授業実践記録 | |
対数の導入について |
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兵庫県立御影高等学校 山口勝幸 |
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1. はじめに
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一般の高校生にとって、log という新しい記号が登場する対数の概念を理解することはなかなか難しいようです。対数の導入の授業を行う際、何の工夫もなくただ定義を読み上げるだけでは「2数 a,b が与えられたとき logab が1つの実数を表す」ということさえつかめない生徒が多数出てくる危険性があります。「対数」という新しい数のイメージを自然にとらえられるよう、対数を導入する際、私が授業で行っている実践例をここで紹介します。 |
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2. 授業の展開例
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授業の最初で、対数が生まれた経緯を生徒とともに振り返ります。
2□=2,2□=4,2□=8 の□に入る数は、順に1,2,3であることは、多くの生徒がすぐに気づくでしょう。20=1については、答えられない生徒もいるかもしれません。復習も兼ねて、ここで a0 の値について簡単におさらいするのが、私のいつものやり方です。
この説明を通して、直感的にではありますが、底が2の場合(指数関数が増加関数になるから)対数関数は増加関数であることも、自然な形で理解させることも試みています。 を生徒たちに提示します。
授業の中で、実際に電卓やコンピュータを用いて log23 の近似値を求めさせたことはありません。この部分の説明はあまり深入りせず、あっさり通り過ぎた方がよいと思います。
などの結果から、log23=1.58…… に近づいていくことができます。
ほとんどの教科書が、指数関数 y=ax のグラフを用いて、この関数が1対1対応であることを確認した後、すぐに対数の定義に入っています。指数関数が1対1対応の関数であるからこそ、その逆関数である対数関数を定義できるわけで、この指数関数の特徴を確認することは数学的に大切なことですが、 2□=3 の□に入る数が二つ以上あるのではないかと疑問をもつ生徒はほとんどいません。彼らがつまずくのは log という記号は何を表しているのか?なぜ log という新しい記号を導入する必要があるのかということなのです。そして、そのつまずきの最大の原因は対数が2変数関数であるということだと思います。つまり、三角関数のように1つの数 θ に対して f (θ)=sinθ の値が1つ対応する1変数関数の場合、新しい記号が登場してもなんとか理解できる生徒も、底 a および真数 b の2つの数に対して logab という1つの数が決まるということを理解することがかなり難しい。さらに対数の場合、底 a および真数 b には底条件 (a>0,a≠1) と真数条件 (b>0) という制限があるので、機械的に定義を教え込んでも表面的な理解にとどまり定着しません。どういう経緯で対数という数が考案されたのかを振り返ることによって、 logab は1つの実数であることを認識させることは対数を理解する上で有効だと感じます。 対数の定義を定着させる練習問題としては、教科書に掲載されている代表的な問題で十分でしょう。ここでも対数 logab が1つの数であることを強調するように心がけています。
そして、対数 logab が1つの数を表すことが十分定着したと思われた段階で、対数の値を計算する上で基本となる対数の値を紹介します。
ただし、私はここで必ず次のことにふれます。
32 の値を計算させる問題では、次のような解答例をよく目にします。
この解答例を理解することはもちろん大事なのですが、解法としてあまりにも複雑すぎると考えます。a =b は案外いろんなところで役立つ式です。
最後に、 log23 が無理数になることは直感的に理解させるだけで導入の授業ではいつも証明は省略します。しかし、背理法を用いると案外簡単に証明できるので、数学の得意な生徒や理系の生徒たちに「家に帰ったら、チャレンジしてごらん。」と促すと、時々次の時間に自分の証明を持ってくる生徒もいます。
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3. おわりに
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授業におけるこの程度の工夫は、どの先生方も独自に考えておられると思います。また、対数の導入に関してももっとすばらしい授業を展開されている先生方もいらっしゃると思います。このような機会を通して情報を交換し、授業を受ける生徒の力や特質に応じて一つ一つの授業がよりわかりやすく実のあるものとなるように臨機応変に対応できるようになればと私自身思っています。そして、少しでも多くの生徒に数学の美しさや簡潔さが伝わることを念頭に置いて、これからも授業に臨みたいです。 |