座学では命について考える時間を多く持ってきた。実習・実験ではできるだけ生物に触れる機会を持つという方向で取り組んだ。特に昨年度からは生物に触れる小さな取り組みとして、教室に植物を持ち込んだ。毎時間、季節の草花を1〜数種生徒に提示した(「花の取り組み」で詳細に報告)。また,本校は自然環境に恵まれているので,なるべく生徒達と外に出ての観察などを多く取り入れた。
2−1.実施した生物実験・実習
目的 |
・できるだけ生徒の手に触れさせる。
・いろいろなところでいろいろな生物が 生きていることを実感させる。
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項目 |
・キク科植物の観察 ・秋の七草の観察
・マメ科植物の観察 ・野鳥の観察
・葉脈標本 ・落葉広葉樹の観察
・ケイ藻の観察 ・ミミズの観察 ・土壌動物の観察 ・花の取り組み ・オオイタサンショウウオの卵飼育・観察
・染色(草木染め) ・豚の眼球の観察
・アルコールパッチテスト
・ニワトリの解剖(生と死を実感する) |
2−2.花の取り組み
−取り組みに至った経緯とその内容−
◎1段階 〜野外実習を通して見えた実態〜
4月はじめ、3年文系生物選択者36名、2クラスに対し環境教育の一環として以下の3項目について実習を計画。
[1] タンポポについて
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校内のタンポポを探し、種類と育成場所の確認(ほとんどがセイヨウタンポポだが)と採取後の観察。
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[2] 校庭の三つ葉を探そう
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事前の説明なしで校庭に連れ出し、三つ葉の植物を探した。校内には、シロツメクサ・アカツメクサ・カタバミ・ムラサキカタバミ・クズ・ヤハズソウ(全て、マメ科)等があった。
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[3] 秋の七草を探そう
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パソコンや植物図鑑を使っての事前学習後、資料を持参して近隣の道路沿いで観察採取。
ハギ・オバナ・クズ・フジバカマの4種はあったが、キキョウ・ナデシコ・オミナエシについては、別途観察させた。スケッチ後、押し花にし、しおりとして活用させた。問題点は、同時期に7種全部が開花しないことである。
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生徒の感想に三つ葉の種類の多さに対する驚きが多く、新しい発見の感想もよせられていた。これらの実習を通して、すぐそばにある植物に全く目が向いていない生徒の現状がはっきりした。
◎2段階 〜野外実習から毎時間、教室へ〜
野外実習「秋の七草を探そう」の授業で、ススキの根元にナンバンギセルを見つけた。「寄生植物の項目で扱われているこの花を生徒に見せたい。」という田川教諭の言葉をきっかけに,授業に花を持ち込むことになった。そこで,2学期から国際科1年に毎時間1〜数種、植物(興味を引きやすいように花の咲いたもの)を見せ、季節感と私たちの知らないところで生きているものの存在を意識させることを目的に,花の取り組みは始まった。
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説明・板書・・・[1] 植物名 [2] 名前の由来 [3] 分類(科のみ) [4] 生息場所等 提示の形態例(実物に触れさせる)
- 9/8 キンミズヒキ(金水引)ばら科
季節による変化(花と実と紅葉)を観察
名前は、黄色の花穂を金の水引に例えた
- 10/12 シュウメイギク(秋明菊)キク科
花は初秋だが、環境により今咲く花もある。
京都の貴船に多く産したので貴船菊とも言う。
- 11/10 サツマノギク(薩摩野菊)きく科
花は晩秋で白色か淡紅色、葉の縁、裏が銀色、薩摩地方で発見されたことによる命名
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*日本の植物名は漢字で書くと分かりやすく印象に残る。なぜ学名はカタカナでなければならないのだろう?体験や生活感が乏しくなってきた生徒に対し学問中心ではなく、植物をもっと身近なものにすることを優先できないだろうか? |
初めは、名前だけをノートに記録していた生徒が植物を手元で見ることで、花の色や特徴などを詳細に書き、短時間に植物の特徴を捉えるようになり、スケッチ・彩色を楽しみ始めた。植物の種類も増えてきたため、特徴を整理・記入する用紙を配付した。(図1)2年目になると去年見せた花にはすぐ反応し、自分のスケッチノートをめくって名前を確認する様子も頻繁に見られるようになった。
また、冬休みに、家の近くで見つけたと猩々袴(ショウジョウバカマ)を鉢植えにして「おみやげ」と持ってくる生徒や、今までは花期が終わると枯らしていたシクラメンを「今年は絶対花を咲かす」と宣言して、つぼみを付けさせた生徒も現れた。また、朝日新聞に連載されている植物の記事を、祖母がファイルしていると見せてくれる生徒もいた。
3学期には田川教諭の協力もあり、定期考査で植物を教室に持ち込み、名前を書かせた。以降、定期考査ごとに提示した植物に関する出題を実施した。
図1 植物メモ
◎3段階 〜実施クラスを増やす〜
当初は、1クラスでの取り組みであったが、他の教諭からの申し出もあり、実施クラスが増えた。提示した植物は、3月末現在で42科192種になった。(表1 生徒に提示した植物一覧)
◎4段階 〜植物アンケートの実施〜
本年度、大学でDNAを研究している卒業生が教育実習に来た。生物の教員を目指しているにも関わらず、ナズナとシロツメクサの区別が出来ないという実体に愕然とした。
これをきっかけに生徒の現状把握のため1学期末考査後の授業で1年生149名に対し、アンケートを実施した。植物60種のスライド(図2)を見せ、名前が分かるか・見たことがあるか調べた。(表2 植物アンケート結果)
「子どもの頃,見たことがあり懐かしい」などの声も聞かれ,楽しくアンケートに答える生徒も多く見受けられた。反面,ほとんど興味を示さない生徒もいた。おそらく日常的に植物に目をとめる機会が少ないのだろう。実物に触れさせたいという思いを強くした。
図2 身近な自然アンケートスライド
◎花の取り組みの反省
ある意味では思いつきで始まった試みであり、まだまだ計画的に進めているとはいえない部分が多い。提示している植物は、私が茶花として育てているものを教材として利用したため種類が偏っているし、分類よりも季節感を大事にしていた。これからは、俗に雑草と言われる植物や木本も提示したい。
2−3 総合的な学習へ向けて
・落葉広葉樹を知ろう・どんぐり調べー「どんぐりの木」はないよ!ー
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3年文系と看護選択者のクラスで実施。裏山を 散策し、7種発見。
葉とどんぐりと殻斗を調べることにより種類が特定できる。(実際にはかなり難しいが)
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・野鳥観察(バードウォッチング)
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3年文系の2時間続きの授業で実施。地の利を生かして文理大(車で10分位のところにある大学)の出張講義制度を活用。杉浦助教授に2時間の野外観察のご指導をいただいた。観察できた鳥20種類。
(生徒の感想)
- 日頃聞けない音が聞けてよかった。いつもしゃべっていて聞こえないけど眼を閉じて静かにしていたら自然の音がたくさん聞こえた。鳥の赤い眼を見て驚いた。人間と一緒の色だと思っていた。
- 鳥をあんなに近くにみられてよかった。あんなたくさんの鳥が周りにいたなんてびっくりした。またやりたい。鳥は身近な存在だと思った。
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2−4.評価
[1] 毎時間のレポート
[2] 論文形式の課題を考査一週間前に与え、資料持ち込み可ということで考査を実施
2−5.これからの展望・課題
検討・工夫改善すべき点
・提示植物の系統化
・年間計画の作成
・継続性(指導者の問題・時間の問題)
・校内植物マップの作成
(いつでも・どこでも・ひとりでも)
・総合学習への展望
(教員数・カリキュラムの問題)
・生徒の変容調査
(入学時から卒業時までの変化)
2−6 まとめ
我々の世代は子どもの頃、遊びを通してたくさんの動植物に出会い、祖父母や遊び仲間の年長者達から多くのことを学び、「生きること」を確認してきたように思う。生物分野の細分化により、「身近で生きているものを見なくなっているのではないか?」「これからは誰が次代の子ども達に教え、伝えていくのか?」不安は拭えない。昨今、環境教育や命の大切さなどが教科で扱われ,遠いアマゾンの森林破壊は知っているが,身近なことは知らない人が増えている。今回の一連の実習を通して,ほんのわずかではあるが生徒達の植物を見る目や職員に対する対応が変わってきたように感じる。
野外実習の時、あからさまに「よだきい(しんどい)」と言っていた生徒が,徐々に幼い子どものように生き生きと活動し、素直に、積極的に声をかけてくるようになった。
しかし,一番の変化は理科室の仲間であり,一番学ばせてもらったのは私自身かもしれない。
「大きな目標・生涯の理想」を見失いがちな現代の高校生にとって,これらの実習が、[1] 周囲の事象に興味・関心を持ち、探求心をゆり動かし [2] 自分で調べ、[3] 発見する喜びを味わうことで [4] 心豊かに生きる方法を学ぶ手がかりを提供することになり、[5] 無気力・無関心から脱却するきっかけになってくれれば嬉しい。
今回、田川教諭に背中を押され,この実習に取り組んだ。おかげで、アドバイスを受けながら様々な方向へ発展させることができ、自分のやってきたことをまとめることができた。 理科の実習教諭としての自分自身を振り返る大変よい機会を与えてもらったと感謝している。
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