化学授業実践記録 |
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フォーマルな実験のちょっとした工夫 | |
東京都立深川高等学校 野田 徹 |
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はじめに
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化学の教員ならば誰でも知っているような実験において,いくつかの小さな工夫を試みた.もちろん目新しい実験ではないし,すでに実践されている方もたくさんいるかとも思いますが,実際の授業において実践したところ一定の結果を残せたものについて,参考になる部分もあるのではと思い報告します. |
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大気圧と物質の状態変化
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有名な空き缶つぶしの実験.空き缶に水を少量入れて沸騰させ缶の内部を水蒸気で置換し,これを急速に冷却することで缶をつぶすというものであるが,一般には缶の口はガムテープでふさぐ,またはすぐに逆さまにして水槽に入れるなどの方法が知られている. 確かに操作に習熟している場合にはいずれの方法を用いても結果が得られるが,実際には生徒は熱した缶をこわごわと操作していることが多く,缶が大きな音とともにぺちゃんこになる驚きはなかなかうまく実感できないようである. 実験のために,ゴミ置き場に空き缶を拾いに行ったとき,最近急激に普及したボトル缶を実験に用いることに思い当たった.ボトル缶に少量の水を入れ,キャップを閉めた後でキャップの中央に目打ちまたは釘などで穴をあけて操作を行うとほぼ全グループ失敗なく結果を得られる.沸騰後のキャップの穴については,2cm程度のガムテープで穴を覆うようにすると,操作のゆっくりとしたグループでも大丈夫である. |
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化学反応の量的関係
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塩酸と炭酸塩を用いて,化学反応の量的関係を調べる教科書的実験である.質量から物質量比を考えさせる重要な内容を含むが,質量を測定しているだけではおもしろさがないので,塩酸にメチルオレンジを1滴加えておくと反応終点が捉えられるので,加えた炭酸塩の質量からも量的関係が判断できる. |
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気体の分子量測定
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気体の分子量測定では,カセットガスボンベ,スプレー缶などを用いる方法が有名であるが,その後の計算処理などを考えると,41または82ml の気体を捕集したほうが後が簡単である.しかし,ガスボンベなどでは圧力が大きいため一定量の気体を放出することがむずかしく,また質量の測定が重すぎるので困難であること,数多くのボンベを長期に保存しなければならない問題もあった.ここでは,市販の使い捨てガスライターを用いた方法について報告する. まず事前に,ガスライターから風防の金具,着火用のヤスリ,着火石,バネを取り外しておく.内径1.5〜2mm程度のシリコンチューブを用意する.(教材業者で300円/m 程度で入手可能:ライターによってガス出口の大きさが異なるので,きつくはまるものを選ぶ)あとは,通常の実験と同様の操作を行えばよい.シリコンチューブで直接メスシリンダーにガスを導くが,ガスライターはガス圧が低いのでチューブの先端がメスシリンダー内で水面よりやや上になるようにしておかないとガスが出ないことがある.また,逆に上に出しすぎると陰圧がかかって勝手にガスを放出する場合があるので注意が必要である.コツを生徒がつかめば,41ml をほぼ正確に捕集できるので,かなり再現性のある数値が各グループから得られる.結果からはブタンを主としながら,やや分子量の小さいガスを含んでいるようであるが,これもメーカーやロットによって異なると考えておいた方がよい. ガスライターを用いた場合の弱点は,ガス圧の低さである.もし予算に若干の余裕があるのであれば,ライターの代わりに「着火マン」(ミニタイプでなく大きい方がよい)を分解してそのボンベを用いると,チューブの先端が水中に沈んだ状態のままでもガスを放出できるので誤差や失敗を低減することができる. |
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イオン化傾向の確認
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金属のイオン化傾向はその後の,電池などへつながる単元である.通常イオン化傾向の実験では金属樹が例示される場合が多いが,授業中に行った場合ほとんど何もすることがないので非常に退屈であり,また短時間では美しいものは得られない.そこで,硫酸銅溶液と亜鉛末を用いて銅の還元反応を炎色反応によってとらえる方法を考えた.以下はプリントからの抜粋である. <試 薬> 0.1mol/l 硫酸銅水溶液,亜鉛粉末
炎色反応で銅独特の淡緑色がかなりのグループで確認できる.これにより,溶液中にあった銅イオンが沈殿物中に移動したことが溶液の色の変化と同時にとらえられる. この実験を行うより前の実験において,生徒が炎色反応の操作を一通り行っている必要がある.その結果からこの実験における炎色から銅の存在を推定できることによって1つの実験が次につながることも重要である. |
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おわりに
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「なんだ,こんなこと.もうやっているよ」というような声が聞こえてきそうですが,お許しください. 実際の授業では生徒は実験は好きだとよく言います.それは言い換えると座学はあんまりということの裏返しともいえるでしょう.できるだけ理論と実験がつながるように考えているわけですが,実験がデータを取るためだけのものと生徒にとらえられてしまうと,楽しいはずの実験でさえつまらないものに感じられてしまうようです.実験の中では,データも重要ですが数字以外のある意味「驚き」をもてるような事象を取り入れていくことを意識しています. |