物理授業実践記録
放射線測定の授業実践
〜簡易測定器「はかるくん」の実習〜
山形県立北村山高等学校
佐藤洋一
 
1.はじめに

 私は本校に勤務して2年目である。それまではいわゆる進学校という学校に10年間勤務してきた。昨年度から本校で「物理 I 」「物理 II 」を選択者4、5名を相手に授業をしているという大変恵まれた環境に置かれている。それは、生徒の興味関心が素直に表情や声となって現れ、時には納得できるまでじっくりと時間をかけて、実験や実習に取り組むことができるからである。それでも進度は大切なのでしょうけれど・・・。
 また私は、平成17年度原子力体験セミナー(放射線利用振興協会)に参加した頃から、機会があれば授業の中で放射線についての実験実習のために十分に時間をかけてみたいと思っていた。
 そんな私が今年度6月に実践した「はかるくん」を用いた授業を、感想を交えながら報告させていただきたい。まだ、「はかるくん」を手にしたことのない方の参考になれば幸いである。
 
2.「はかるくん」の借入れ申込みから
実験準備まで

写真1 実習用キット
 「はかるくん」の存在はかなり有名である。私自身、教員になりたての頃からその存在は知っていた。ただ、進学指導を理由に、実際に「はかるくん」を借りたことはなかった。今年度科学部の顧問になったことをきっかけに、科学部の活動の一つとして初めて借入れ申込みに踏み切ったのである。
 その際、日本科学技術振興財団のていねいな対応のおかげで、「実習用キット」(写真1)の存在を知り、初心者の私は迷わず「はかるくん」と「実習用キット」の借入れを申し込んだ。「実習用キット」とは、後に詳しく述べる放射線の性質を知る上で基礎となる実験用具一式(γ線の線源Cs-137や遮へい材など)である。キット1組につき、「はかるくん」は4台あると効率よくその後の実習を進められる。初心者の私は、申し込む時点でそのこと を知らなかったので、「はかるくん」3台、「実習用キット」3組という妙な組み合わせで申し込んでしまった。しつこいですが、これから初めて借入れを考えている方のために、キット1組につき「はかるくん」4台がベストであることを強調しておきたい。
 「はかるくん」の取り扱い方や「実習キット」の使い方については、解説ビデオを見ることで、高校生にとっては十分理解できるようであった。私から生徒に改めて説明する必要は一切なかった。小学生、中学生でも十分だと思われるていねいなビデオだった。なお、これらのビデオについても借入れ申込書の中で、希望の有無を記入するところがあり、もちろん私は申し込んでいた。
 
3.「実習用キット」について

写真2 実習テキスト
 この「実習用キット」、私としては申込みの電話の中で、不意に話題に上がり、即決で申し込んだものであったが、正に棚から牡丹餅とはこのことであった。「はかるくん」をわざわざ借入れても、何をやればいいのか?という疑問や不安をお持ちで借入れ申込みに踏み切れない方がもしいらっしゃるようであれば、ご安心ください。見事にその疑問や不安を解消してくれるのが、この「実習用キット」であるといえよう。実習テキストを申し込めば、生徒分送付していただける。もちろん別に増刷してもよい。実習テキスト(写真2)の内容を以下に紹介する。

I 自然界の放射線
 ◆地球の誕生から現在までと放射線
 ◆自然放射線から受ける線量
 ◆いろいろな場所で放射線を測ってみよう
 ◆私たちの測定結果と比較してみよう
II 放射線とはどんなものかな
 ◆放射能と放射線は違うの?
 ◆放射線にはどんな種類があるの
 ◆放射線はどのようにして測るのだろう

参考資料 1.簡易放射線測定器「はかるくん」の仕様 
2.放射線の単位 3.主な放射線の種類 4.電磁波の種類
5.放射性崩変系列の例(ウラン系列)

 実習テキストでは、ここまでの内容を11ページにわたり解説している。P12からは以下の具体的な実習用キットを用いた実験のための実験プリント形式でテキストが構成されていた。

 実験(1)身近な場所の放射線を測ってみよう
 実験(2)放射線はどんな性質をもっているのだろう
  A.バックグラウンド放射線(自然放射線)を測っておこう
  B.放射線は線源から離れるとどれぐらい弱くなるかな?
  C−1.どうしたら放射線を弱められるかな?(遮蔽材の材質の効果)
  C−2.どうしたら放射線を弱められるかな?(遮蔽材の厚さの効果)

 これらの実験は、放射線の基本的な性質を知る上で有効な実験であるし、「はかるくん」初心者の私や生徒にとって、このテキストにある実験をやり遂げるだけでも十分に満足のいくものであった。

 
4.実験の様子と結果


写真3

●実験(2)Bの準備(写真5)
 最初のセッティングが大変だ!距離を正確に測定しないと・・・


写真5

●地学準備室にて(写真3)。
 岩石がたくさん収納されている部屋だけに大きな値だ!?

●グランドにて(写真4)。暑い。


写真4

●実験(2)Bの実験中(写真6)
 なかなか順調ですよ!


写真6

 テキストを用いた測定結果を、実験(2)Bを例として以下に挙げる。



 <生徒の感想>
 ・たった10cm の差で数値が大幅に変わって驚いた。
 ・線源からの距離を大きくするほど数値はみるみる小さくなった。
 ・距離によって、劇的に差が見られた。

 このように、実験の進め方から記録の仕方まで、詳細にわたって実験プリント形式でテキストが構成されており、大変便利なものであった。生徒もテキストに従い、スムーズに実験をこなすことができた。また、上の例以外の実験結果についても、しっかりと傾向が現れ、放射線の性質を知る上で実に分かりやすい実験であった。

 
5.終わりに

 この度の実践は、授業に役立つ特別なことを開発し、実践したというものではない。しかし、これまで「はかるくん」を聞いたことはあるが、実際の借入れまでは手が回らなくて・・・といった方のうち、一人でも多くの方が実践してみる気になっていただけたら本望である。とにかく日本科学技術振興財団の対応は、返送用の宅急便送付書まで同封していただけるほどていねいであり、費用も全くかからない有意義な実践であるといえる。
 また私自身、実際に借りる気になったのは、少なからず先にも触れた「原子力体験セミナー」の影響を受けている。このセミナーに参加したことが、私自身にとって、目に見えない放射線の存在を確実に身近なものにさせてくれた。こちらの教員研修も強く推薦できる内容である。
 今後は、セミナーで得た簡易型霧箱やGM管カウンターなどの授業への導入も考えていきたい。また「はかるくん」はもちろん、「実習用キット」の存在も研修会等で広く情報提供していきたいと考えている。ちなみに平成19年6月現在では、「はかるくん」のHP にて「Web予約」も可能になり、一層手軽に借入れ可能になったようである。