1.はじめに
光合成(同化)のしくみを理解するために行われる実験に,ペーパークロマトグラフィーによる光合成色素の分離がある.この実験の材料としては,ホウレンソウがよく用いられている(最近では,シソなども用いられている).しかし,植物をそのまま使用するため,鮮度や植物体内の水分などが問題になる場合がある.そこで,最近数多く市販されている乾燥食品(フリーズドライ食品)を用い,ペーパークロマトグラフィーの実験を試みたので報告する.
2.材料
実験に用いたフリーズドライ食品は次のものである1)2).
(1)種子植物(クロロフィルa,b,カロテン,キサントフィル(ルティン)を含む)
[1] ホウレンソウ(アカザ科)
[2] ダイコンナ(アブラナ科)
[3] ミツバ(セリ科)
[4] アサツキ(ユリ科)
[5] ニンジン(セリ科)
[6] キャベツ(アブラナ科)
[7] アオジソ(シソ科)
(2)緑藻類(クロロフィルa,b,カロテン,キサントフィル(ルティン)を含む)
(3)紅藻類(クロロフィルa,d,カロテン,キサントフィル(ルティン),フィコビリンを含む)
(4)褐藻類(クロロフィルa,c,カロテン,キサントフィル(フコキサンチン)を含む)
[10] ワカメ(アイヌワカメ科)
[11] ヒジキ(ホンダワラ科)
3.実験
上記の材料すべてに含まれる光合成色素はクロロフィル系とキサントフィル系であるため,今回の実験ではクロロフィル系とキサントフィル系の抽出・分離を行うことにした.抽出液と展開液については,2種類の光合成色素の性質と予備実験から以下のように決定し,実験を行った.
(1)薬品・ろ紙
○抽出液
アセトン:メタノール=1:3の混合溶液
○展開液
石油ベンジン:石油エーテル:アセトン=4:1:1の混合溶液
○ろ紙 東洋ろ紙51B 使用
(2)実験手順
1)材料を0.2〜0.4g乳鉢にとり,石英砂を加え,よくすりつぶす.
2)抽出液1〜2mlを少しずつ加え,乳鉢で軽く混ぜ合わせる.
3)つまようじの柄(とがっていないほう)で2)を吸い上げ,原線の中央にスポットする.
4)ドライヤーを用い(冷風),ろ紙のスポットを十分に乾かす.
5)展開液(1ml)が入っている試験管に,ろ紙を静かに入れ,コルク栓でふたをする.
6)しばらく放置し,前線まで展開液が上昇したら,ろ紙を取り出し,各色素の位置や形を鉛筆でなぞる.
[注意点]
・すべての操作を手早く行う.
・スポットはよく乾かすこと.
・色素は光に不安定なものが多いので,冷暗所で展開を行う方がよい.
・使用するろ紙は,あらかじめ展開液の蒸気で飽和させた状態にしておいた方がよい.展開の時間が短くなる.
4.結果
[1] 〜 [11] のうち,[5] ニンジン,[11] ヒジキはほとんど色素が展開されなかった.[6] キャベツは光合成色素がもともと製品に少なく,はっきりと展開を確認するのが難しかった.それ以外の食品については,ほとんどがきれいに光合成色素が展開された.特によく確認できた製品について図1に示す3)4).
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図1
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5.生徒実験
以上の実験結果をふまえて,図2のような実験プリントを作成し,1時限(50分)内で終了できるように生徒実験を行った.
実験は4人1グループで行い,計3クラス36グループが行った.すべての生徒が2種類以上の植物の色素を抽出・分離し,Rf値を測定することができた.また,今回は行わなかったが,結果を保存する場合はカラーコピーをして保存すると後日確認しやすい.
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図2
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6.おわりに
今回の実験結果より,様々なフリーズドライ食品が生徒実験に利用できることを確認できた.
生物IBの教科書6社を調べたところ,すべての教科書でペーパークロマトグラフィーによる光合成色素の分離実験が記載されている.しかし,1回の実験で取り扱う植物の種類は実験準備の手間を考えると,2種類ほどであろう.それに比べ,フリーズドライ食品は少量で確実に色素を分離することができ,1年以上保存可能で,安価でもあるため,1回の生徒実験で数種類の植物を用意することができる.また,陸上植物と海藻の光合成色素の比較も簡単に行うことができると思われる.
今回はフリーズドライ食品を光合成色素の抽出に利用したが,さらに多くの実験に利用できるかどうか検討していきたいと思う.
参考文献
1)林孝三編 植物色素 養賢堂(1980)
2)日本食品事典 医歯薬出版(1996)
3)畑 正好 海藻の色素の分析と教材化 教材生物ニュース46(1979)
4)佐藤哲寿 海藻の教材化 教材生物ニュース23(1977)
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