例題1.
に対して,| D |=ad−bc , [D] =a+d とおく。
のとき,以下の問いに答えよ。
(1) | A2| を求めよ。
(2) A2−[A] A+| A | E を求めよ。ただし,E は単位行列である。
[1998年度 創価大]
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| D |はdet(D), [D] はTr(D) を表している。A に対しては,| A | =−26, [A]=1 である。
(1) であるが,A2 を計算する必要はない。det(A2)= det(A)2 であるから, | A2 | = | A |2 =(−26)2 である。 (2) は性質 (v) である。
次の例題も,trace の性質をモチーフにしたものである。
例題2.
2次正方行列 (a, b, c, d は実数)に対して,実数 f (A) をf (A)=a+d と定義する。これについて性質
f (A±B ) =f (A)±f (B)(複号同順)
は証明なしで使ってよい。
(1) |
2次正方行列 A, B に対して,f (AB) =f (BA) を証明せよ。
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(2) |
2次正方行列 P, Q が P=PQ−QP を満たしているとする。このとき,f (P)=0 を証明せよ。
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(3) |
(2)の P に対して,f (P2) =0 を証明せよ。
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(4) |
(2)のP に対して, を証明せよ。 |
[2001年度 千葉大]
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f (A)=Tr(A) である。 (1) は性質 (i) の証明である。 (2) は,Tr(P) = Tr(PQ)−Tr(QP)=0 より得られる。 (3) は,P 2= P(PQ−QP) =P 2Q−PQP から,
Tr(P 2)=Tr(P 2Q )−Tr((PQ)P)=Tr(P 2Q )−Tr(P 2Q )=0
とすればよい。
(4)について考える。性質 (vi) を行列 P に適用すると
Tr(P 2)−(Tr(P))2 +2det(P) = 0 また,仮定よりTr(P 2)= Tr(P)=0 であるから,上式よりdet(P)=0 である。 一方,Cayley-Hamilton の方程式
P 2−Tr(P) P+det(P)E =O
を利用すると,
P 2=Tr(P) P−det(P)E =O
となることがわかる。
T(A)=Tr(A), Δ(A)=det(A) を表している。
(1) は行列式の性質 (i) である。
(2) はtraceの性質 (vi) から,Tr(A2)=(Tr(A))2−2det(A) より得られる。 (3)については,これらの組み合わせでできる。性質(vi)を行列 A2 に対して適用すると,
Tr(A4)−(Tr(A2))2+2det(A2)=0…[1]
である。
[1] の各項について考える。
A4=E より,Tr(A4)=2である。
det(A)=1より,det(A2)=det(A)2 =1 である。
よって [1] より,Tr(A2))2=4 すなわち,Tr(A2)=±2 となる。 性質 (vi) を再び用いる。(Tr(A))2=Tr(A2)+2det(A) であるから,
(Tr(A))2=0, 4
よって,Tr(A)=0, ±2 となる。
先程,Tr の持つ性質
(i) Tr(A+B)=Tr(A) + Tr(B)
(ii) Tr(kA)= kTr (A)
(iii) Tr(AB)=Tr (BA)
について述べた。逆に,2次の正方行列から実数全体への関数f が (i' ) f (A+B) = f (A)+f (B) (ii' ) f (kA) = kf (A)
(iii' ) f (AB) = f (BA)
を満たすならば,f (A) = αTr (A) (αは定数)と表されることがわかる。
次の例題をもとに,実際に示してみよう。
例題4.
2次の正方行列 X を定めると,それに対応して実数 f (X) がただ1つ定まり,次の条件 (a), (b), (c) を満たすとする。
- (a) 任意の実数 k と,任意の2次の正方行列 A, B に対して,
f (kA)=kf (A) , f (A+B)=f (A)+f (B)
(b) 任意の2次の正方行列 A, B に対して,
f (AB)=f (BA)
(c) 単位行列 に対して,f (E)=1 である。
, , , とするとき,
(1) 零行列 に対して,f (O)=0 を示せ。
(2) PQ, QP を求めよ。
(3) f (P), f (Q), f (R) , f (S) を求めよ。
(4) に対して,f (A) を求めよ。ただし,a, b, c, d は実数とする。
[2006年度 富山大・医]
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(1)について,性質(i' )から
f (O)=f (O+O)=f (O)+f (O)
より,f (O)=2f (O) であるから,f (O)=0 である。 一般的に f (A+B)=f (A)+f (B) が成立する関数に対しては,f (O)=0 が成立する。
(2), (3)について考える。
性質 (iii' ) f (AB)=f (BA) よりf (P), f (Q), f (R) , f (S) を求めることができる。
P, Q, R, S の相互の積について考えると,PQ=Q, QP =O より,f (PQ) = f (Q),
f (QP)=f (O) である。f (PQ)=f (QP) であるから,f (Q)=f (O) である。
また,P, Q, R, S の相互の乗積表を作ると,下表のようになる。(XY の値を記している。)
この表から,f (PR)=f (RP) より f (R)=f (O), f (QR)=f (RQ) よりf (P)= f (S) となる。 以上より,性質 (iii' ) 単独で,f (Q)= f (R)=f (O), f (P)= f (S) が導けることがわかる。 次に f (A) を具体化する。
f (P)=f (S)=α とおく。 (1) よりf (O)=0 だから,f (Q)=f (R)=0 である。
任意の は,行列 P, Q, R, S を用いてA=aP+bQ+cR+dS と分解される。 性質 (ii' ) より,f (A)=af (P)+bf (Q)+cf (R)+df (S) となるから,
f (P)=f (S)=α,f (Q)=f (R)=0 より
f (A)=(a+d )α= αTr(A)
と表されることがわかる。
αの値は,条件(c):f (E)=1 より確定し, である。 したがって, となることがわかる。
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