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英語

オンラインで「伝わる感動」を
~スマコレを使用した主体的・対話的で深い学びの実践~

熊本県立水俣高等学校 前川 彩乃

1.はじめに

本校は,水俣高校と水俣工業高校の再編・統合により平成24年に開校した新設高校。全日制課程には普通科,商業科,機械科,電気建築システム科,定時制課程には商業科が設置されている。平成28年度から5年間,文部科学省による「スーパーグローバルハイスクール」(以下,SGHとする)の指定を受け,国内外での活動をとおしてグローバルリーダーの育成に力を入れた。これまで,水俣市,国立水俣病総合研究センター,水俣環境アカデミア等と連携し,総合高校としての特色を生かした様々な取組を実施した。普通科を中心に多くの国公立・私立大学,各種学校に進学し,専門学科を中心に就職率100%を継続している。

2.スマコレ導入を決めた理由

スマートレクチャーコレクション(通称:スマコレ)とは,啓林館が日本の中高生を対象に販売しているオンライン英語の動画添削サービスである。生徒が指定のサイトにアクセスし,ライティング課題を送信すると,海外の講師からコメント付き添削が返却される。
https://slc.tbshare.net/info/index.html

本校はCAN-DOリスト(4技能5領域)を学科・コース別に作成しており,「書くこと」における3年普通科特進コースの学習到達目標は,「社会的な話題に関して,考えたことや感じたこと,その理由などを80語程度の英語で書く。」としていた。スマコレのライティングメソッドにはエッセイライティングのための問題冊子が付いており,そのStandard版は社会的な話題について60~100語程度で書く問題が扱ってある。本校のCAN-DOリストの学習到達目標に合う教材だと考え,副教材としてライティングメソッド StandardのAプラン(5題)を採用した。

しかし,導入に至るまでには課題もあった。生徒によって家庭のインターネット環境は異なるため,スマコレを導入するには生徒全員が授業でインターネットを使用できる環境を整える必要があった。パソコン室は様々な授業で使用するため,英語表現Ⅱの授業でもパソコン室を使用できるように時間割を組んでもらった。また,生徒の家庭の経済状況を考えることも必要であった。英語は単語帳や問題集など副教材が多く,それに加えて外部試験の受験料などもかかるため,スマコレ導入が家庭の経済的負担にならないよう購入教材のバランスを考える必要があった。

3.使用場面

3年普通科特進コースの英語表現Ⅱの授業で使用した。月に1題のペースで一学期に2題,二学期に3題のエッセイ課題に取り組んだが,休校期間がなければ一学期に3題取り組む予定であった。週2回の授業のうち1回はパソコン室を使用できるよう時間割を組み,使用教室に応じて授業内容を調整した。

●実際の授業計画の例

水曜5限(教室) 金曜4限(パソコン室)
1 別教材 30分 ライティングメソッド(WARMING UP,調べ学習)
2 50分 ライティングメソッド(WRITING EXERCISE) 15~30分 スマコレ(エッセイ入力・提出)
3 別教材 20~30分 スマコレ(添削結果確認,リライト)

一学期は,生徒がパソコンで英文を打つことに慣れておらず,エッセイの入力や添削後のリライトに30分近く時間がかかった。二学期になると入力に慣れ,100語程度の英文を15分ほどで打ち終わるようになった。タイピングの速さは生徒間で差があるため,早く終わった生徒が手持ちぶさたにならないようタイピング後の活動を事前に指示しておいた。また,スマコレ使用後はパソコンをシャットダウンして問題演習などの授業に切り替えていた。

ライティングメソッド StandardのAプランは5題まで添削できるので,4題は以下の題材を指定して一斉指導した。最後の1題は生徒に残り6題から選択させて実施し,そのリライトは授業では行わず各自で取り組むよう指示した。

6月 7月 9月 10月 11月
1 Lesson1
日本のおすすめの
観光地
Lesson2
スマートフォンの
必要性
Lesson5
エコバッグ VS.
ビニール袋
中間考査(L5出題) 生徒が残り6題から選択したもの
2
3 Lesson8
地域社会にひそむ
問題
4 期末考査(L1出題) 期末考査(L8出題)
5

ライティングメソッドのWRITING EXERCISEは,まずブレインストーミングをし,考えを整理してからエッセイを書く構成になっており,授業は次の流れで進めた。

  • ① 自分でブレインストーミング
  • ② グループで考えを共有
  • ③ グループで出た考えを板書させてクラス全体で共有
  • ④ 自分の意見を整理してエッセイを書く

クラス全体で様々な考えを共有することで,生徒は多角的に物事を考え自分の意見を持つようになった。また,「主体的・対話的で深い学び」の実践ができるよう意識的に授業改善を図った。特に,Lesson8の地域課題についての題材は本校のSGH活動とリンクしており,生徒が1・2年生で取り組んだ活動内容を振り返り,学びを深める好機となった。

●Lesson8の授業実践例

【目標】
SGH活動で調査した問題と解決策を多様な観点で議論し理解を深め,自らの意見を再構築する。
主体的・対話的で深い学び スマコレ 本校生徒の例
主体的学び
  • 自己のSGH活動を振り返って解決策を考える。
  • エッセイを提出。
  • 水俣市の環境への取組をもっと世界へ発信すべき!その手段を考えてエッセイを書いて提出。
対話的学び
  • 生徒や海外のエッセイ添削者から多様な考え方を学び,自己の視野を広げる。
  • 添削結果とコメントを確認しリライト。
  • 生徒同士でエッセイを読み合い意見交換。
  • 「世界の国の実情は異なるため,水俣市と全く同じ取組を海外でも実践できるとは限らない」という意見を得る。
深い学び
  • 新たに学んだ考え方や知識を関連付け,問題の解決策を考える。
  • コメントを読んで学びを深める。
  • 別紙ワークシートにエッセイをリライト。
  • 世界の国が抱える環境問題にフォーカスを当て,水俣市が協力できる点を探り,解決策を考える。

4.導入後の変化

スマコレを導入してからの教師側の変化は主に以下の2点である。

①添削の負担減

添削に費やす時間と労力が大幅に減った。文法やスペルの間違いを添削する時間が浮き,添削者からのコメントが良いフィードバックとなった。また,スマコレではエッセイを入力するため,手書きのものよりも読みやすく,スマコレ上で添削前後のエッセイの比較がしやすかった。浮いた時間でALTと一緒に生徒のエッセイの論理性をじっくり評価し,頻繁に見られるミスを資料にまとめて生徒と共有する余裕ができた。

②「伝わる英語」の重要性の再確認

スマコレでは,海外の添削者が生徒のエッセイを読むため,一種の異文化交流となる。日本では当たり前だと考えられている慣習や価値観でも,海外の添削者にとっては当たり前ではないものがある。そのため,生徒がエッセイを書くときには伝えたいことが具体的に書かれているか,海外の添削者に伝わる英語で表現できているかを確認するよう意識した。特に,昨今の社会情勢の影響を受け,海外交流の少ない時代だからこそ,オンラインで英語を使って異文化交流をするツールとしても活用できると感じた。

このように,スマコレを導入することによる教師側のメリットが大きく,研究授業でもスマコレを使用した。その合評会での意見を紹介する。

【英語科教員】

  • SGH活動の調査内容を題材とし,多様な観点で議論することで深い学びが実践できている。
  • 他の生徒のエッセイを読むことで多様な考えに触れ,語彙や文法の間違いにも気づきやすい。
  • 自分のSGHテーマでない題材を議論することがInformation Gapになり,生徒が新たな情報を学ぶ仕組みになっていた。
  • 自分のエッセイを他人に読まれることに抵抗感がなく,生徒が互いを受容できる雰囲気だった。

【他教科教員】

  • 黒板とチョークの世界と大きく違った授業で近未来のようなイメージ。ディスカッションを通して題材を深く掘り下げていて,数学ではできない授業構成だった。
  • 英語はコミュニケーションの道具であるから「英語を使って何を教えるか」を意識した授業だった。

また,生徒側にも様々な変化があったが,特に変化を感じたのは英語学習に対する生徒のモチベーションである。実際に海外の添削者からコメントがもらえることが新鮮で,最初にスマコレを使用した時は大きな盛り上がりを見せた。英語のコメントをなんとか読もうとしていて,添削結果というよりは「お手紙」感覚で楽しそうに読んでいた。添削者からのコメントは非常に前向きな表現で書かれているため,生徒の自己肯定感が高まった。回数を重ねるごとに英語学習に対する意欲が高まり,積極的に英語を調べ,友人と話し合うようになった。生徒からは「添削者のコメントが嬉しい」「どんな人が自分のエッセイを添削してくれるか楽しみ」といった声が上がった。

5.おわりに

学校の教育環境や生徒の実情は学校によって様々である。しかし,試行錯誤して生徒が英語を使いたくなる授業を考えるのはどの学校も同じではないか。その授業実践の一つの方法としてスマコレを使用して私も生徒も感じたことは,「自分の英語が伝わるって嬉しい」ということだ。生徒には「伝わる感動」を忘れずにいてほしいと願っている。