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−各種検出反応による天然高分子化合物の識別− |
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1.はじめに
平成15年度から高等学校で施行される新学習指導要領でも,理科における「探究活動」はますます重視されている.一方,週5日制の完全実施などにより理科の授業時間が削減されると予想され,「探究活動」のために十分な時間を確保することは,なかなか難しいと思われる.そこで,従来は学習事項の確認を主目的に行われてきた生徒実験を,ささやかながら探究活動的な実験にするための工夫を試みたので紹介したい. 2.クイズ感覚の探究実験 学習事項の確認を目的とした実験では,生徒が失敗することがないよう,プリントや口頭で操作法の丁寧な説明を行う場合が多かった.しかし,この方法では,生徒が十分に実験の意味を考えようとせず指示通りの操作を行うだけになりがちで,せっかくの物質を操る魅力が生かせない面があった.そこで,生徒にクイズ感覚の課題を与え,定められた器具や試薬を使うというルールに従って実験し,正解を探し当てる内容に変更してみた.具体的には,あらかじめ与えられたいくつかの物質を識別するために,授業で学んだ知識を生かして実験方法を考え,実際にやってみる,というものが多くなった.このやり方では,生徒の学力によって実験時間にばらつきがでることも予想されるが,3〜4名の班員が力をあわせて教科書やノートにある既習事項を整理することから始めれば,正しい実験方法を導き出すことはそれほど難しいことではない.また,謎解き的な内容は生徒の探究心をくすぐるようで,どの実験もおおむね好評であった. 3.探究実験の具体例 本校では,現在化学TB・Uを3年間に分けて計5単位の選択科目として実施している.実験も多数行っているが,そのうちの6〜7回は,クイズ感覚で取り組む探究型の実験を行っている.以下に主な例を紹介し,(6)については次項で詳しく述べたい. (1)化学結合の種類と結晶の性質1) 各種の結合による結晶を,硬さや導電性(結晶,水溶液)などの性質を調べることによって識別する. (2)化学反応する物質の量的関係 定められた体積(物質量)の気体を,金属と酸の反応などを利用して発生させる.そのために必要な試薬の物質量を計算する. (3)酸・塩基・塩の識別1)2) 種々の酸・塩基・塩の各0.1mol/l水溶液を,pHの測定や簡易中和滴定などの実験により識別する. (4)アルコールの識別 第一級〜第三級アルコールを,酸化反応やその生成物の性質などにより識別する. (5)有機混合物(芳香族)の分離1) 酸性(フェノール,安息香酸),中性,塩基性(アニリン)の芳香族化合物の混合物(エーテル溶液)を,酸・塩基・塩との反応を利用して分離し,確認する. (6)各種検出反応による天然高分子化合物の識別1) (7)プラスチックの識別3)4) SPIコードによる識別マークの付いたプラスチックを基準物質とし,種々のプラスチックを燃焼性や密度の測定などによって識別する. 4.各種検出反応による天然高分子化合物の識別 この実験は,天然高分子化合物の学習後のまとめとして行っている.検出反応の操作方法については,混乱を防ぐため次のようにあらかじめプリントに示した. 準 備
課 題 水溶液A〜Fは,グルコース・スクロース・デンプン・ゼラチン・卵白・グルタミン酸-1-ナトリウム塩,のいずれかの水溶液である.これらの水溶液を,10mlずつ班に持ち帰り各種の検出反応によって識別してみよう.
生徒は,班ごとにまず“作戦会議”を行い,一覧表やフローチャートを作成しながら実験を進めてゆく.方針がうまく決まらない班や結果の整理が不十分な班には,適宜アドバイスを行う.最終的には,水溶液A〜Fの正体とそのように判断した根拠とをレポートとしてまとめさせる.また,実験で利用した検出反応の原理(反応のしくみ)などについても,調べられる範囲でまとめさせる. 5.謎の甘味料X 識別させる物質の種類は,実験時間や生徒の実力に応じて変更することができる.私は,この他にパルスイート(アスパルテーム製剤,味の素K.K.)を謎の甘味料Xとして置いておき,余力のある生徒にその正体を推理させている.アスパルテームはジペプチド(L-アスパラギン酸+L-フェニルアラニンメチルエステル)なので,ニンヒドリン反応はもちろん,わずかだがビウレット反応も示す.また,増量剤として還元麦芽糖水飴が含まれるので,フェーリング反応も示す. 6.おわりに このようなタイプの探究実験の長所は,探究活動の範囲が直前に学習した内容に限定されやすく,生徒の自発的な活動と知識・理解の学習とが容易に結びつくことである.授業で理解したつもりでも実験でその理論を使おうとすると,その理解が不十分なことに気付くことも多く,知識を補い修正しながら活用し結果を得ることで,大きな達成感が得られる.一方短所は,正しい実験方法は一つしかないと生徒に思われやすいので,結果的に多くの班が同じ操作をする場合があることなど,生徒が自由に発想する部分がやや少なく,本格的な探究に及ばないという点である. 参考文献 |
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