本稿では,ElementⅠの教科書を用いて,いかに生徒の活動を重視した形で学習事項の定着をはかり,英語による表現力へとつなげていくかという観点で,現在進行中の私の実践の幾つかを紹介させていただきたい。
本校では,パワーポイントの画面をjpeg形式で保存し,番号並べ替え無料ソフトで並べ替えたあと,メモリスティックに保存したコンテンツを,プロジェクターから黒板に直接投影する,という形をとっている教員が多い。私も,多少の試行錯誤を経て,その形に落ち着いた。
本文を投影することが多いが,今年の取り組みとして,巨大文字で単語を映し,フラッシュカードのように使う,ということをしている。英語で映された単語の意味を日本語で言い,次に,英語と日本語を同時に示して意味を確認する。特に復習の時に有効なのは,日本語の意味の投影を見て英語の単語を言い,そのあと投影される英語の文字で確認しながらもう一度言う,という方法である。順番を,教科書出現順と入れ替えておけば,記憶のチェックになるし,教科書出現順とすれば,英語の単語を幾つか言ったあとで,短文としてつなげ,簡単な本文要約とすることもできる。
例えばhereditary(Lesson 1)を『世襲制』という日本語に置き換えても,ピンとこない生徒もいるのではないだろうか。そこで,ElementⅠ指導資料の定義を参考に図1のようなスライドを作り,投影することにした。教室の後ろからでも十分に読める大きさなので,ペアで確認させ,hereditaryの意味を文脈の中でとらえられるように促した。その結果,passという言葉の意味の確認も同時にでき,Lesson 4で出てくるpass onの意味に先取り的に軽くふれることができた。また,このようにかみくだくことで将軍の世襲が家系によるもので,大統領とは本質的に違う,ということも確認できた。
本文説明の際にも,この黒板への投影による教材提示は有効である。英問英答の答えを本文に即して確認することができるし,日本語での意味の確認を部分的に行うこともできる。このようなステップを経て口頭要約もできるようになる。
例えば,図2の例(Lesson 2)では,音読を終えた後で,本文をさかのぼる形で答える問いとして"What was George's idea?"と聞くことにより,その答えを探しながら,本文を読みなおし要点をつかむことになる。
教科書やプリントを見ながらもできるが黒板に本文が提示されていると,ペアワークの時に視線があがるし,教員が最後にまとめる時にも,色チョークなどで要点に下線をひくなどすれば,全員の注目を集めやすい。プリントに答えを写す,のでなく,黒板に投影された文字を手掛かりにしながら,部分的に言いかえつつ,口頭で答えるのがポイントだ。
前時の復習の時には,以下の例(Lesson 3)のように,キーワードのつづりの一部を抜いたものを提示し,再建する形で読ませる。音声を流しながらする時もあるし,ペアになって1人が読みながら,片方は教科書を見ながら助ける形にすることもある。
また,同様の物をプリントにして配り,ディクテーションをさせたり,空欄のまま,ペアで練習させたりすることもある。この場合も,1人は教科書を見ながら助けることにし,セクションごとに交代することにすると,適度の負荷と解決があるので連続して活動しても,あまり飽きないようである。
このような指導法は,既にさまざまに紹介されているが,大事なのは,生徒の様子を見ながら,時には方法を適宜アレンジしながら続けることだと思う。穴埋め用のプリントにしても,裏側には空欄の下に日本語があり,表側には英語と空欄のみ,として,どちらでも好きなほうで練習してよい,などとすると,ただそのような選択ができるだけでも取り組みに主体性が加わるようである。
本文中のグラマーフォーカスの印がついている文などを中心に,幾つかの文に下線を引き,日本語による意味確認を行っている。下線部の意味について,ポイントを決めて,ペアで確認する方式をとっている。席が隣り合う横の2人だけではなく,振り向いて縦の2人,時には4人で取り組ませることもある。このようにすることのメリットは,生徒同士が確認している声を聞きながら,生徒の理解度を確認できることである。想定外のところで生徒の理解がズレたり,行き詰ったりしていることに気づけることである。
図4の例では,このcome trueをrealizeにしてはいけないのだろうか,という疑問をもった生徒がいた。その問いを全体で共有し,自動詞と他動詞の違いをあらためて確認する機会になった。実は,センター試験2010年のものに類題があることがのちに分かった。
次の生徒が疑問をもったのはseeである。予習をしてある生徒でも,近くの席で理解がすすまない生徒に説明しようとすると,その理解をもう一度確認しなければならない。辞書でseeを引いて,「ほら,これだ」,「ということはifは…」などと確認する声が聞こえてくる。その声をひきとって全体指導につなげ,要点を板書する。
逐語訳をやめて部分的な意味確認にする時,教員が事前にプリントを用意すると情報過多になったり,あるいは,生徒の実際の理解度にあわなかったりする。プリントを埋めるだけの受け身的な学習になる。そこで,発想を転換して,そのプリントをまずは教授者用のメモとして手元に置き,授業の中では生徒の発言を聞きながら説明事項のポイントを絞ると,生徒の実態に即した説明内容の精選ができる。せっかくのプリントは復習用として授業後に配布すれば,授業を活動主体にしても知識に穴が残ることを防げる。もちろん,プリントを毎回作らなくても,教科書準拠のワークブックを併用してもよいと思う。
埼玉県ではジグソー法による協調学習を,「未来を拓く『学び』」の一形態として,県教育委員会が推進校と推進委員を委嘱し,研究開発を行っている。ElementⅠ(~Ⅲ)のように,話題の鮮度が高い場合,教科書を素材として協調学習を設計できる。
例えば,Lesson 5では,本文の学習を上記の手順で終えた後に,類似のケースについて学ぶことにした。教科書題材も参照したと思われる,アメリカのMake-A-Wish Foundationのホームページを見て,ほかに3つのケース(A・B・C)を選び,紹介記事を抜粋した。これらの素材について,『誰がどんな夢をかなえ,その結果だれが幸せな思いをしたか』を英語で話し合わせた。42人クラスとしてA・B・Cについて3人グループを2つと4人グループを2つ作っておくと,ジグソーの段階で,ABCの事例をもちより3人ずつで話し合うことができる。三脚が平面を決めるように,3人だと,話し合いの中で力関係が固定せず,また,それぞれ最初に検討した事例が違うので3人ともがなんらかの発言をする必然性が出てくる。
そして,最後にコミュニケーション場面を設定して,3つの事例をメタ的にまとめていくようにすると学習したことが統合されて深まる。この例ならば,『誰がどんな夢をかなえ,その結果だれが幸せな思いをしたか』の事例に基づく考察のまとめとして,『Make-A-Wish活動の魅力を伝える公共広告を作ろう!』という活動を展開した。その過程で,Lesson 5が伝えようとしていたこと,難病の少年と周囲の人たちとの関わり,少年の夢をかなえるのを手伝うことで周囲の人も生きがいのようなものを感じ,だから手伝いたくなった,という内容の理解が深まる。
別の例としてLesson 4については,『山口氏が国連に呼ばれたのはなぜか』という観点で,A:オバマ演説,B:山口氏の体験,C:山口氏のメッセージ,についてそれぞれ書かれた教科書の該当部分を読み直した。そしてそれを,アメリカ人の高校生に実際質問された答えとして書いてみる,という活動を行った。本文の要約を,コミュニケーションの相手を想定して行ったことになる。
ElementⅡのSelective Breedingなど,賛否が分かれるような話題では,教科書とは違う具体例を用いてさらに思考を深めることができる。
前半では教材提示法の工夫,後半では言語活動の工夫の一例を紹介した。教室での活動を受け身に終わらせず,内容を考え,表現形式を考えながら,能動的な学習活動の質と量を確保する取り組みである。生徒は今のところ意欲的に取り組んでいる。