高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

内容理解とその先にあるもの

明治大学付属中野高等学校 瀬田 直人

1.はじめに

私の行っている日々の授業を振り返ってみると,読むための技術を教えることが目的になっているように思う。いわゆる文法の解説や,本文の内容理解を含めた和訳や問題演習といった活動に象徴されることである。

しかし,このような授業展開では,生徒は受け身のままで,教師から生徒への一方通行の授業になってしまう。書かれている内容に目を向け,そこから何を感じ,どう自分の意見を発信していくかが大切なのではないかと考える。

書かれている内容のさらにその先にあるものは何なのか,教科書の内容が読めるように授業を行うというのではなく,その先に広がる題材に目を向けたい。このように考え生徒が興味関心のわくような授業を展開できるように授業計画を練ってきた。

本校では啓林館ELEMENT English CommunicationⅠという教科書を使用している。この教科書を使ってみて感じることは,内容の面白さ,興味深さということである。Lesson 10 Playing the Enemyは,アパルトヘイト撤廃後に行われた南アフリカラグビーワールドカップを題材に扱ったレッスンである。このレッスンにおける授業実践を以下で述べていく。

2.教科書の内容を読み取る-Vocabulary Buildingを意識した読解

(1)Graphic Introduction and Retellingを使ったOral Introduction

教科書には本文に入る前に2ページの写真部分がある。ここには本文の内容に関する写真や図が掲載されている。この部分を使って,ペアで話をさせてその内容をクラス全体にフィードバックする活動を行っている。

(2)単語の復習

各Part毎に新出単語が15個程度出てくる。私は授業の中でフラッシュカードを使って毎回単語・熟語の確認をしている。フラッシュカードを使うことによって「日本語から英語」「英語から日本語」などのバリエーションをつけながら,短い時間に多くの単語・熟語を確認できるのが利点である。またこの時は全員が顔を上げて私の持っているフラッシュカードを見ているので,発音するときの声もしっかり出ている。

(3)接頭辞・接尾辞・派生語・対義語・同義語に注目する

その後,本文内容の読解に入っていく。ここでは文の構造や単語の確認をしながら読み進めていく授業展開にしている。ここで私が気をつけているのが,Vocabulary Buildingの方法である。既習単語,新出単語に関わりなく,一つ一つの単語に対して接頭辞・接尾辞・対義語・同義語・派生語がないかを考え,語彙を増やしていけるように意識付けをしている。私が参考にしている単語帳は,『システム英単語Premium』と『東大英単語熟語』という二冊である。『システム英単語Premium』は接頭辞・接尾辞・語根という項目が,アルファベット順に分かれて掲載されている。項目毎に参考にしやすく,また出てくるコラムも面白いので気に入っている。『東大英単語熟語』は派生語と類義語が充実している。難解な単語もあるが,イラストもついており,イメージを大切にしながら単語学習をすることができる。

3.教科書の内容を膨らませる

本文の読解が終われば,内容の理解は済んだことになる。しかしそれで終わりにしてしまうには,このPlaying the Enemyというレッスンはあまりにももったいない。そこから深く内容を掘り下げることで大切なことが見えてくる。私が取り上げた内容は,南アフリカの歴史,ネルソンマンデラという人物について,南アフリカラグビーワールドカップの意義という3つである。

(1)Apartheidの意味

アパルトヘイトについては,南アフリカの歴史を語る上でキーワードとなるものである。Apartheidという単語の成り立ちに注目して,以下のような文章を板書した。

Apartheid (an Afrikaans word meaning "the state of being apart", literally "apart-hood") was a system official segregation in South Africa enforced through legislation by the National Party (NP) governments, the ruling party from 1948 to 1994, under which the rights of the majority black inhabitants were curtailed and Afrikaner minority rule was maintained.
< http://en.wikipedia.org/wiki/Apartheid >

単語の成り立ちという点に関しては,日頃から語源について注意を払うように話をしてきている。このような観点から,上記のようなApartheidという単語の説明も比較的すんなりと理解することができた。また説明の中には難しい単語も出てきているが,本文の内容等から推測して英文を読むことができた。

生きた英語に触れることで,客観的に自分たちの学んでいる英語がどのようなレベルなのか,どの程度使える英語なのかを実感できる。このような機会を授業の中でも作っていき,広がりのある内容を扱っていきたいと思っている。

(2)映像の活用

・ 映画「インビクタス」

アパルトヘイト撤廃後の南アフリカとネルソンマンデラについては,「インビクタス」という映画が役に立った。

この映画の冒頭30分のところを授業で生徒たちに見せた。ラグビーをやっている白人の姿,ネルソンマンデラが黒人初の南アフリカ大統領になった日の様子,そして黒人と白人の様子が非常によく描かれている。南アフリカラグビーワールドカップが行われるに至った経緯が書いてあるPart 1が終わった段階でこの「インビクタス」の冒頭を見せたのだが,英文で読んだ内容を視覚的に見てイメージをつかめたので,それ以降の教科書の内容も興味関心を持って授業に臨んでいた。

・南アフリカラグビーワールドカップの決勝戦の映像

http://www.youtube.com/watch?v=LmQHWex_UFo

YouTubeを調べると,南アフリカラグビーワールドカップ決勝の映像を見ることができる。映像では選手入場のシーンが終わると,ネルソンマンデラ大統領がスタジアムに登場し,選手一人一人と握手をする。南アフリカの歴史や,ネルソンマンデラの功績を学習した後であれば,その偉大さがよく分かる。試合開始直前には,ニュージーランドのナショナルチームであるオールブラックスのハカ(ニュージーランドマオリ族の民族舞踊)の映像もあり,ラグビーに関する知識にも触れることができた。

3.最後に

南アフリカのアパルトヘイトという人種隔離政策に関しては知っている生徒も多かったが,民族の融和にラグビーというスポーツが一役買っていたということは,生徒にとっては新鮮であったようだ。また,私が授業を担当しているクラスに,ラグビー部の生徒が多く,意欲的にこの内容に取り組んでいる姿をよく見かけた。

また,この題材を扱ったのが昨年の11月であったのだが,その後ネルソンマンデラが亡くなったというニュースが報道された。そのようなニュースに興味を持ち,新聞の切り抜きを自分のところに持ってきてくれた生徒がいたことは,今でも印象に残っている。

英語を読めるようになったり,テストでよい点を取ったりすることは大事なことではあるが,教科書で学んだ内容に対して,さらに深く,興味関心をもって生徒一人一人が学ぶことを続けていく,そのきっかけを作っていけたらと思っている。

参考文献:http://www.youtube.com/watch?v=LmQHWex_UFo