小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

STEAM教育 未来を生きていく子どもたちに主体的な学びを
~第6学年 私たちの生活と電気 「プログラミングで節電・節水を 「未来の学校STGs(外町Goals)」~

6年佐賀市立本庄小学校 馬場 智大

1.はじめに

主体的に学習に取り組む子どもはどんな姿であるかと考えた。私は,自然の事物・現象に没頭して関わったり,自分の問いを解決したり,願いを実現しようしたり,自分の生活に学習が生かされていることに気付いたりする,そんな姿こそ主体的に学習に取り組んでいる姿だと考えた。そんな姿を表出させるため,単元のゴールの設定や教科を横断したカリキュラムマネジメント,STEAM教育の視点から単元づくりを行った。未来の学校はこんな風に環境に配慮し,便利になってほしいという子どものアイデアや願いが詰まった前任校(唐津市立外町小学校)での実践を紹介する。

2.教材・教具について

本実践ではプログラミング教材のmicro:bitを活用し,電気を制御したり,音を鳴らしたりする回路を子どもが作成をした。その他に回路に使用した教材はどこの学校にもあるモーター,プロペラ,豆電球,みのむしクリップ,コンデンサー等を使い実験を行った。回路は子どもたちが作成した模型の中に組み込み実験する。模型は子どもたちが設定した未来の学校のある場所を表現している。リアルな生活感をより出すために温度変化を扱う子どもはドライヤーや扇風機を利用したり,明るさの違いを活かしたプログラミングした子どもは卓上ライトを使用したりするなど,実生活でも使うものを実験に使用している。コンデンサーはメーター付きコンデンサーのみを使用し,限りある電気を有効活用することを意識させた。

3.教科横断カリキュラムマネジメント

私は6年担任を教職9年間で5回経験した。子どもたちと電気の学習をする際,プログラミング教材を活用し,電気を制御したり,決めた条件のときにだけモーターを回したりする学習活動を単元内に組み込み授業をしてきた。その時に,どうしても教師からプログラミングを教え込むような,悪く言うと押し付けるような感じがしていた。子どもにとって自分事になっていなかったのであろう。子どもたち自身に「こんなプログラミングを作りたい。」「こうすると便利だ。」「人を感知して自動で電気が点く場所が身の回りにあるから再現してみたい。」という思いや願いをもたせ,それを実現できるような単元にすべきだと考えた時に,以下の表のような単元計画に至った(表1)。国語科の教科書の中に,私たちにできることを考えて友達に提案するような単元があった。「教室の電気がつけっぱなしにされてる」,「水の出し過ぎが気になる」という自分の考えを,国語科の言語活動として文章を書いたり,スライドを作ったりして提案する単元である。これを理科の「私たちの生活と電気」の単元で回路や模型などと併せて提案するとより具体的で,提案性のあるものになると思った。このような経緯から理科の学習を1つの教科に留まらず,他教科等の単元と組み合わせてマネジメントした(写真1)。子どもたちにとって,より自分事の問いや願いを解決し,実現するような主体的な学習になるカリキュラムマネジメントだと考える。

【表1】

単元計画
1次
  • 単元のゴールの設定「未来の外町小は環境のためにどう節電・節水すればいいか」
  • 理科の教科書に沿って,様々な電気の性質を学ぶ。
  • 節電,節水に関するアイデアをノートに記述する。
2次
  • プログラミング教材「microbit」で様々なプログラミングに触れる。
  • 子どもたちのアイデアに沿って模型作りを行う。【図画工作科】
  • 提案する内容をプレゼンテーションにまとめる。【国語科】
3次
  • プレゼンテーションの練習,模型に電子回路を組み込む。
  • 子どもたちが聞いてほしい人を考え,その人たちに節電,節水に関するアイデア提案をする。

【写真1】

4.授業の実際

単元のゴール~子どもが学習したことを発揮する"活動"~

単元のゴールは本校の1年間の電気代,水道代を事務室の職員に棒グラフにしてもらい,それらをもとにクイズを出したり,支払いが高い月の理由を考えたりする活動の後,教師から提案した。また,先に学習したてこの単元において,「過去にタイムスリップ」というキーワードを使って単元のゴールを設定していたため,今回は「未来にタイムスリップ」して自分たちでよりよい未来の学校の姿を考える学習であることを語った。

1次~理科の学習で獲得した知識・技能を活用し,ゴールで発揮するために~

電気の性質について学習をしていく中で,1枚ポートフォリオを活用した。子どもの問いや学習をしていく中で獲得した知識・技能を整理して書いたり,振り返りを書く場所も設け,教師が適切に評価したり,学習を見取ったりする手立てとした。
1枚ポートフォリオは紙媒体か電子媒体かを子どもが自由に選択できるようにした。以下の写真2は電子媒体の1枚ポートフォリオである。Teams上にアップし,共同編集機能を活用することで,教師が子どもの様子を把握しやすく,子どもたちも互いのポートフォリオを見ることができた。写真3は1枚ポートフォリオ内の1部で,ここに問いや学習をしていく中で獲得した知識・技能を整理して書いていく。このシートの目的は3つあり,①単元のゴールを常に意識させること。②問いや願いを自由に書かせることで授業の導入で活用したり,子どもの主体性を育んだりすること。③知識・技能を活用させることが単元を通しての教師の狙いであるため,このシートに書き込むことで知識・技能の整理や,アウトプットの機会とし,事実的知識が概念的知識に移り変わる手助けとする。この①~③の3つが目的である。

【写真2】

【写真3】

2次~子どもの願いがこもったプログラミングの実際~

子どもはmicro:bitに触れる中で様々な機能に出会った。その中でも3つのプログラミングとその電子回路模型を紹介する。 
写真4の左,ドライヤーを使い実験している回路は「熱くなったら自動でエアコンがつく,扇風機がつく未来の教室」がテーマである。ドライヤーの温風を当てると電流が流れ,モーター(プロペラ)が回転する。冷風や扇風機を当てると温度が下がったことを感知し,モーターが回転しなくなる。エアコンや扇風機が付けっ放しになっていることを教室での生活経験から発案したものである。
写真4の真ん中は「明るさセンサーによる自動水栓機能がついた未来の学校のトイレ」がテーマである。用を足し終えた時に便座からお尻が離れると自動で水が流れる(モーターが回転する)という回路で,トイレで困った経験から,こんな機能があると嬉しいと感じた子どもの願いから作られたものである。
写真4の右は「自動水栓機能の手洗い場」がテーマである。校内にもすでにあるものではないかと疑問に思ったところ子どもに「10秒間水を出し過ぎると警告音がなるんです。」と自慢げに説明された。プログラミングで明るさセンサーに合わせて,音を鳴らすプログラムを音符と休符を組み合わせて作り,みんなが知っているなじみの音楽をセンサーが感知してから10秒後に鳴るように作曲し,プログラミングした。
子どもたちのアイデアは無限に広がっていた。電子回路模型に思いや願いを込めて主体的に学び,教師の想像を超えていく子どもたちの姿がたくさん見られた。

【写真4】

3次~単元のゴール活動 未来の学校の提案発表~

「単元のゴールの発表は誰に聞いてほしい?」と1次の最後に子どもたちに発問してみた。すると,「友達」「先生」「5年生」「学校で使うお金って誰が決めるの?」「事務室の先生じゃない?」「教育委員会の人やろ」「先生誰ですか?」こんな会話が1つの発問の後,繰り広げられていた。ゴールに向かい,あふれるアイデアをたくさんの人に見てほしいとワクワクしているように感じた。子どもの願いをできるだけ実現させるのが教師の役目であると考え,発表会には他クラスの6年生,5年生,同学年の先生,教頭先生,校長先生,事務長先生,市の教育委員会の先生を招待することができた。研究授業でもないのに,これだけの人に参観してもらえることに嬉しく思うとともに,子どもの思いや願いをみんなが叶えてあげようとしているんだと感じた。また,教師と子どもと会話したり,相談したりしながら学びや学び方を調整してくこと,教師があらかじめレールを引きすぎないことが今後様々な教科,単元で必要不可欠であると感じた。
発表の実際は以下の動画を参考にしてもらいたい。模型を見せながら説明をする様子,プログラミングを実際にする様子が見られる。

授業の実際1

授業の実際2

授業の実際3

5.終わりに

この単元後,国語の学級で話し合う単元で「理科で勉強したSTGsのときみたいに卒業も近いし,地域のごみ拾いをして,感謝を伝えるという活動がしたいです。」という意見が出た。学級みんなが賛成し,その意見が学年の3クラスにも広まり,総合的な学習の時間に校区内の玄界灘沿いをゴミ拾いする活動を行った(写真5)。理科の学習が子どもたちから広がりを見せた。また,子どもたちの環境への意識の高まりを感じる瞬間であった。STEAM教育という大きな視点を基に組んだ本単元。子どもたちが主体的に学習に取り組めるようにという私の願いを込めたわけであったが,単元を進めていく中で子どもの願いをかなえてあげたいという気持ちに,知らず知らずのうちに意識が変わっていた。忙しさや難しさを感じる場面ももちろんあったが私自身も主体的に学んでいたのかもしれないと思う。学びのゴールは設定しているがそのゴールは徒競走のようなゴールではない,山登りのような自分なりの到達点が本単元の単元のゴールであると思う。子どもそれぞれに,個別最適なゴールがあり,学びを活かす活動が子どもの主体性を搔き立てると感じる。

【写真5】