高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

「わかる」ではなく「できる」を実感させる生徒主体の授業づくり
―インプット→インテイク→アウトプットを確実に―

東京都立小岩高等学校 海谷 千波

1.はじめに

英語教育ではよく「実践」という言葉が強調されますが,「理論」も大切だと考えています。「理論」と「実践」は車の両輪の関係だからです 。「いつでも,どこでも,誰でも使える」授業技術と展開(理論)を構想し,実際の授業づくりと改善(実践)をしています。あるいはその逆に,日々の授業づくりと改善を通した,新たな授業技術と展開の考案・開発を目指しています。

本稿の目的は,「わかる」授業ではなく,「できる」授業づくりの一例を示すことです。ここで言う「できる」とは,生徒が「英語を使うことができた」と達成感を味わうことを意味します。そこで,(1)授業の基本方針および前提条件,そして(2)コミュニケーション英語Ⅰの授業展開例を紹介することで,試案(あるいは,私案)を議論したいと思います。

2.基本方針と前提条件

「英語の授業は英語で」

『高等学校学習指導要領』の「外国語」の項目に「授業は英語で行うことを基本とする」とあります。これは「[生徒が]英語による言語活動を行うことを授業の中心とする」(文科省,2010,43頁)ことを意味します。もちろん英語が苦手な生徒や,家庭学習の習慣のない生徒もいますが,このような生徒がいるからこそ「授業は英語で」行うべきだと考えます。なぜならば,技術・技能系科目と同じように,生徒がどれだけ英語を理解・表現できるようになったかが毎授業の成否を分けるからです。確かに教師の解説が必要な時もありますが,授業の主体である生徒の言語活動が授業の中心であるべきでしょう。この意味において,授業中にインプット,インテイク,そしてアウトプットの全てを行い,生徒が「英語を使うことができる」授業づくりが大切です。

「全ての学習活動はアウトプットに通ず」

授業は全体として,「インプット(理解)」活動の後に「インテイク(定着)」活動を十分にとり,最後に「アウトプット(表現)」活動を評価するように構成されています。授業技術・展開を構想する際,1レッスン,あるいは1パートを1つの単位として4技能指導の手順を最適に配列することを心がけています。これは必ずしも1時間で4技能すべてを指導するというのではなく,1時間に特定の技能を集中的に指導しながら最終的に4技能全てを指導することを目指します。ここで大切なのは,生徒の学習状況に応じたスモール・ステップをできるだけ多く準備し,生徒が何度も「できる」を実感できるように工夫することです。この目的を達成するために,どの指導技術を採用するかを考え,その指導技術の効果を最大限に引き出す展開を考える。指導展開の順番を変えたり,新たな指導技術を採用したり,あるいは採用していた指導技術を止めたりする。このような試行錯誤を繰り返すことが必要です。その結果,現在では,授業全体の7~8割程度は生徒が英語を使う授業が可能となっています。

3.「コミュニケーション英語Ⅰ」の展開例(資料1

本稿では,一般的なオーラル・イントロダクション(金谷他,2012年,204~207頁)とは違う授業展開を紹介します。1つのパートを2時間配当とし,1時間目はオーラル・イントロダクションとストーリー・リテリング,そして2時間目は説明と音読という2つの流れで授業を展開しています。

この展開については批判等もあると思いますが,上述のように生徒の学習状況に応じて授業技術や展開を調整することが求められると考えます。実際の授業で1時間目のストーリー・リテリングや2時間目のオーバーラッピング(アウトプット)で成功しようと,一生懸命に練習(インプットやインテイク)する姿を見ると,採用している指導技術・展開はある程度信頼性の高いものだと感じています。

「ストーリー・リテリング」を目標とした展開例(資料2

インプット活動 まず,keynote を使用し,必要な単語,記号,絵や写真 などを黒板に投影しながらオーラル・イントロダクションを行います。生徒が本文の内容を理解しやすいように,できるだけ平易な語彙や文法を使用し,英文を言い換えます。生徒はスライドを見ながら英文を練習しますが,一斉読みや個人読みなどを組み合わせることで,1文につき10回前後音読(・黙読)します。また,オーラル・イントロダクションの際,授業展開を活発にするために,生徒との質疑応答を繰り返すインタラクションも大切にしています。

インテイク活動 次にワークシート(資料2)を配布し,「Listen & Write」の欄でキーワードの確認をします。ディクテーションとして扱っても,確認問題として扱っても構いません。これがストーリー・リテリングの原稿となるので,生徒は一斉読み,そして四方読みでしっかり原稿を音読します。

そして発表リハーサルに入ります。ペアを作り,1人がワークシートを下の方から「LEVEL 1」の線まで折り,2分間発表の練習をします。もう1人はパートナーの発表練習を確認したり,単語の頭文字や訳例などヒントを与えたりして生徒同士で学び合います。また,LEVEL 1ができた生徒は,ワークシートを「LEVEL 2」の線まで折り,keynoteのスライドに似た状態で練習します。2分後に役割を交代し,同様に練習を繰り返します。そしてペア練習の後,1分間の個人練習を行います。この段階では,生徒はそれぞれにペア練習で難しいと思った箇所やできなかった箇所を集中的に練習します。

アウトプット活動 最後に,「ストーリー・リテリング」を行います。この際,生徒が自分でkeynoteのスライドを進めながら,発表します。この時大切なのは,生徒が最後まで発表することで達成感を味わうことです。また,発表前後で拍手を送り,発表者を励ましたり,称えたりすることも大切です。こうすることで,発表の雰囲気づくりができます。

「オーバーラッピング」を目標とした展開例(資料3

インプット活動 ワークシート(資料3 を配布しワード・ハントを行います。和訳を黙読し,本文全体の内容をある程度理解した後で,英語を音読し,読めない単語に印をつけます 。ここで音読するのは,「読めるつもり」にならないようにする対策です。ここまでで日本語による内容理解と「読める/読めない」単語を確認します。しかしここではまだ発音指導をしないまま,ペアで音読練習へ移ります。

インテイク活動 この時点のペア音読に期待することは,生徒同士の学び合いです。ワークシートを1行ずつ交代で読み,一度読み終わったら順番を変えてもう一度交代で読む。この過程で,生徒は読めない単語を互いに学び合ったり,ペア同士でも分からなければ他のペアと学び合ったりします。この間に机間巡視し,生徒が読めない単語を確認し,板書しておきます。そうすることで,この後に行うリスニングの時に,特に注意して聴き取るべき単語を抽出できます。リスニング活動の後,生徒が読めなかった単語の確認をしてから,1人1行ずつ読ませて全体で確認してから,一斉読みを行います。

さらに,リード・アンド・ルックアップで,英文定着を図るとともに,「オーバーラッピング」の準備をします。全体で行ったり,ペアで行わせたりします。全体でリード・アンド・ルックアップを行う際には,生徒の黙読(インテイク)の時間を十分に配慮しながら,発話させることが重要です。

アウトプット活動 最後に,音読の仕上げとして「オーバーラッピング」を行います。本文の量や難易度にもよりますが,1分30秒から2分程度の制限時間内に,どれくらいオーバーラッピングできたかの確認をするために,ワークシートの行番号に印を付けます。このオーバーラッピングでは,特に英語の苦手な生徒がオーバーラッピングを完全にできた時の達成感はとても大きなものになります。

4.おわりに

本稿では,アウトプット活動を評価することで,生徒が「英語を使うことができた」と実感できる授業展開例を紹介しました。しかし実は,本稿で紹介した授業技術や展開にオリジナルのものはありません。すべて著書や論文,そして学会や研究会等で紹介されてきたもの(あるいは,それらに修正を加えたもの)です。言い換えれば,誰にでも入手・利用可能なものですし,いくらでも修正可能です。したがって,授業技術・展開については単に使用するだけでなく,独自に修正を加えたり,校内での授業技術や展開の共通化や教材の共有化を目指したりするのも良いでしょう。そうすることで,冒頭で述べた「いつでも,どこでも,誰でも使える」授業技術と展開に向けて授業づくりができると思います。

参考文献
金谷憲他編(2012).『英語授業ハンドブック<高校編>』.大修館書店.
文部科学省(2010).『高等学校学習指導要領 外国語編 英語編』.開隆堂.