高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

教師主体から生徒中心の授業へ

兵庫県立加古川南高等学校 教諭

1.はじめに

本校は兵庫県内に16校ある総合学科の1つである。卒業後の進路は大学進学,専門学校への進学,そして就職の3パターンがあり,その中でも大学進学を目指す生徒はそれほど多くないのが現状である。しかし,どのような進路になったとしても,将来的に自分が学んだ事をまとめ,人前で発表する力や,チームで何かを作る力,資料を読み取る力は誰にでも必要とされるものである。総合学科の特徴として,1年次では産業社会と人間,2年次では総合的な探求の時間,3年次では課題研究が設定されている。これらの授業を通して,自分の調べたことを,自分の言葉でまとめ,他者に伝える力を養っていくことが目標の1つであるのだが,私が担当している1年次生の産業社会と人間の授業と英語や国語,数学といった教科との関連がまるでないように感じた。そこで,英語の授業に何か工夫を加え,産業社会と人間の授業目標に近づけるような活動ができないかと考え,以下の活動を行うことにした。

2.本クラスが抱える問題

そして,これらの問題に共通していることは,生徒が「分かりません」と諦めてしまい,教師が単語の意味を表示したり,SVOCや文法を説明したり,日本語訳をしたものを,考える前に,言われた通りに書き写してしまうことだ。
これらの問題が少しでも改善されるような授業になるよう目標を持ち,以下の活動を実践した。

3.授業実践

(1) 活動内容

Revised LANDMARK English Communication ⅠのLesson8 “Mariko Nagai, Super Interpreter”を用いて授業を行った。Lesson8には,長井鞠子さんがどれほどの努力をし,通訳の準備を行っておられるのか,通訳という仕事の大変さ,ただの通訳ではなく,人に感情や気持ちを伝えるにはどのようにすればよいのか,などが書かれている。それらを文章で読むだけではなく,自分たちで通訳を体験してみることで,少しではあるが,Lesson8の本文内容をより理解できるのではないかと考えた。

(2) 活動の中での生徒が取り組む課題

(3) 授業準備

まず,生徒たちに活動の内容を伝え,Part1のParagraph1を用いて,教師によるデモンストレーションを行った。ALTに英文を読んでもらい,JTEが通訳として,読まれた英文を通訳していった。
次に,Part1のParagraph2からPart4のParagraph2までを細かく区切り,生徒たちが担当する箇所を分担した。
英文を読む練習をする際に使う音読の音声をタブレットに入れ,操作の方法を指導した。

(4) 活動の様子

辞書や文法の参考書を一生懸命に引き,グループで協力し合いワークシートと日本語訳を完成させていた。「分かりません」と質問に来るのではなく,「関係代名詞が使われていることは分かったのですが,これは,こういうことですか」や「このitが差す内容は,私は~~だと考えたのですが,合っていますか」など,以前よりも具体的な内容を質問する生徒が多かった。何度も音読のCDを聞き返し,難しい発音の単語は,さらに電子辞書の発音の機能を使い,練習を繰り返す生徒も多かった。
それぞれの発表が終わった後に,「よく分かったよ」や「発音上手だね」と,生徒同士で称え合っている姿も多く見られた。最初は,話された内容をメモに取ることで精一杯だった生徒が,だんだんと顔を上げて発表を聞き,頷き,メモが取れたらペンを置き発表者への合図を送ることができるようになった。この活動をした5時間の間に,生徒の成長を見ることができた。

4.成果と今後の課題

上記のように,生徒自身が自分たちの役割をしっかりと果たし,互いの発表を聞きながら行った授業に対し,生徒達は次のような感想を書いてくれた。

  • 責任感を持って自分のパートを調べるのでとても良いと思いました。
  • 英語を話す機会が増えて良いと感じた。
  • 聞くだけではなく自分なりにメモをとらないといけないので覚えやすかったです。
  • 前よりも内容がよく理解出来ました。
  • 授業に集中できて理解しようとする意欲が高まった。これからも続けてほしいです。
  • 聞くだけではなくメモも取らないといけないのでとても聞きやすかったし友達からの言葉はとてもわかりやすかったです。
  • 生徒達と考えて話して理解を深めることが出来てコミュニケーション力も上がったと思った。
  • 自分たちが中心なので積極的に学習に取り組めたように思います。
  • 自分で考えてみんなに説明するのは難しかったですが,今まで以上に理解しようと取り組めた。
  • ぼーっと聞いてて話が進んでいるのではなく,絶対自分がやらないといけない!と言う義務があるので,自分の範囲はもちろん友達の範囲のも覚えやすく,文法も頭に入りやすかったです。

また,授業の感想の他にも,難しかったことや自信がついたこと,楽しかったことなども次のようにまとめてくれた。

  • 中学に習った文法などが出てきた時,基本知識なのに,分からなくて振り返って日本語訳に変換することが難しかったです。でも,日本語訳が完成した時に,全く出来ないって思ってた英語が,少しできるようになった気がして自信が湧きました。
  • 難しかったことは,何から何まで自分達で調べることです。たくさんの意味があってどれがこの本文に当たっているのか,それを考えるのが1番難しかったです。楽しかったことは,グループに分かれてしたので,色んな子達と話すことができたり,みんなの前に立って発表したりして,とにかく授業は楽しかったです。
  • 自分たちで文法を見つけられたりした時嬉しかったです。
  • 新しく習った単語を発音するのが難しかった。前で発表するのが楽しかった。前で発表する時,ゆっくり英語を話すから理解が深まった。
  • 1から自分で調べて,ひとつの単語でもたくさんの意味があってどれがこの本文にあうのかというところが難しかったですが,発表し終わったあとの達成感が実感できたので,楽しかったしいい経験になりました。
  • 文の意味がわかった時は嬉しかったし頭に残った。
  • 説明を聞いても理解できなかった場合は追いつけなくなりそう…というのがあったり,またスピード感があるので午後の授業でも眠くならないと感じました。

これら生徒の振り返りから,英語に対しては苦手意識を持っていた生徒も,少しずつ自信を持て,英語を楽しめたように思えた。自分たちで責任をもってやらないといけないというプレッシャーはあっただろうが,練習を入念に行う生徒や,事前に予習として質問に来る生徒,発表の直前の休み時間まで一生懸命に発音練習をする生徒の姿を見ることができ,自分たちで学習しようとする意欲が高まっていると感じた。Lesson8の本文内容にもあった,長井さんのモットーである”Careful preparation and hard work never fail”を,生徒自身が体感できたように感じた。また,聞く側の生徒もしっかりメモを取り,英文と照らし合わせながら理解しようとする姿も印象的であった。生徒たちは,おおむね良い意見をフィードバックとして挙げてくれたが,まだ課題も多く残る。今回の活動はパートを分担して行ったため,それぞれの生徒が取り組んだパートが異なる。その為,本文のパートごとに内容の理解度が異なってしまう。その点を改善し,全部の範囲に全員が同じ時間をかけて触れ,内容理解していく時間を持てるような授業構成を心掛けたい。

5.さいごに

最初に述べた通り,本校は総合学科であるため,特別に設定された科目がある。よって,他校行では通常1年次で英語の授業が5時間あると思うが,本校は4時間しかない。それに加え,4・5月の緊急事態宣言による休校の為,「ここまでは1年次で終わらせなければ」と私自身が焦ってしまい,教師主体の詰込み教育をしてしまっていた。どんな状況になろうとも,生徒が考えるチャンスを奪わないような授業計画を綿密に立てていかなければならないと改めて感じた。