化学授業実践記録
有機化合物の導入
−HGS分子模型を使用した分子の概念−
(大阪)四天王寺高等学校
谷本幸子
 
はじめに

 本校では化学有機分野は、酸・塩基、酸化還元などの理論分野・無機物質分野などを学習した後に、学習するため、ある程度の化学的知識が身についている。しかし、化学では目に見えない分子を扱うため、粒子概念の育成や分子の形の把握は難しい。それを補うためHGS分子模型を導入し、生徒に分子模型組み立てキットを1つずつ与え、分子模型を作らせ、分子の形や異性体の構造の理解に役立てている。


HGS分子模型組み立てキット

 
分子模型の製作

 まず、時間の最初にプリントによりどのような分子を製作するかを示す。
 また、平面に最大何個の原子が存在できるかを問うことにより、単結合は回転可能であることがわかる。
 C−C 間の結合には長いボンドを、C−H 間の結合には短いボンドを使用する。また、二重結合・三重結合には曲がったボンドを使用する。等の注意を与えた後、生徒に自由に組み立てる時間をおく。

 例えば、プロパンは構造式では直線分子のように書けるが、実際には折れ線型であることがわかる。

 二重結合を含むエチレンはすべての分子が平面上に配置されている。また、アセチレンは直線分子であり三重結合は直線方向に手を伸ばしていることがわかる。あくまでも、分子モデルであることを強調する必要はあるが、特徴はよくわかる。それぞれの分子の概要がわかれば、次にこの模型を用いなくても自分で形が想像でき、応用できる。


エチレン(上)とアセチレン(下)

 また、C−Cよりは、C=Cが、さらにC≡Cが結合距離も短いことがわかる。しかし、これについてはあくまでも模型で組み上げたモデルであり、実際の分子はこのような結合の手(ボンド)もないことは強調しておく必要がある。

1,3-ブタジエン 酢酸

 シクロヘキサンの椅子形、舟形も授業の時間内に組み立てることができる。椅子形・舟形の変形も容易で生徒の理解もよい。

椅子形 舟形

                    

 さらに、メタンに置換基を2箇所つける際、構造式と実際の構造とを比べることで構造異性体は存在しないことに気づかせることができる。

 ジクロロメタンの構造式

は同じ構造を示している。

 メタンの置換基が4種類であるときは光学異性体の存在にも注意を喚起することができる。

 
まとめ

 授業に分子モデルを見せることはよくあるが今回、生徒一人ひとりにHGS分子模型を使用させ組み立てる作業をさせて気づいたことをまとめてみよう。

生徒の反応が非常によく、楽しそうに授業に臨んでいた。
生徒同士が協力し、教えあいながらさらに高度な知識へと議論している姿が見られる。
具体的な分子のイメージが確立され、その後の有機化合物の授業の展開が行いやすい。
分子の立体構造を身近に感じ有機化合物に親しみを感じていた。(エタノールや酢酸のモデルが出来上がるとカワイ〜の声があちこちであがっていた。)
有機物質の反応機構を学ぶときには、その構造を思い浮かべ、どの部位で切断,結合が起きるかを思考する能力が高くなった。

 よい点ばかりを列挙したが、これですべてと言うわけではない。実験を必ず行うのはもちろんのこと、実際の物質を見せたり、他の形式の分子模型も併用しあくまで模型(モデル)であることを強調する必要があろう。