化学授業実践記録
光・紫外線・放射線(電磁波)を取り入れた
高校化学の授業実践
宮崎県立宮崎大宮高等学校
光一
 
1.はじめに

 私たちの身のまわりを振り返ってみると,デジカメ,液晶テレビ,携帯電話など,光(電磁波)が関わるものが増えてきた。にもかかわらず,光・電磁波を学習する機会は,物理 II であり,その他,教科「情報」や化学 II の染色などで一部取り扱うだけである。
 以前,私は日本とアメリカの化学の教科書を比較した経験があるのだが,その時気づいた大きな違いは,原子の構造の分野において,アメリカでは「古典」・「近代」と2単元で説明が行われており,近代の原子構造を説明するのに,光を詳しく学習していたことであり,量子力学にまで触れていた。このような経験から,私は「光の概念」は特に物理でなくても,化学の現象として教えてもいいのではと思い,これまでにも授業の様々な場面で話題にしてきた。しかし,今年は,放射線や北半球でもオゾンホールが見つかるといった紫外線にも人々の関心が集まった年であり,光も含めた電磁波の概念を,これからの現代人の一般教養として,ある程度系統立てて教えるべきではないかと考え,授業実践を試みた。
 
2.伝えるべき電磁波の概念とは

 「実社会で役立つ電磁波の本質と性質とは何か」という観点,また化学の立場から扱うことを考慮して以下の項目に絞り込んだ。

(1) 光・紫外線・放射線はエネルギーの一形態であり,電磁波の仲間であること
(2) 波長が短いほど,エネルギーが大きいこと
(3) 光が物質に当たると反射と吸収が起こり,その結果,発色や発熱,化学変化が起こること
(4) 分子構造が変わると吸収される色の光が変わり,発色が変わる物質があること
 
3.カリキュラム上の位置づけと実施時期

 これからを生きる現代人の一般教養として身につけさせたいと考え,理系・文系に分かれていない1年の理科総合Aで行うことにした。現行のカリキュラムを生かして,化学分野の「状態変化とエネルギー」のあとに物理分野の「いろいろなエネルギー」を持ってくることで,粒子の熱運動を熱エネルギーにつなげ,そして光エネルギーへと発展させることにした。その後,本授業実践の中心となる光(電磁波)の本質と性質について取り扱うことにした。

 <資料1>のような授業プリントを作成し,3コマの授業を行った。

 
4.授業で活用した演示実験

プリズムによる光の分散 LEDを用いた光の足し算 紫外線に反応する
クロミック色材
 
5.生徒の感想

 授業後にアンケートをとったところ,「学習して良かった」が89%で,従来の化学に広がり,深みが出たと感じた生徒が88%に及んだ。25%の生徒は難しかったと答えたものの,大半の生徒は「当たり前のことと思って,深く考えたことがなかった身近な現象に科学的理由付けがあることがわかりすっきりした」という内容の感想を述べてくれた。また,原子の熱運動からエネルギー,そして光へと展開することによって,「これまでに学習した化学との関連性が感じられたか」という質問に対しては,「そう思う」52%,「ふつう」40%という結果となり,ある程度系統立てて授業が実践できたのではないかと満足している。
 
6.おわりに

 私は,高校化学を学んだ証として,身の回りの物質や現象を,微小粒子(原子・分子・イオン)の振る舞いと関連づけた「ものの見方」ができることだと思っている。新課程では,熱化学方程式や化学平衡・気体など物理化学分野が「化学基礎」ではなく,「化学」のほうに設定されている。化学 I に熱化学方程式,化学 II に反応速度,化学平衡が設定されている現行カリキュラムよりは,まとめられ,系統立って学習できる点で歓迎できるが,化学基礎だけを学習する生徒にとっては,原子がダイナミックに躍動するイメージ(物の見方)を学習する機会がなくなるわけで,今以上に化学の一般常識が欠如することになる。
 ただ,今回の授業実践後,新課程から新しく導入される科目「科学と人間生活」の第三部に「光や熱の科学」が設定されていることに気づき,目を通してみた。すると,私が教えたい,伝えたい内容が網羅されており,より系統立ててまとめられた素晴らしい教科書であった。私が生徒に教えたいと思っていた内容が,「科学と人間生活」の趣旨と重なっていたことは,これまでの指導が間違っていなかったと自信を与えてくれるものであった。ただ,学習指導要領では,光と熱が別の章に分かれており,どちらか一方を学習すればよいことになっているが,私は今回の授業実践のように,両方とも必要であると感じている。そして一番残念なのは,化学の教科書には反映されていないことである。
 今回の取り組みは,来年度以降も「化学基礎」の授業で実践していきたいと思う。そして,“何の変化もないように見える日常の風景でさえ,原子レベルでは非常にダイナミックに躍動している”という化学的なものの見方を身につけた生徒を育てていきたい。

参考文献
化学同人「検定外 高校化学」坪村宏・雨宮孝志・堀川理介
HOLT 「Chemistry」
ニュートンプレス「Newton 2010年8月号」