化学授業実践記録
発泡スチロールを使った
高分子と再利用の学習
埼玉県立浦和第一女子高等学校
岩田久道
 
はじめに

 発泡スチロールを使った実験はいろいろなところで先生方から紹介されている.発泡スチロールは高分子化合物であり,高分子の特性を生かして再利用される.今回,教師が手軽にでき,生徒に興味を持たせながら,発泡スチロールの再利用を考えさせることができる授業展開例を紹介する.
 
発泡スチロールの高分子としての性質

(1) 溶剤と発泡スチロール
 シャーレにアセトンを入れ発泡スチロールを溶かす.別のシャーレに d−リモネンを入れ,発泡スチロールを溶かす.アセトンに対してはスチロール樹脂の構造を維持したまま溶けるので不透明なペースト状になる.一方,d−リモネン中ではポリスチレン中のベンゼン環の相互作用が断ち切られ,鎖状構造となり溶けるので透明(コロイド溶液)になる.リモネンの代わりに酢酸エチルやトルエン,クロロホルムなどが代用できるがその毒性と後処理が問題となるので,みかんの香りの d−リモネンが実験としては適当と思われる.

(2) 発泡スチロールが溶けた溶液はコロイド溶液
 ビーカーに d−リモネンあるいはアセトンを入れ,事前に He-Ne ガスレーザーの光を当てて光の通路が見えないことを確認する.発泡スチロールを上からちぎって加えると,透明な溶液中にチンダル現象の赤い筋が観察される(写真1).部屋を暗くし,溶液を透過したレーザー光が 2〜3m 先の白い紙に当たるようにすると,無数の光の点が投影され,ブラウン運動が観察される(写真2).
 チンダル現象は,発泡スチロールを多く加えるほどよく観察される.一方,部屋を真っ暗にし,ブラウン運動を見る場合,リモネン中に発泡スチロールを溶かしすぎない方が動きがよくわかる.アセトンで行うとブラウン運動は散乱が強すぎてあまりよくわからない.


(写真1)


(写真2)

 
発泡スチロールの分解と再重合

(1) ポリスチレンの熱分解
 試験管の8分目まで発泡スチロールをガラス棒でつめる.その試験管にコルク栓つきL字型ガラス管をつけ,気体誘導装置をくみ,受器に氷水に浸した試験管を用意する.
 発泡スチロールの入った試験管をまんべんなくバーナーで加熱すると,スチロール中に内包されていた気体がなくなり減溶され,さらに加熱すると熱分解が起こり試験管内に液状物がなくなる.一方,受器中には淡黄色のにごった留出液(スチレンモノマーなど)が 0.5ml 程度得られる.
(2) スチレンの再重合
 留出液の入った試験管に濃硫酸1滴を加え軽く振るとすぐに橙色になり,やがて沸騰しだし重合を始める.炭化も同時に進行するため黒みを帯びるが,冷えると固まり樹脂となる.対比用に別の試験管にスチレンモノマーを流出量と同じ程度入れ濃硫酸を加え違いを見る.濃硫酸は重合開始剤の働きをしている.
 ここでは,再重合を試みて,もういちど樹脂をつくることを行っているが,(3) のスチレンモノマーを検出するだけなら,臭素水を加え脱色反応を見るのもよい.
 
発泡スチロールの減容と遊び
(リサイクルを考慮して)

(1) 凹版表札とスタンプ
 発泡スチロールトレイなどは,オレンジ油(リモネンが主成分)で減容し,再利用される.そのことを利用して次のような遊びができる.
 厚さ 3cm 以上の発泡スチロールに絵筆等で d−リモネンをつけて文字や絵を描くと凹版表札ができあがる.リモネン中に油性絵の具を混ぜておくと,色の付いた凹版となる(写真3).筆で描く際,リモネンだけだと発泡スチロール上に油滴が残る.アセトンを混ぜ(体積比が4倍以上)た方が見栄えがきれいである.
 小さい発泡スチロール片に油性マジックインクで字を描くと,同様にマジックインク中の酢酸エチルなどの溶剤の働きで凹版ができ,スタンプとして使える.


(写真3)

(2) ポリビニルアルコール(PVA)を使った凸版の表札
 発泡スチロールの大部分は空気で,加熱すると1/50に減容できる.一方,熱遮蔽剤を表面に塗ると,その部分が減容されず凸版となる.
 熱遮蔽剤として粘性のある PVA 水溶液(洗濯のりあるいは液体合成のりで代用可)を絵筆につけ,厚めの発泡スチロール板に文字や絵を描き,乾ききらないうちに裏返しにし,表面をガスバーナーあるいは電熱器にかざして加熱すると,溶液を塗ったところは溶けず,浮き出てくる(写真4).
 PVA 水溶液に水彩絵の具を混ぜておくと,字が見やすく,そのまま,字が浮き出た表札などに使える.凸版なのでスタンプにも利用でき,文化祭などでの活用が考えられる.


(写真4)

(3) 発泡スチロールの餅
 発泡スチロールをアセトン中で減容させ,そのペースト状のものを,水でぬらした手でこね,固まりにする.あらかじめ沸騰させておいた水にその固まりを落とす.             
 スチロール樹脂中に入り込んだアセトンが発泡剤として働き,また発泡スチロールができあがる.このとき,団子状の生地はよくこねて生地表面のアセトンを蒸発させ,しっかりしたものにしたほうがよくふくらむ.
 この実験は,減容した発泡スチロールを再発泡させるリサイクルの意味を含んでいる.

 
おわりに

 高分子を考える場合,発泡スチロールは最も身近で,また環境問題を考える上でもごみの減容問題など意味を持っている.生徒たちは透明なコロイド溶液の中に光の筋が見えるチンダル現象に感動し,ブラウン運動にも目を見張る.教師としては凸版凹版の表札やスタンプづくり遊びの中にリサイクルの意味を持たせたい.また,アセトンを発泡剤として利用することで,簡易に発泡現象が観察されるので,生徒たちは題名のように発泡スチロールの餅と言って喜ぶ.この実験は何度やっても人気の授業である.

参考文献
実験で学ぶ化学の世界3 日本化学編 P117 丸善
岩田久道,化学と教育,50,266(2002)