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英語

集合(set)の考え方を用いた数学×英語の教科横断授業

埼玉県西武学園文理中学・高等学校 土屋 進一

1.はじめに

新学習指導要領では,その理念を実現するために必要な方策として,「教育課程全体を通した取組を通じて,教科横断的な視点から教育活動の改善を行っていくこと」としている。これからの時代に求められる生徒の資質・能力を育むためには,これまで行われてきた各教科等の学習とともに,教科横断的な視点で相互の比較や分析,関連付けなどによって物事を多面的・多角的に捉える力を育む必要があろう。
しかし,教科横断的な視点を具体的にどのように授業に落とし込んでいくかについて,頭を悩ませている先生方も多いのではないだろうか。
本稿では,集合(set)の考え方を用いた数学と英語の教科横断型授業の実践例を提示したい。

2.単元の目標

数学の部分集合(subset)と英語の後置修飾(Postpositive adjective)の構造を比較してみよう

3.指導生徒

高校1年生普通科 T1組 21 名(男子 10 名 女子11 名)

4.指導手順

導入は,英語,数学の各担当教師の英語によるSmall talkから始まった。日常生活において,レストランのメニューに「Aセット」や「Bセット」という文言を目にすることがよくあるが,これは正しい英語表現であるのかと数学の教師が英語教師に「英語で」尋ねた。この”set”が授業のキーワードとしてその後,教科横断的に展開された。
次に,ペアワーク活動として,Word Definition Gameを行った。Word Definition Gameとは,筆者が毎回,授業の冒頭で行っているペア活動である。生徒はペア(Person A とPerson B)になり,Person Aは黒板が見える状態,Person Bは,黒板が見えない状態になる。そして,教師が示した単語(ここではfurniture, 家具)をPerson AがPerson Bに英語で分かるように説明する。これは,英語を英語で理解し,聞く力と話す力のつく活動であるとともに,その後の授業展開において理解の助けとなるような仕掛けにもなっている。ペア活動が終わると,教師は,"How did you explain?"と質問をし,生徒独自の英語での説明を引き出す。その後,教師が模範となる定義 (a set of movable items required in a room such as tables, chairs, or desks) を提示する。この単語を提示した意図は,furniture (家具)を説明する際,机や椅子といった個々の要素を含む数学の集合に考え方が類似しているためである。実際に,furnitureという単語は,「集合名詞」と呼ばれ,数えられない名詞として教えられる。このようにして,徐々に英単語の表現から数学の集合(set)へと教科横断をしながら理解を深めていく。同様のやり方で生徒は役割を交代し,今度は別の単語(stairs, 階段)を提示し,活動を行う。この単語を選んだ意図もfurnitureと同じように1つ1つのstepが「集合」することによって,stairs (階段)という存在を説明できるからである。模範として用意した定義は,a set of steps that lead one level to anotherである。
次の展開では,数学の教師が,集合の考え方を図1のように示しながら,解説をしていく。途中で「属する」という意味の記号(∈)を含む1∈Aにさしかかった時に再び教科横断が始まる。数学の教師が,1∈Aを英語でどのように言うかを英語教師に尋ね,英語教師が,1 is an element of A.のように説明する。さらに,B⊂Aを,B is included in A.のように表現することを教え,日常でもよく見かける表現「送料は価格に含まれています。」が,Postage is included in the price.と数学の集合と同じ単語を用いることにも触れ,記号と言語で表現しようとしていることが同一であることを確認した。

(図1)

部分集合(subset)の説明では,subsetという単語を提示し,それがsub-という接頭辞とset(集合)から成り立っていることを説明し,生徒にsub-を含む他の単語を知っているかどうか尋ねた。生徒が答えた単語の中に,subway (地下鉄)やsubmarine (潜水艦)があったので,sub-が,それぞれ「下に」という意味で構成されていることを解説することで,subset(部分集合)がset(集合)の下位概念であることに気づかせた。
その後は,部分集合に関する約4分間の動画視聴と内容理解のためのQ&Aを英語で行った。動画はすべてネイティブスピーカーによる英語での授業であったが,生徒もよく内容を理解し,手応えを感じているようだった。
授業の後半では,図2と図3をプリントで図4のように横に並べて示し,数学の部分集合(subset)と英語の後置修飾(Postpositive adjective)の構造を比較することで,共通点を考えさせた。その結果,集合の表記の仕方と英語の後置修飾の考え方が類似していることに生徒が気づき,数学の記号と言語(英語)の共通点を見いだした。

(図2)

(図3)

(図4)

最後に,日常生活に根ざした表現として,レストランの場面における,Are you ready to order? (ご注文はお決まりですか)とAre you all set?(ご注文の品は,以上でよろしいでしょうか?)の違いを数学の集合(set)の概念から考えさせた。readyは,「心の準備ができた」という意味合いであるのに対し,setは「すべてが整った」を含意する。このことから,レストランの全てのメニューの中から注文したメニューの「集合」がそろったかどうかを数学の集合の考え方で教科横断しながら,英単語の深い意味理解を促し,授業を終えた。
授業の残り5分程度で,振り返りも行った。生徒の感想から,教科横断的な視点が英語学習に対する動機づけとなったと思われる主なコメントを以下に挙げておく。

「振り返りシート」より
今日の授業の中で「学んだこと」・「気づいたこと」・「深まったこと」を書いてみましょう。

  • 普段,英語→日本語・日本語→数学という日本語を介して,独立的に学んでいるので,決して交わることはないと思っていた2教科がつながったことで,双方への興味関心を抱きました。
  • 数学と英語という科目は,一見何も共通点がないように思えるが,数学の集合の表記の仕方と英語の後置修飾の考え方が似ていると分かり,学習がより深まった。
  • 一つの単語を深く考えたことがなかったので,非常に興味深かった。setだけでなく,他の単語も掘り下げて考えたら面白いのではないかと思う。また,他の科目を英語で受ければ,内容も身について英語力向上にもつながって一石二鳥だと思った。

5.おわりに

本稿では,数学と英語の教員が教科横断的な視点に立って授業を行い,数学の記号と言語(英語)について,一見異なる2つの事柄が共通点を見いだす面白さを生徒に与える一例を紹介した。今後,このような授業を1つのきっかけとし,生徒がさまざまな教科・科目を学ぶ上で,生徒自らが,学びに向かう主体性を育む授業を展開していきたい。

謝 辞

本授業を行うにあたり,本校数学科の杼原 大貴先生には,授業当日の指導のみならず,指導案作成から授業実施に至るまでの打ち合せにおいても多大なるご協力をいただきました。ここに心より感謝申し上げます。

◆参考映像

土屋進一・杼原大貴 (2021)「教科横断型授業:英語×数学~"set"で深める集合・部分集合~」Find!アクティブラーナー
https://find-activelearning.com/set/4335/con/4336