前任校では生徒と教員の全員がタブレット端末1を持ち,家庭学習や授業に活用していた。1年生の教科書は最近3年間ElementⅠを継続して使用し,授業担当者は基本的に同じスタイルで教えている。本稿では, タブレット端末を取り入れた英語授業を紹介したい。
*1 2015年度現在はNexus 7 2013を使用している
授業中タブレット端末は主に授業担当者が使用する。各教室にある大型テレビと授業担当者のタブレットは無線で同期していて,タブレットに表示された画像,音声,動画はすべて大型テレビで生徒と共有することができる。授業はすべて英語で行い,生徒には予習を要求しないスタイルを採用している。新しいレッスンに入ると,付属の画像資料や教員が準備した動画などをつかって導入した後,単語の紹介,各段落にふさわしい英語のタイトルを選ぶ,英問英答,Structure解説と訳(この部分だけ日本語)と進んで行き,1 Partを1授業時間で終えるペースで進む。
図1はElement付属のCDロムの資料から取捨選択して作った授業用のハンドアウトの一部である。生徒は教員の指示や説明を聞きながら,ハンドアウト上の質問に解答して行く。解答解説については基本的に板書は行わず全てタブレットから大型テレビに映し出す。映し出すデータは教員が分担して作った共通のものである。共通フォーマット,共通データを使って授業を進めることで,全ての担当者が一定レベルの授業を行うことができる。しかし全ての担当者が全く同じ授業をしているわけではなく,英語で授業を進めながら如何に生徒の興味を引き,意味のある英語のやり取りを行っていくかが,個々の授業担当者の腕の見せどころである。
生徒は予習をしない代わりにしっかり復習することが求められる。その際にタブレットを使用することによって密度の高い学習を行うことができる。タブレット端末にはElementⅠを電子書籍化したもの2(図2)が内蔵されている。電子書籍には単語を指で長押しすると辞書が立ち上がる(図3)などの利点があり,授業中には詳しく扱わなかった単語や語法を確認することができる。さらに別に内蔵している音声教材をタブレット上で再生すると教科書を開かずにレッスン内容を確認しながら音声を聞くことができる。授業でシャドーイングやディクテーションテストなどを行っているので生徒は家庭で,なんども音声を聞き音読してくることが求められる。
*2 出版社の許可を得て担当校教員が作成したもの
大型テレビにワイヤレスで繋がっているタブレットを使用することには2つの大きなメリットがある。その一つは,レッスン内容と関係するビデオや画像を見せることが飛躍的に簡単になることである。普通教室ではPCもプロジェクタもないことが多いので,ビデオを見せたいときは専用の教室に移動する,あるいはPCとプロジェクタを持ち込んで接続するなどの手間がかかったが,千里高校の場合は教室に入ってリモコンでテレビのスイッチを入れて,タブレットをテレビと同期させるだけである。
もう一つのメリットは生徒に背を向けて板書する時間が減るので授業進度が速くなり,生徒と向き合う時間が増えることである。節約した時間を教師と生徒,或いは生徒同士の英語によるやりとりやプロダクション活動に使うことができる。プロダクション活動は,全パートを読み終えた後に行う。例えばElementⅠのLesson 1では各パートが終わるたびに、付属の画像を見せながら内容のretellingを行った。またレッスン終了後にはグループ分けして,その中の一人の生徒が福沢諭吉になり,他の生徒がインタビューするといったことを行っている。
かつて最新技術だったテープレコーダにせよ最近のインターネットにせよ中高の英語授業に新しい技術が導入されるたびに,英語教育が決定的に変わるのでは,という期待がもりあがった。そのたびにもちろんある程度の変化はあったものの残念ながら革命的と言える程の変化は起こらなかった。
いま注目を集めているタブレット端末も大きな可能性をもつ非常に便利な道具ではあるが,タブレット端末を使ったから自動的に生徒の英語力が上がる訳ではない。英語学習に役立つかどうかは結局使い方次第である。つまるところ英語教師に理想の授業のビジョンとそれを実現する情熱とスキルがなければ,便利な道具も宝の持ち腐れである。当校では,英語授業の良し悪しは,生徒同士や生徒と教師間の意味のあるやり取りがどれだけ行われるかや,生徒の学習への動機付けがどれだけできるかで決まると考えている。タブレットPCは授業中のコミュニケーションの機会を増やすための授業の効率化と,授業および家庭学習におけるインプットの量と質の拡大のためだとある意味割りきって考えて導入した。その後3年をかけて試行錯誤しながら,ほぼ使用法がなんとか確立されたところである。まだまだ改善の余地はある。
英語教育の本質はICTそのものの中にはないということを理解しつつ,日々進化するICTの技術とともに教員の知識と技術をアップデートしながらさらに授業を改善しなければならないと考えている。