この実践事例は,高校2年生のコミュニケーション英語Ⅱの授業でリテリング活動を行い,その評価をパフォーマンステストと定期考査で行うことで,単元を通した4技能5領域の力の総合的な育成と,指導と評価の一体化を目指したものである。使用している教科書はRevised ELEMENT English Communication Ⅱであるが,この教科書の良い所は,なんと言ってもその教科書関連データの豊富さ,使いやすさであろう。
本文だけをとっても,スラッシュ入りのものやパラフレーズ版,Easy version,Summary例など,様々な種類が用意されている。New Wordsのリストと各語の英語の定義や,Retelling用ワークシート,補充リスニング問題なども,加工して使いやすく,実際に授業用ワークシートや定期考査作成の際に非常に有用であった。当報告では,そういった教科書関連データの活用事例も含めながら,授業と評価の実践を紹介したい。もちろん「このやり方が完璧だ!」などと言うつもりはないので,「どうやって授業に「話すこと」を取り入れようか…」とか,「英語で話させた,書かせたのは良いが,それをどう評価しようか…」と思っている先生方に,一つの事例として参考に,あるいは叩き台としてより良い指導法を確立するのに役立ててもらえば幸いである。
例として,2学期に扱ったLesson 6 Caddy for Lifeの単元の構成を以下に示す。
第1時 | 課末のGrammar and Structure(文法事項の確認) |
---|---|
第2〜5時 | 本文①〜④ |
第6時 | 課末のComprehension, Vocabulary(内容理解と語彙の復習)+ Writing Activity |
第7時 | パフォーマンステスト(リテリング+意見) |
第8時 | 確認テスト(主にWorkbookより出題)+Writing Activityのフィードバック |
第2~5時の教科書本文を扱う部分の予習としては,補助教材として採用した「予習ノート」に取り組み(新出語の確認,パラグラフの概要把握,内容理解,英文解釈),ELEMENT教科書巻末のQ&Aを各自の授業用ノートに解いてくるように指示している。予習ノートを用いることで,内容理解や文法事項を押さえた英文解釈などをスピーディに行うことができ,授業では表現の定着・運用に重点を置いた指導が可能となる。予習ノートと授業用ノート(Q&AやSummaryを解く)は考査前に点検をし,「コミュニケーションへの関心・意欲・態度(以下,関心・意欲・態度)」の観点で評価をしている。
授業は基本的に以下のようなB4版のプリントと,上述の予習ノートを用いて進めている。
<資料1 :ワークシート>(737 KB)
① 導入(目安時間:5分)
本文を扱う1時間目は,教科書の各Lesson最初にあるLeading Inを活用する。Lesson 6ではLeading In音声を用いてディクテーション活動を行った。答え合わせは生徒全員に問いかけながら,板書を用いる。ここで,教員が英語で “A caddy is usually a person who helps golfers by carrying his or her golf equipment during a game.”と説明をして,後のリテリングのヒントを与えることも可能である。
以降の各時間は,前時のリテリングに基づいたQ&Aなどを行うことで「話すこと[やりとり]」の活動を通して前時の復習と本時へのスムーズな導入を行うこともできる。
② 新出語の確認(目安時間:5分)
私は教科書関連データの中にある新出語のエクセルファイルを活用しており,特に新出語の定義(英語)や,熟語の例文があるのが有用だと感じている。生徒は予習段階で新出語の意味を調べているので,授業では「発音確認 → ペアワーク→ Fill in the blanks(定義から単語を選ぶ活動と新出語句を用いた空所補充)」を5分程度でテンポ良く行うようにしている。発音確認は,注意すべきものをピックアップして板書し,生徒にペアなどで確認させたのちに正しいモデルを示すようにしている。その後のペアワークはジャンケンをして勝った方が新出語句の日本語を言い,それを負けた方が素早く英語で言う活動を20秒ずつ交替で行うというものである。その後,すかさずワークシートのFill in the blanksに移り,覚えた知識を活用させている。
③ 英文解釈(目安時間:10分)
補助教材の予習ノートのC:Sentence Structuresを用いて英文解釈を行う。文法事項を含む英文が3つピックアップされているので,生徒の理解に応じてポイントを絞って解説や答え合わせを行う。適宜ペアで指名をして,一人が英文,もう一人が日本語文を読み上げるようにして,生徒の発音と理解を確認する機会を設けるようにもしている。予習ノートの見開き左側には教科書本文が載っているので,こちらもポイントを絞って指示語が指すものを確認する際に活用している。
Paragraph OutlineとReading Comprehensionsは自学用とし,解答配布とノート点検のみにとどめている。自学できる箇所は授業では扱わず,授業内では教員や他の生徒との対話から学んだり,英語で表現したりする機会をできるだけ多く取り入れるためである。
<資料2 :予習ノート>(161 KB)
④ 内容理解→インプット(目安時間:10~15分)
ここまでで,新出語・語法・文法・指示語の確認が済んでいる。それらを踏まえて本文の内容理解を行う。読解は予習段階で済んでいるので,ここではリスニングによる理解を促す。生徒は教科書や予習ノートを閉じた状態で一度音声を聞いて,簡単な内容理解の英問英答を行う。リスニングへの集中を保つ目的で,時には音声を途中で止めて教師が発問したり,生徒同士に英問英答をさせたりもする。ここであまり込み入った答えを要求すると,予習で覚えてきた答えを言うだけになってしまうので,あくまで「きちんと聞き取れれば答えられる」程度の事実発問を扱うようにしている。より込み入った発問は予習の読解の時に行うように指示しておき,解答を配布して生徒がじっくり確認できるようにしておく。
推論発問や意見交換などのインテイクにつながる活動を行いたい場合は,内容理解とは別に時間を設ける場合もある。教科書の英問英答の中には,推論を要するものや自分の意見を考えるものなどもあり,内容理解を深める際に役に立つ。例えばLesson 6では以下のような質問が教科書に示されている。
Q10. Do you think it was the right decision for Watson to encourage Bruce to work for someone else? Why do you think so?
ここでは意見が問われているので,多様な解答が予測される。実際に行った授業では,ペアをかえながら意見交換を行い,他の人の意見も参考に,各自改めて意見を考えておくように促した。その上で,後日行うパフォーマンステストの一部にも活用した(3.パフォーマンステスト参照)。
内容理解が済んだら,音読練習とサイトトランスレーションでインプットを行う。音読練習を行う場合には,必ず目的を明確にし,単なる作業にならないようにすることが重要である。本実践では主にシャドーイングを行い,モデル音声を正確に真似して1回,さらに内容の意味解釈にも注意を払いながらもう1回行った。その後は,サイトトランスレーション用ワークシートを配布し,日本語から英語への口頭での翻訳練習を個人やペアワークなどで行う時間を設けた。
<資料3.サイトラ用ワークシート>(565 KB )
⑤ インテイク→アウトプット(目安時間:10~15分)
この段階では,これまでの「読むこと」と「聞くこと」を通して得た知識や本文の情報を「話すこと[やり取り]」の活動になるようにアレンジしたリテリングへとつなげる。Lesson 6ではCaddy for Lifeの本(実際に教科書本文の元になった書籍)を読んでいる生徒Bに,別の生徒Aが話しかけ,内容について質問をするという場面を想定している。相手の質問に答える箇所がリテリングとなるように「何について話すのか」と「用いるべきキーワード」を示している。これらを示すことで,自由度は出しつつも,英語で伝えるべき内容や,用いてほしい英語表現についてはいくらか誘導することができる。
A:Hey, what are you reading?
B:Oh, hi. This is a biography of Bruce Edwards.
A:(※Partial repetition) → Is he a golfer?
B:No. 〈 ①About Bruce Edwards 〉 [ well known, at age 49 ]
A:A caddy?
B: Um, you know, 〈 ②What a caddy is like 〉. [ a person who, by ~ing, during a game ]
B:(※A short comment). But why is he so famous?
A:・ ・ ・
※ Partial repetitionは,相手の発言の一部を繰り返すことで,確認をしつつ,自然に次の発話へとつなげる部分である。ここでは,予想されるAの発話として,“Bruce Edwards? Is he a golfer?”などが考えられる。A short commentは,例えば“I see.”や“I didn’t know that.”など,直前の相手の発話に対する短い感想やリアクションなどを自由に表現して次の発話へとつなげる。
リテリングを行うBは〈 〉で示された内容を[ ]内のキーワードを用いて英語で表現する。ここでは,“He is a well-known caddy, not a golfer. He died at age 49.”といった発話が考えられる。仮に,関係代名詞とpass awayと言う熟語を使いこなす力を育みたければ,キーワードにwhoと pass(またはaway)を入れると,“He is a well-known caddy, who passed away at age 49.”という発話を導くことができる。
活動の具体的な手順としては,上記のような対話をワークシートに載せておき,生徒に自分で練習する時間を設け,その後ペアワークに移るようにしている。特に初めて行う場合は,会話が得意な生徒に手伝ってもらって,先に教員が手本を示せば,その後の生徒同士の活動がスムーズに進むであろう。リテリング箇所は3箇所ほど用意しておき,時間で区切ってA・Bの役割を変えても良いだろう。また,適宜新しいペアを作るだけでも生徒は新たな相手と新鮮な気持ちで活動ができる。(ちなみに,今回のワークシートの反省点として,1つの対話文の中にリテリング箇所が4つもあり,活動が区切りづらかったという点があった。そのため,次回のワークシートからは対話文をConversation①〜④として分割した。そうすることで小刻みに活動を区切ったり,ペアの相手を変えたりすることが容易になり,運用がしやすくなった。)
ペアワーク後は,指名して代表生徒に実演してもらい,うまくできた点を中心にフィードバックを行う。もちろん実演してくれた生徒たちの文法・語法のミスばかりを注意して,話す意欲を削がないように気を付けている。使ってほしい表現や注意すべき箇所があれば,自然なタイミングで教員が言い直して見せたり,プリント等でリテリング例を参照させながら示したりすると良いだろう(ちなみに,授業で扱わなかった予習部分の解答も同じプリントに示し,家庭学習で答え合わせをしておくように促している)。こういったリテリングのワークシートを作成したり,リテリングのモデル文を示したりする際には,教科書関連データ「Retelling用ワークシート」が非常に役に立つ。そのままでも十分有用であるが,育みたい表現力に応じて加工するにも使いやすいものとなっている。
リテリング活動の様子
パフォーマンステストの案内(実施日,場所,評価基準,範囲,実施方法など)は,1週間前を目処に生徒に提示している。以前は生徒一人一台のパソコンが使えるCALL教室でヘッドセットを用いて一斉録音という形式を取っていたが,この度の新型コロナウイルス感染症対策のために断念せざるを得なくなった。代替手段として,CALL教室を生徒の待機場所とし,教室の外で生徒が一人ずつ順番に自分のパフォーマンスをiPadに録画していくという形式にした(ホームルーム教室で行うには廊下を使う必要が出てくるため,他のクラスの授業の邪魔になってしまう)。iPad2台をビデオカメラ用の三脚にそれぞれ設置して,互いの声や周りの視線が気にならないように配置した。2箇所で行うことで,40人規模のクラスでも録画自体は30~35分程度で済む。待っている生徒は自習課題に取り組み,こちらの提出も評価に加えることにしている。具体的な実施の仕方は生徒に配布した実施要領と評価シートを参照してほしい。後でわかったことだが,以前行っていたビデオカメラやパソコンを用いた録音に比べて,iPadによる録画のほうが生徒の機器操作のミスはほとんどなかった。スマホの普及により,それに近いタブレット端末の方が生徒にとって操作に慣れているためであろう。
パフォーマンステストの評価は,「外国語表現の能力(以下,表現)」の観点で定期考査の得点同様に成績に加えることにしている。このパフォーマンステストの実施があると,生徒の授業内でのQ&Aやリテリングなどのペアワークに取り組む姿勢が非常に意欲的になる。その結果,クラス全体の言語活動の雰囲気が活発になり,個々の生徒が英語で話しやすくなるという良いサイクルが生まれていることを実感している。
<資料4. リテリングテスト案内>(621 KB)
<資料5. リテリングテスト要領・評価シート>(1,250 KB )
リテリングテストの様子
教科書本文が終わると,次の時間(2. (1)の第6時)でWriting Activityを取り入れている。題材に関連したテーマについて意欲的に書くことを目的としているため,「関心・意欲・態度」の観点で成績に加えている。例として,Lesson 6では,ある場面において登場人物の間でどのような会話がなされたかを予想して英語で記述するというタスクを課した。「表現」や「知識」の観点で教師が全てを評価する時間は取れないため,自己評価のための基準として,「場面設定や登場人物の関係性や心情を踏まえて伝わりやすく表現する」ように指示をした。可能であれば,ALT等に良い作品をピックアップしてコメントをしてもらうのが良いだろう。第三者に良い所の評価をしてもらえるというだけでも生徒は大いにやりがいを感じているようである。場面設定や登場人物の関係性,心情などについて,教科書にある情報をもとに想像力や思考力を働かせて書くことになるため,結果的に「深い学び」になったのではないかと考えている。以下にワークシートと生徒の書いた英文,教員によるフィードバックを載せている。
<資料6. Writingワークシート>(616 KB)
<資料7. Writing Feedback>(518 KB)
定期考査では「外国語理解の能力(以下,理解)」と「言語や文化についての知識・理解(以下,知識)」を主に問うようにし,「表現」の観点での出題は少なめにしている。採点の負担が増えすぎないようにするためである。そういった意味でも,パフォーマンステストを別途実施して「表現」の観点での評価を別途行っておくのは良い方法のように思う(こちらも1クラス1~2時間は評価に時間がかかるが,学期末の成績処理のタイミングを避けられるだけでも有効である)。定期考査での「表現」の観点での出題は,パフォーマンステスト同様に,授業内でのリテリングに関するものにしている。教科書本文の抜粋を参照できるようにして,できるだけ得点源になるようにしているが,キーワードを変えたり字数制限を設けたりすることで,ポイントとなる表現を的確に問えるよう心がけている。
【4】以下の対話は,教科書Lesson 6 Caddy for Lifeの内容を知らないAに,Bが説明している場面である。対話が成り立つように,空所(1) ~ (3)に入れるのに適切な英語を指定された語数の英語で書きなさい。あとに示す教科書本文の抜粋は参考にしてよいが,与えられたKey wordsはすべてそのまま用い,最後に語数を記入すること。[表現:16点]
A : Hey, what are you reading?
B : Oh, hi. This is a biography of Bruce Edwards. He was a famous caddy.
A : A caddy?
B : A caddy is usually (1) <10~15語>Keywords: who / carrying during a game.
A : I see. But why is he so famous?
B : He had another idea about caddying. He thought that (2) <20~25語> Keywords: tell / the course condition and /
no matter .
A : So, he was a very devoted caddy, right?
B : Yes, but what was more special about him was …(以下省略)
例えば,(1)は,carryingを現在進行形として用いると適切に解答することが難しくなる。授業で練習したby ~ingを用いることができれば,“A caddy is usually a person who helps a golfer by carrying his or her equipment during a game.”という解答を導き出せる。同様に(2)はtellやno matterがキーワードにあるため,tellの語法(人を間接目的語にとる)が正しく使えるかという点と,教科書本文の“from any spot”という部分を “… no matter where he was.”などに適切にパラフレーズできるかどうかを問う問題となっている。採点基準については,文法・語法の配点は半分程度とし,残り半分は内容が伝わる程度により基準を設けて判断している。
授業で行うリテリングのタスクを再度加工して,パフォーマンステストや定期考査において再度問うことには多くのメリットがあるように思う。教員にとっては,パフォーマンステストや定期考査作成時の負担が軽減される。生徒にとっても,繰り返し表現する機会になるため,学んだ内容や表現が定着しやすい。さらに,授業での活動と評価がリンクしていることが明確であるため,生徒は授業内でのリテリング練習により一層意欲的に取り組めるようになる。パフォーマンステストは1年を通して4回行ってきたが,クラス全体が意欲的に取り組む雰囲気ができることで,恥ずかしさやためらいなどがなくなり,一生懸命思考し,言語活動に励む姿が多く見られた。授業内に限らず,生徒のパフォーマンスの録画を見ていると,一生懸命に練習をした跡が随所に見受けられ,生徒の向上心にも驚かされた。
もちろん良いことばかりではなく,実践を通して見えてきた課題もある。パフォーマンステストの難易度が高すぎて,途中で諦めてしまう生徒が出てしまったこともあった。出題方法に工夫が足りなければ,丸暗記に頼る生徒が増えてしまう事にもなる。定期考査などと同様に,生徒の実情に応じたレベル設定と,丁寧なフィードバックの重要性を再認識した。
とはいえ,今回の実践の中で「英語を通して人の意見を知るのがおもしろい!」という興味・関心や「英語でBruce Edwardsについて説明をすることができた!」といった達成感を得ている様子を目の当たりにできたことは大きな収穫であったように思う。今後も,生徒の学ぶ意欲と英語力をさらに高めていけるような授業を目指して,試行錯誤を続けていきたい。
<参考文献>