物理授業実践記録
「ビースピ」を用いた力学的エネルギー保存則の実験
(大阪)四天王寺高等学校・中学校
檀上慎二
 
1 はじめに

 「ビースピ」とは,数年前に発売されていたおもちゃのひとつである。当時,小学生の間で,ばね仕掛けでビー玉を発射するおもちゃ(ビーダマン)が人気であり,その速さを測る装置として,ハドソンから「ビースピ」が発売された。多くの理科の教員が,これを中学や高校の物理実験装置として使えるのではないかと注目し,いくつかの研究会やサークルで実践報告がなされた。その結果,精度の上でも十分であり,簡単な速度測定装置として活用できることがわかった。
 当の製品は,「ビーダマン」ブームが下火になるとともに玩具店から姿を消したが,中村理科工業(株)が理科の教材として再び販売を開始し,現在は教材店を通して入手可能である。本校でも14台購入し,力学的エネルギー保存の生徒実験に活用してみた。以下に,そのようすを報告したい。
 
2 従来の力学的エネルギー保存則の実験例

 力学的エネルギー保存則の生徒実験としては,従来は,振り子の糸を最下点で切り,おもりに水平投射運動をさせて,水平到達距離を測るものがポピュラーであった。例えば,図1のような装置で,おもりの質量をm,はじめの高さをH,飛び出す位置の高さをh,飛び出す速さをv とすると,


図1

 力学的エネルギー保存則より,
    ……(1)
 また,飛び出してから着地するまでの時間をt,水平到達距離を x として,
     ………………(2)
    ……………………(3)
 以上より,となる。この計算値と実験結果を照合し,うまく合っていれば,力学的エネルギー保存則は成立していることになる。
 この方法は,簡単な道具だけで比較的よい結果を導くことができ,教師にとっては使いやすい実験である。しかし,理論の展開に力学的エネルギー保存以外の要素が含まれているため,力学的エネルギー保存の検証なのか,放物運動の検証なのか,生徒にとってはわかりにくさが感じられる面も含まれている。
 この方法で,放物運動を利用する理由は,最下点でのおもりの速さを知るためである。従来は,物体の速さをダイレクトに測定する方法に乏しく,あったとしても高価であったり自作の必要があったりで,生徒実験に気軽に使えるようなものではなかった。そのため,放物運動を利用することで,速さの直接測定を避けていたのだといえよう。

 
3 ビースピを利用した力学的エネルギー保存の実験

i) ビースピのはたらき

 ビースピの外観を図2aに示す。青いボタンを1.5s長押しすると速度測定モードになる。裏には2つのLEDゲートがあり(図2b),物体が2つのゲートの前を横切ると,その時間間隔から自動的に速さが測定され,km/h単位で液晶画面に数値が表示される。


図2a


図2b

ii) 実験装置

 これを用いて,振り子の最下点の速さを測定すれば,放物運動を使うことなく,力学的エネルギー保存則を直接示すことができると考え,図3aのような装置を組んだ。


図3a


図3b

  • おもりとして,比熱測定用の分銅を用いた。
  • 重心位置を示すために,分銅の中央に幅1mmのテープを巻き,上からセロテープで補強した。
  • 分銅の下面に紙片を貼り付け,LEDゲートの光を切るようにした。
  • 分銅を2本の糸でつるし,振動面が安定するようにした。また,糸が伸びないよう,ケブラー繊維の糸を用いた。
  • 振り子の支点を支持するための棒には,しならないようアルミのチャンネル材を用い,鉄製スタンドの支持具で固定した(図3b)。

iii) 実験方法


図4a


図4b


図4c
  • 分銅重心の最下点が机面上h=4cmの高さになるよう,振り子をセットする。重心の高さを測定しやすいよう,鋼尺を角材にとりつけ,机面に垂直に立てて測定する(図4a)。
  • 最下点位置にビースピを両面テープで固定する。
  • ビースピの青ボタンを長押しして,速度測定モードにする。
  • 振り子の糸をピンと張り,分銅の重心が机面上高さH になるように持ち上げる(図4b4c)。
  • 静かに手をはなす。分銅が最下点を通過したら,すかさず分銅を手で受ける。
  • ビースピの液晶に表示された速度v の値を読む。
  • 同じことを3回行い,平均をとる。
  • H を5通り変えて,測定する。

iv) 実験結果

 式(1)より, と計算される。上の実験で得られたv の値をm/sまたはcm/sの単位に換算し, の計算結果と比較し,うまく合っていれば,力学的エネルギー保存則は成立しているといえる。

v) 評価

 45人×2クラスで生徒実験を行ったところ,各班とも数%の誤差で結果を出すことができ,実験方法としては満足できるものであったといえよう。
 ただ,分銅の重心高さの測定に,もう少し工夫が必要である。また,生徒にとっては,定められた高さから静かに分銅を離すことが意外に難しく,この点でも改良が必要である。

 
4 おわりに

 現在の中学生あたりが,最も「ビーダマン」で遊んだ世代であろう。装置の由来を生徒に話すと,懐かしく思えるのではないだろうか。
 装置の一部をブラックボックス化することには,種々の意見があることは承知しているが,ある程度学習が進んだ段階では,適度なブラックボックス化も理解促進の上で有効であると思われる。また,現代の子供は,このようなブラックボックス化を違和感なく受けとめることができる。
 なにはともあれ,速度をダイレクトに測定することで,何を実験しているのかがよくわかる,見通しのよい実験ができたと思われる。