サイエンスライターが植物科学の研究者たちを訪ね,植物の驚異と,その研究の面白さをレポートする全5巻の読み物シリーズ。第4巻のテーマは「植物の進化」。生物の多様性や生物間の絶妙な関わり合いを生んだ植物進化。過去,現在そして未来の生物世界を,「進化」をキーワードに俯瞰します。
1章 |
植物として生きることを選んだ生物たち(井上 勲さんに聞く) |
2章 |
化石は語る:植物と地球環境の歩み(西田治文さんに聞く) |
3章 |
発生過程の進化から迫る形の多様性(長谷部光泰さんに聞く) |
4章 |
植物の柔軟性はどのように進化してきたのか(塚谷裕一さんに聞く) |
5章 |
ゲノムに残された進化の足跡(清水健太郎さんに聞く) |
6章 |
遺伝子をシャッフルする有性生殖と種の進化(矢原徹一さんに聞く) |
7章 |
島は進化の実験場:地球環境変動は植物の何を変えたか
(瀬戸口浩彰さんに聞く) |
8章 |
植物と微生物の共進化:菌糸が繋ぐ地下ネットワークとは
(川口正代司さんに聞く) |
トピック |
極限環境に適応したカワゴケソウの仲間(加藤雅啓さん寄稿)
アサガオの形を決める遺伝子を探す(仁田坂英二さん寄稿)
トウモロコシはどう進化したか(松岡由浩さん寄稿)
さまざまな生殖を行うタンポポ(渡邊幹男さん寄稿)
日本の高山植物を見つめて(藤井紀行さん寄稿)
昆虫の植物利用を助ける共生細菌(深津武馬さん寄稿)
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【著者より】
シリーズ第一巻「植物が地球をかえた!」の刊行からちょうど一年。今またこうして、植物のおもしろさをまるかじりする本をまとめることができ、うれしさでいっぱいです。
光合成をメインテーマにした第一巻には、地球上に光合成をする生物が登場した約35億年前以来、植物と地球がどれほど深く関わってきたか、環境問題や食糧生産などの観点で読者の方からたくさんのメッセージをいただきました。私は、光合成について一生懸命書いたつもりでいましたが、できあがったのは地球環境の本だったのです。
私は大学で生物学を学んだものの、植物が専門ではありません。本書の企画について説明を受けたときには、「植物」と「進化」という切り口で、どのように書けば読者のみなさんと関心を共有できるのか、自信がありませんでした。しかし、いざインタビューを始めてみると、進化の研究には、地球環境と植物の30数億年の歩みを明らかにする謎解きのようなおもしろさがあり、わたしはどんどん引き込まれていきました。
進化の足跡が刻まれているのは、化石ばかりではありません。光合成もすればエサを捉えて食べることもする藻類の生き方、シカがすむ島や由緒ある神社仏閣の境内に共通して見られる植物の適応、近縁でありながら色も香りも咲く時間も異なる二種の花の存在、そしてゲノム情報。進化を解き明かす鍵は、いろいろな形で植物の中に隠されています。しかも、一個の石の中に生態系全体を閉じ込めた化石があるとは。化石やゲノムを比較することで、地質時代において気温や海水面がどのように変化し、植物がどのように地理的移動をし、個体群の大きさや生き方を変えたかがわかるとは。
8人のお話に共通して印象的だったのは、「研究者魂」をかけて追究できる魅力的な材料を見つけることの大切さでした。いかにして、研究者自らが虜になれる愛らしい花、興味深い植物を21世紀の進化研究の俎上に上げるか。それはフィールドへの愛着とともに、講義の中でも熱く語られました。
最終章のテーマは「共生」です。共生は、生物間の相互作用が「共進化」を押し進め、互いにメリットを受けられるようになった生物の生き方です。植物が陸上に侵出した時代から現在に至るまで、多くの植物の根には「アーバスキュラー菌根菌」という生物が共生しています。アーバスキュラー菌根菌を介してさまざまな種類の陸上植物はつながり、コミュニケーションしながら生きているのかもしれない、という仮説を紹介しています。地球上に多種多様の生物が共に生きているしくみの一端を、菌根菌は教えてくれます。
本書をまとめる上では、ストーリー性があるように留意したので、研究の手法など細部は読み飛ばしても、おもしろいものになっていると思います。高校生、大学生、植物や地球環境に関心のある方にとくにおすすめです。
この写真は、取材の際に撮影したもので、植物の遺伝学的な研究材料として最もよく使われているシロイヌナズナの突然変異体を育てているところです。まんなかの縦4列は葉っぱが小さくなる変異体です(葉が小さくなる変異体では、どうして葉が小さくなるのか−細胞ひとつひとつが小さくなるのか、細胞の数が減るのか?−についてくわしくは本書をごらんください)。
培地に緑の小さな葉が茂っているようすが、チーズケーキのティラミスの上にミントの葉がのっているようでおいしそう!と思って撮影したのですが、いかがでしょう。こんなところから、研究材料への愛情が生まれるのかも。
(葛西奈津子)
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