立協会の大きな建物は現在はかなりの部分が他の事務所などに使われている。公開されているのはファラデーの使用していたものが中心で,1973年,エリザベス女王臨席のもとファラデー博物館としてオープンした。
主な展示品としては入口ホールの階段脇にファラデーの等身大の像があり,2階にファラデーがクリスマス講演などに使用した教室がピカピカに手入れされて当時の姿を伝えている。今はテレビ放送にも使っているとのことで,そのための照明設備などが目立たないように取りつけてある。また,地下に彼の実験室がそのままの形で保存されていて,電磁気関係と化学関係の部屋があり,当時の状況を見ることができる。
王立協会正面
ファラデー等身像
電磁気学がジェームズ・クラーク・マクスウェル(1831-1879)によって理論的に完成する元になったファラデーの研究の数々が,実験装置と自筆ノートとともに展示されている。特に,電磁誘導の実験に用いられた円環状のコイルはボロボロに近い状態ながらガラスケースに納められている。絶縁被覆導線などなかった時代のこと,鉄の環に銅線と布をていねいに巻いてある。今でいうトランスの構造である。当時は交流の電源がなかったので一方の導線の両端を電池に接続し,もう一対の両端を検流計に接続してスイッチを入れた瞬間に検流計の針の振れを観測したものと思われる。また,電源を使わずに磁石を近づけたり遠ざけたりした瞬間にも検流計が動くのを発見したときの驚きはどんなものであっただろうか。このコイルはロンドンの科学博物館,ミュンヘンのドイツ博物館にもあるが,いずれもレプリカ(複製品)で,ここにあるのがオリジナルである。このコイルによる電磁誘導の発見こそモーターと発電機の誕生へつながり,現在の電気文明の基礎になったものである。そばにある 1831年8月29日の彼のその日の実験ノートの文字は美しい。ディビーに認められるきっかけとなった,ディビーの講演を克明に記録したノートの内容もさぞ素晴らしかったであろうと想像させるのに十分である。高等教育を受けずに研究活動に入り,そのため数学をまったく使用しないで電気化学や電磁気学の分野でこれだけの業績を挙げたのは驚くべきことである。
電磁誘導発見に用いられたコイル
その日の実験ノート
ファラデーはディビーの助手になってまもなく師とともにヨーロッパ大陸へ大旅行をしている。各地で実験や講演をして交流の旅を続けた。イタリアのフィレンツェでは,領主トスカナ公の所蔵する大きなレンズを用いて太陽光線でダイヤモンドを燃やす実験をしたことは有名である。このレンズは「啓林」中理編1997年夏号で紹介したようにフィレンツェの科学史博物館にある。また,ファラデーの墓はロンドン北部郊外のハイゲート墓地にある。
旧グリニッジ天文台(グリニッジ)
(Old Royal Observatory at Greenwich)
所在地
:Greenwich London SE10 9NF
電話番号
:071-5801788
交通
:いろいろな方法がある。
国鉄ではロンドン市内中心部の Charling Cross 駅から15分
Greenwich 駅下車。
地下鉄では Docklands Light Railway で Island Gardens 駅下車,
テムズ川をトンネルでくぐり対岸へ。
もっともお薦めは国会議事堂横のWestminstar Pier から船に乗り,
約1時間で Greenwich Pier へ。
いずれもその後はなだらかな坂を登り,丘の上に向かう。
開館時間
:月〜土10:00〜18:00,
日曜11:00〜18:00
休館日
:12月24,25,26日
写真撮影
:一部を除き可能
ここの建物は世界の最も有名な天文台として君臨したもので,17世紀イギリスの代表的建築家クリストファー・レンの設計によるものである。1884年以降,ここを通る子午線が世界の子午線の原点となり,世界の標準時の場所となった。1958年までに天文台がサセックスのハーストモンソーに移転してから,近くにある国立海事博物館分館の天文博物館となった。入口に標準時計がある。屋根の上にはテムズ川を通る船に時刻を知らせた赤い大きなタイムボールがあり,今でも午後1時にボールが落下して周辺に大きな音を響かせている。
旧天文台
世界標準時計
館内にはハーシェルの天王星発見に使われた反射望遠鏡,ブラッドレーの光行差発見に用いた天頂筒をはじめ,いろいろな天体観測器具や精巧な天体模型など天文学史・光学史上貴重なものが多数展示されている。赤道儀室には標準子午線が通り,外の広場へ続いていて長さ10mほどの真鍮のプレート板が引かれている。方位磁石を置くと約9度ほど西へずれていることがわかる。
天文台周辺のグリーンの芝生は快適で,白い建物の海事博物館には海洋国家イギリスの栄光を記念するものが多数展示されている。また,紅茶を運ぶために建造された3本マストの帆船カティサーク号も近くに保存されている。
ハーシェルの反射望遠鏡
子午線