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授業実践記録(物理)

安価に出来る生徒実験の実践例
-単振り子の周期の測定-

清風南海高等学校 折戸 正紀

【はじめに】

物理教育において,実験の重要性は言うまでも無い。本校でも,授業において演示実験は出来るだけ見せるようにしているが,生徒実験はなかなか十分な回数を実施できていない。

生徒実験が出来ない理由として,授業時間の不足などもあるが,生徒分の実験器具が揃っていないこともある。買い揃えようにも,市販の器具は高価で,生徒実験に必要な数を購入することは容易ではない。本校では理科教育に力を入れているので,演示実験用に1セットの購入はそれほど困難ではないが,数を揃えるとなると躊躇してしまうことが多い。

そこで,簡単にできる実験は自分たちで工夫してホームセンターやネット通販で安価に購入できる材料を用いて実験器具を作成し,生徒実験をおこなうようにしている。精度や使い勝手は市販のものより劣るであろうが,実践することが大切だと考えている。

デジタル機器全盛の時代で,本校でもデジタルカメラ等を利用した実験,授業をおこなっているが,このようなアナログ的(という言葉が正しいかどうかわからないが)な実験も大切であると思う。実験自体も大事だが,少し工夫するだけで,実験が出来るということも生徒に伝えたいと思っている。

今回は,その一例として最も簡単な「単振り子の周期の測定」の実験器具の作成,生徒実験をおこなったので,報告する。

【単振り子の周期の測定】

単振り子の周期の測定は,実験としては簡単で生徒にも何をやっているのか分かり易く,また比較的高い精度で周期を求めることが出来る実験である。さらに周期から重力加速度gをまあまあの精度で求めることが出来る。

単振り子の実験器具は各社から市販されている。金属球にピアノ線がつけられているだけの単純な器具で,本校にも以前(おそらく30年以上前)に購入したものがあるのだが,ワイヤーの切れているものや,何か他の目的で使用したのか金属球が失われているものなど生徒実験分(仮に1班4人として最大12班分)はそろっていない。そこで自作を考えるのであるが,同じものを作るのは容易ではない。金属球に高い精度で穴を空け,ワイヤーを固定することは困難であるし,それよりも金属球自体が手に入りにくく高価である。

そこで,ホームセンターで購入できる金属のワッシャーと撚り線タイプのステンレスワイヤーを用いて自作してみた。

【単振り子の製作】

■材料

振り子1セットあたり以下のような材料を用意した。すべて近くのホームセンターで購入した。

  • ワッシャー 2枚(M16 外径32mm,厚さ2.6mm,質量11g, 1個8円)
  • ステンレスワイヤー (太さ0.45mm,質量0.84g/m, 1mあたり180円)
  • スリーブ  (0.45mmのワイヤー用 4個入り95円)
  • アルミ棒  (10mm角 長さ1mで800円)

■振り子の製作

写真1
写真2

おもりとして使うワッシャーは少しでも重い方がいいかと思い2枚重ねにした。1.7m程度に切ったワイヤーを写真1のように一度スリーブに通してからワッシャーの環にくぐらせ,もう一度スリーブに通す。スリーブをペンチやバイスでしっかり潰す。これでおもり側ができあがる。ワッシャーの中心を,振り子のおもりの中心と考える。

次に支点側であるが,支点の位置を少しでも正確にするために,10mm角のアルミ棒を用いて固定具を作成した。アルミ棒を長さ100mm程度に切り,径0.8mmのドリルで穴を空けた。ここにワイヤーを通し,抜けないようにワイヤーの端に結び目を作る。アルミ棒のおもり側の穴が振り子の支点となる。(写真2)

(アルミ棒に穴を空けるためにはドリル類が必要であるが,本校の場合,以前に卓上ボール盤を購入してもらえたので重宝している。2万円程度のもので十分に実用になり,作業性が大幅にアップするので購入されることをお勧めする。手で持つタイプの電動ドリルでもよい。コード付きであれば数千円で購入できる。しかし細いドリルでまっすぐに穴を空けるのは難しい。穴を空ける道具がなければ,この固定具はなくても実験は出来る。)

これで,1セットの振り子ができあがりである。1セットあたり400円程度で作成でき,それほど作成に手間もかからない。出来れば生徒二人につき1セットの振り子を用意したい。

また,保管には写真3のようにすれば,絡まらず,場所をとらずに保管できる。

【実験】

① 用意

実験用スタンドの上部にクランプを2個セットし,作成した固定具を支点側を下にして下のクランプで固定し(写真4),長さを調節したワイヤーを上のクランプで挟み固定する。スタンドは机の端に置き,おもりを机の外に垂らすようにする。

② 測定

振り子の支点(固定具の穴)からおもり(ワッシャー)のワイヤーの付け根までの長さをメジャーで測定する。(写真5)。ワッシャーの半径が16mmあるので,測定した長さ + 16 mmが振り子の長さLになる。

振り子を小さな振幅で振らせ,10往復する時間をストップウォッチで測定する。振り子が中心を通過するときを基準として測定する方が,良い結果が得られるようである。そこで紙に直線を描き,ワイヤーを静止させた状態で直線がワイヤーと重なるように紙を机の横に張り,測定時はワイヤーと直線が重なる瞬間を基準にした。

同じ長さで測定を3回繰り返し,適当に長さを変えて5回(合計15回)測定をした。

写真4 写真5 写真6

③ 計算
振り子の各長さでの計測時間から振り子の周期を求め,3回の計測の平均をとり,その長さでの振り子の周期Tとした。測定結果の一例を表1に示す。

表1 測定結果
ワイヤーの長さ〔m〕 振り子の長さ
L〔m〕
10往復の時間〔s〕 振り子の周期
T〔s〕
1回目 2回目 3回目
1.430 1.446 24.09 24.03 24.09 2.41
1.200 1.216 22.10 22.10 22.12 2.21
1.016 1.032 20.38 20.41 20.37 2.04
0.837 0.853 18.53 18.53 18.59 1.86
0.681 0.697 16.75 16.72 16.75 1.67

実験の手順として生徒に配布したプリントは,以下を参照されたい。

物理実験_単振り子.pdf (PDF:109KB)

なお,このプリントには,実験の手順等だけを記載しており,測定値を記入するための表などは載せていない。データの記録方法などは,生徒自身で考えて欲しいと思っているからである。

【実験結果のまとめと考察の指導】

実験に1時間かけ,次の授業時間でまとめと考察について指導した。

まず,グラフについて考えさせた。今回の実験では,結果(振り子の長さLと周期T)をそのままグラフにしても,直線にならないのでわかりにくいことを理解させたうえで,どうすれば結果がわかるようなグラフになるのか考えさせる。生徒にいろいろ発言させていると,そのうち「LとT2のグラフを書けば良い」という意見が出てくる。この意見の妥当性を生徒たちと検討して,横軸にL,縦軸にT2をとったグラフを描くことにする。

さらに,重力加速度gの求め方についても考えさせ,
①各長さの周期Tからgを求め,さらに平均をとる。

②作成したグラフの傾きを求めて,gを求める。

以上のように,実験結果をまとめて,考察をし,実験レポートとしてまとめて提出するように指示をした。なお,表1の結果を元にまとめたものを,表2,グラフ1に示す。なお,ここではグラフはexcelで描いたが,生徒たちには方眼紙に描かせた。

表2 まとめ
L〔m〕 T〔s〕 T2〔s2 g〔m/s2
1.446 2.41 5.794 9.85 平均
9.82
1.216 2.21 4.889 9.82
1.032 2.04 4.158 9.80
0.853 1.86 3.441 9.79
0.697 1.67 2.802 9.82
グラフ1

グラフより傾きkを求める,gを計算すると

となる。

【生徒たちの感想】

生徒たちは小学生の頃から振り子の等時性について学んでいるが,実際に実験をして確かめたことはないようである。今回のような簡単な装置だが,各長さでの10往復での3回の測定値が,0.1秒程度の差しかないことに驚いたようであった。特に,長さが長いときの測定値では,周期が長いにもかかわらず3回の測定値が0.01秒程度の差となった班も多く,隣り合う班同士で差の少なさを競い合うこともあった。

本校では,高校1年時に記録タイマーを用いて重力加速度を測定する実験をさせているが,精度の良い値がなかなか出せず,9.8m/s2から大きく離れた値となる班も多かった。今回の実験では,9.8m/s2からかけ離れた値となることはないので,満足したようであった。

また,高校1年時では,グラフを書いて傾きを求めて物理量と結びつけるということがなかなか出来なかったが,ようやく慣れてきたように感じる。以下に生徒の書いた実験レポートの一例を示す。

生徒の書いた実験レポートの例 (PDF:2,084KB)

【課題】

生徒に実験させて気づいたことだが,振り子の長さを長くするほど,重力加速度の大きさが大きく出る傾向がある。これについて原因を少し考えてみた。

まず,振り子の振幅が小さくなく近似的な周期 からのずれが無視出来ない可能性がある。振幅が大きくなると周期は大きくなるが,ずれは最大ふれ角θに依存する。振幅が同程度であればワイヤーが短いほどθは大きくなるので,周期のずれは大きくなりgが小さく算出されることになる。ただし,実験する際の注意として振幅を十分に小さくするように指導した。仮に振幅を3cm程度とすると,今回の実験程度の精度では長さにより顕著な差は出てこないように思われる。

また振り子の長さについても若干問題はある。今回の実験では,ワッシャーの中心を単振り子の中心であるとしたが,これは正確ではない。ワッシャーの質量は2枚で22g,ワイヤーは1mあたりの質量が0.84gである。振り子(ワイヤー+おもり)の重心はワッシャーの中心からずれており,ワイヤーが長くなると,ずれは大きくなる。計算してみると長さ1.5mで重心のずれは1mm程度となる。このためワッシャーの中心を重心とすると,振り子の長さとして実際より長い値を用いることとなるので,gが大きく算出される。市販の器具では,おもりとしてワイヤーに対して十分に重い金属球を使っているので重心のずれは考慮しなくていいであろう。これは市販品にかなわない点である。

これら以外にも原因があるかもしれないが,今後,もう少し詳細に考えて,改良してみたいと思う。

【終わりに】

このように,少し手間をかけるだけで安価に生徒実験の器具を作成し,生徒実験をおこなうことが出来る。精度に少し弱点があるかもしれないが,初めに述べたように実践することが大切であると思う。

また生徒たちは,手作りな感じを楽しんでくれているように思う。もちろん,最新のデジタル機器を否定するつもりはない。私自身,デジタル機器の便利な面は授業に活用しているが,便利すぎて生徒たちは本当に中身を解っているのだろうかと思うときがある。

さらに,データの処理やグラフの作成についても,例えばexcelを使えば大変便利であるが,まずデータ処理の基礎を理解させることが大切ではないかと思う。そのためには,自分で電卓で計算し,グラフ用紙に点を打ち,直線を引くことも大切であると思う。便利な道具は基礎を解ったうえで使えば良い。

今後も,既成の器具にとらわれることなく,いろいろな実験を考えていきたいと思う。