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連載を始めるにあたって筆者は所属する物理教育研究会(中学・高校・大学教員で組織,会員数約 450名,事務局:上智大学理工学部物理学科,笠耐気付)のメンバー15名とともに,何回かの現地調査を経て,昨年,「近代科学の源流を探る−ヨーロッパの科学館と史跡ガイドブック−」を東海大学出版会から出版した。多くの人が海外へ出かける機会が増えたにもかかわらず,これまで理科系を対象とした類書はほとんどなかった。したがって,海外の優れた施設を訪れる人も少なく,中にはその存在すら知られていないことが多かった。そこで,それらの施設への交通手段,地図,みどころなどについて解説したところ,幸い好評を得ている。 このほど,本誌編集室より読者のために海外の科学館についての連載を依頼されたので,その後の新しい情報および,原著にないアメリカの施設も追加して概要を紹介することとする。 ぜひ,一人でも多くの先生方がヨーロッパやアメリカの科学館を訪問されて,歴史に残るオリジナルの実験装置や優れた展示を見学され,自らの研修とされるだけでなく,その感動を教育の場で活かしていただければ,筆者としてこれに勝る喜びはない。
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イタリア(1)レオナルド・ダ・ヴィンチ国立科学技術博物館(ミラノ) |
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イタリア第2の都市ミラノにあるレオナルド・ダ・ヴィンチ国立科学技術博物館はイタリアでは最大規模の科学館である。ここは,多方面にわたり天才ぶりを発揮したレオナルドを記念したものであり,1953年,彼の生誕500 周年記念として彼のゆかりの当地に創立された。 建物はもとは修道院であったが,その後病院などを経て現在に至っている。また,この館は交通博物館的役割も兼ねていて,別棟に多数の鉄道の車両,自動車,船舶,航空機関係の大型展示にかなりのスペースを割いている。世界最初のジェット機もある。軍用機,戦車,銃砲類,魚雷など武器の展示も多数ある。 レオナルドは科学者といえるかどうかは別として,大芸術家であり,同時に当時の天才的技術者であった。 特に,力学の考えを生かした空を飛ぶ装置など,いろいろな交通手段や機械技術,軍事技術ともいえる築城や土木関係,さらに運河構築計画など,学問が未分化の時代のものだけに興味深い。また,多くの設計図などの図面もあり,彼の多才ぶりがうかがえる。まさに近代技術のルーツであり,数百年,時代を先取りした巨人であった。 次に目立つのは,イタリアの生んだノーベル賞受賞者であるマルコーニの装置とその後の通信技術の発展の展示にかなり力を入れていることである。大きなコヒーラ検波器もある。コヒーラ検波器はフランスのブランリが発明したもので,鉱石検波器以前のものである。 その他,天文,光学,カメラ,時計,印刷,タイプライターなど,イタリアの誇る技術関係のコーナーもある。 ボルタのコーナーには最初の電池ともいえる電堆がある。 なお,ボルタに関連したこととして,ミラノの北方約40kmの湖水地方のコモという美しい町の湖畔にボルタ記念館がある。 レオナルドの出身地のヴィンチ村にはレオナルド博物館があり,彼の生家も残っている。また,ミラノ市内のサンタ・マリア・デレ・グラッツェ修道院の食堂に彼の最大傑作の一つ「最後の晩餐」の壁画があり,必見である。 |
筆者紹介菊池文誠(きくちぶんせい)
1937年,神戸市生まれ。兵庫県立西宮高校,東海大学工学部応用理学科卒業。東海大学理学部物理学科勤務。専門:放射線物理学,物理教育学。 |