生物授業実践記録 |
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男子校医進系生徒を対象とした 生態系分野の野外観察 |
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(兵庫)瀧川学園 滝川高等学校 生物科常勤講師 秋葉 靖 |
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1.はじめに
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高校2年の理系(主に医歯薬獣医系希望:本校では医進クラスと呼称)生徒を主な対象者として,今年の夏期休暇中に野外観察授業を行いましたので,ご紹介させていただきます。 |
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2.「なぜ野外実習なのか?」
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近年,生物実験の内容は生化学や分子遺伝の分野を中心にして,相当高度な内容のものが扱われるようになりました。生物を微視的に説明するという視点は,それはそれで大事なのだけれども,一方で生物を巨視的に捉える(個体の生き様として捉える)という視点も大事なのではないか。バブル崩壊後どうもこちらの側面がますます少なくなってきているのではないかと反省しておりました。
夏期休暇中に当該クラスの生徒を主な対象者として,普段の授業では扱いにくいテーマや切り口で,授業担当学年の枠を取り払って単科特別講習をやってみようという企画が持ち上がりました。私はこの学年の授業には出ていないのですが,生物部顧問としての野外観察引率の経験や,県主催のエコリーダー養成講座の講師を務めた経験などから,生態分野ならお手伝いできるのではと考え,その旨申し出ましたところ,やってみろとの指示を受けました。以下は企画書の概略です。
擦り合わせの結果,第一案で行くことになり,日程は,平成20年8月6日および7日の午後13:00〜16:00と決まりました。 |
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3.生徒への案内
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本校では前例のないこと,対象となる高校2年では生態系分野は未習であり事前に自己学習の必要があること,安全管理の面からこの行事が遊びではないと意識付ける必要があること,などにより,生徒向けに講座案内を兼ねたシラバスを配布しました。以下はその概略です(一部加筆修正)。
時間があれば,収穫量一定の法則にも触れる予定です。 |
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4.当日の様子
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参加者は3名でした。1人で引率し,安全管理をしつつ観察指導を行うにはよい人数でした。幸い2日とも夕立ちにも遭わず,マムシやスズメバチにも遭遇せず,用意した救急用装備一式も使わずに済みました。2日とも,ほぼ予定時刻どおり行動できました。 (1日目)ハイキング道(山田道)に入る前に,行程と観察目標を再確認し,安全上の注意点(スズメバチとマムシ)を確認した後,相観と階層構造を観察し(図1),優占種と標徴種の目星を付けて,林内に移動開始となりました。マント群落を観察しながら(図2),その意義を説明しつつ,砂防堰堤の上流側と下流側の動植物相の違いを観察し,砂防堰堤の功罪を考えました。林内の樹種と樹高,沢の様子などから,この山が採炭林〜建材植林地〜放置林と変化してきたこと(森と人の歴史)を見ていくうちに河原に出ました(図3)。オイカワの分布と行動を観察しながら進むと,ササ〜シノダケ群落の湿地を通ってスギ植林地に至り(図4),ここで林床と林内の小川のリター(還元分解層)がそれまでのアベマキ〜コナラ,ヤシャブシ林の林床とどのように違うかを確認して林を抜けました(図5)。道端のススキ群落で,生産構造がイネ科型と広葉型の両型が見られることをスケッチによって確かめながら,その理由を考えました(図6)。土砂採取場の脇を抜けて土壌環境を観察したあと,わずかに残るブナ林を通って植物園正門に15:20に到着しました。来た道を戻り,16:10分に谷上駅で無事解散しました。 (2日目)1日目と同じ道を通って植物園に到着。植物園内を針葉樹林区(ツガ・トウヒ)〜照葉樹林区〜夏緑樹林区(図7),〜北米区の順に見て回りました。林床の違いと,下層葉の分布に注目しながら,耐陰性が成長と共に変わっていくことを観察して15:00に植物園をあとにし,15:40谷上駅で無事終了解散しました。
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5.生徒の反応
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真夏の昼下がりの山歩きはともかく,植物観察という男子校生徒にとっては敷居の高い題材でしたが,彼らは結構楽しみながら,森を見て,木を見て,草を見ていた様子でした。自然観察というと,つい専門用語で説明したり,知識のお披露目になったり,蘊蓄を垂れてしまいがちになるのですが,小学生にも解るように,一緒に考えながら,子供たちに見つけてもらう,何より授業臭さ,教師臭さを極力消して我が子と一緒に山歩きを楽しむように振舞ったことが良かったのではないかと感じます。 当日および1か月後の生徒の感想は以下の通りでした。 「楽しかった」「中間や期末テストの後とか,冬休みや春休みにもやって欲しい」「いつもやっていないことをやって欲しい」「もののけ姫のモデルになった屋久島の森に行きたい」「今度は僕が先生を連れて行ってあげる」「新鮮感がありました〈満足度80〉」「授業進度に合っていないので時期的に早かった〈満足度60〉」「人数が少なかったので集中できた〈満足度70〉」 参加しなかった生徒の半数以上は,塾・予備校の講習があったからと答えていました |
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6.最後に
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2年前に本校からお話しをいただいた折り,校長先生から,「実験や観察を通して,命を大事にする教育をお願いします」との指示を受けました。今回の企画が,多少なりともご依頼にお応えできたものであれば幸いです。次の教科書改訂では生態が必修分野として下りてくることでもあり,今後こうした取り組みは不可避になるであろうと考えます。 子供がいとも簡単に殺される事件を毎日のように見聞きする昨今ですので,なおさら学校だけは,「勝ち組・負け組」や「やった者勝ち」「ばれなければいい」などというのではなく,「生き物の約束」が必要な場所と時代に来ていると改めて感じました。 |