生物授業実践記録
身近な教材を活用した
「生きる力」を育む授業実践
兵庫県立西脇高等学校
田先崇志
 
はじめに

 私は,地方の高校の理科教師として,これまで理科嫌いの生徒を少なくするために,年間30回前後の実験を実施し,コンピュ−タやグラフ電卓等を活用した授業を導入するなど,授業の改善にも取り組んできた。
 新たに設けられた総合学科の高校へ転任した時も,大幅に様々な実習・実験・観察を導入した。その結果,生徒達の眼の輝きも変わり,意欲的に実習・実験・観察に取り組むようになった。
 生物の授業は,『自然を愛し,自然に学び,人命を大切にし,自然とともに生きる,心の豊かな生徒を育成する』ことを基本に,生徒が「自ら課題を見つけ,自ら課題を解決する,自主性を育む」系統的な学習内容とした。また,日常の生活や体験を通して,地球全体のことが考えられるよう,その時・その季節に応じた内容とした。
 進学校であっても,体験的な実習・実験・観察を重視し,生徒達は屋外・校外へも出て,各自,課題を持って楽しく意欲的に授業に取り組んだ。
 ここに私の生物授業実践事例を報告し,生物教育の一考察としたい。
 
1 「生物 I B」(4単位)の概要

(1)年間の授業実施内容 
ア   授業は,教科書・副読本を活用した講義を実施する。
進学を目標としている生徒達が多いので,1学期の学習内容である実習・実験・観察は,夏休み中の4日間に集中して実施する。(8時40分開始〜課題終了まで)
夏休み前半(8月1日,2日)2日間
夏休み後半(8月27日,28日)2日間
イ   2学期も1学期と同様とする。
冬休みの3日間(12月)に集中して実施する。 
(2)夏休み中の実習・実験・観察は,1学期の学習範囲の教科書にある「探究活動」を中心にして実施する。
 夏休み中に実施した教科書の「探究活動」以外の実習・実験・観察は,下記のとおりである。
動物の筋肉組織の観察
マグロの水煮缶詰で,「横紋筋」の組織を観察
水生生物(動物,植物)の採取と観察
学校周辺にある溜め池で,水生生物の採取と観察


植物による大気の汚染度の測定
マツの葉の気孔の汚染度の観察と採取場所による比較調査


果物・ジュ−スの糖度の測定
各種の果物の糖度と果物の場所(部分)による糖度の相違を測定


微生物を応用した発酵食品を作る
ヨ−グルトの製造
甘酒の製造


様々な物質の熱量の比較
脂肪種子の熱量と落葉・日刊新聞紙の熱量の比較 

植物繊維で紙を作る
植物繊維で葉書を作成し暑中見舞い状として利用
紙パックで葉書作り


(3)日々の授業での取り組み(平成14年度1学期実施分)(表参照)
 授業開始の5分間は,「身近なミュ−ジアム」と称した多様な生物(植物・動物)が生息する校内で,開花時・活動期を中心に生物を採取(標本は,各クラス6組準備した)し,生徒達に「季節の変化と生物の関係」を提示している。これが,「身近な生物」への関心と興味付けとなることを期待している。
<成 果>
[1] 生徒達は思いのほか関心を示し興味を持って観察している。
[2] 生徒達が様々な疑問と質問,さらに新たな課題を提示した。
[3] 地域の人々より,生物に関する様々な情報を提供していただく機会が増した。


モジズリソウ


校内でモジズリソウを観察する

日々の授業(身近なミュ−ジアム)で活用した生物教材の生物名
月日 生物教材名 生物 I Bへの応用項目 備考
4月16日 植物繊維植物の成長物質 竹の皮の応用
4月17日 紋白蝶 幼虫はアオムシ 鱗粉
4月18日 シダ植物 灰汁 毒素
4月23日 馬酔木 有毒 他感作用 園芸品種の開発
4月24日 タンポポ 帰化植物と生態系 タンポポの比較
4月25日 躑躅 植物の色素 雄しべの数
4月26日 蓮華 根粒菌 緑肥作物 密源植物
4月30日 鈴蘭(君影草) 総状花序 薬用
5月1日 クリンソウ(九輪草) 花が輪生多年草 輪生花が多段
5月2日 赤ツメクサ(紫ツメクサ) 色素の観察白ツメクサ 帰化植物
5月7日 イタドリ(すかんぽ) 雌雄異株 茎は中空 漢方薬
5月8日 ニワゼキショウ(庭石菖) 散形花序 帰化植物
5月9日 ヨモギ 植物繊維 草餅 漢方薬
5月10日 新茶(八十八夜) 植物色素の観察 1番茶 2番茶
5月14日 卯木(卯月) 円錐花序 木釘
5月15日 カタバミ 陰生植物 葉肉の厚さ 光合成量
5月16日 五月 植物の色素 栄養生殖の利用
5月17日 天道虫 平衡多型現象 星の数・色で名称に変化
5月28日 ドクダミ(十薬) 葉・茎に臭気 漢方薬
5月29日 ムラサキツユクサ 原形質流動 減数分裂
5月30日 紫陽花 散房花序 装飾花 甘茶
6月4日 性染色体と遺伝 桑の実 発生の桑実胚
6月11日 アザミ 頭状花 舌状花なし 漢方薬
6月13日 夾竹桃 集散花序 輪生 大気汚染に強い
6月14日 南天 液果果序 奇数羽状複葉 冬期に赤い実
6月26日 モジズリソウ(ねじ花) 花茎の巻き方の比較割合 左右の巻き方
6月28日 ムクゲ 各国の国花 県・市・町花
7月2日 蛍袋 鐘形花 方言
7月3日 クチナシ 液果 実生花と観賞花 果実薬用 染料

(4)授業実施形態 
 体験活動を中心とした実習・実験・観察を行った。

 
2 授業を終えて

(1)  明るく楽しく,全生徒と教師が協力的に実践できた。次回の授業が楽しみだとの声が,授業を重ねるたびに自然発生的に出てきた。
(2)  受講している全生徒が常に前向きに取り組み,たびたび驚く程の柔軟な頭脳で,素晴らしいアイディアを教示してくれた。
(3)  学校周辺の自然環境と天候に恵まれて,屋外さらに校外へも出て,体験的な実習・実験・観察の活動をすることができた。
(4)  体験的な実習・実験・観察を伴う授業が中心であるので,2時間連続の時間帯での開講・開設が妥当である。
(5)  受講している生徒達に,幅の広い教養を身につけさせるために,校外の学習施設や科学施設などへ,見学・実習・実験・観察に行ける時間・日程・機会を設ける必要がある。

 「生物」を受講している明るくて有能な生徒達と,充実した貴重で有意義な楽しい時間を過ごせたことを喜び,これからの教育の糧としたい。

 
おわりに

 常に,以下の3点を念頭に置き「生物」の授業を進めてきた。

(1)  生物教育は,快適な地球をつくるために自分達は何をすべきかを明確にし,それを実践していくことを求める教育である。 
(2)  生物は,日常生活に密接にかかわる科学であるので,知識の基礎・基本を確実に学ばせ,理解をさせる。
(3)  課題を生徒に提示し,生徒達の企画・立案を多いに取り入れ,生徒の豊かな発想を伸ばし,若い芽を摘まないように様々な課題に取り組んだ。

 その結果,生徒達は授業で多くの事項を体験し,新たな展望を持った。
 授業の改善には,教師の「意欲と発想と体力」,そして「指導力」があることが基本であると思った。
 最後に,生徒諸君の大いなる努力と,多くの人々の多大なるご協力と応援に深く感謝します。