「進んで人とかかわり,自分の思いを豊かに伝え合う児童生徒の育成」
愛知県東海市立横須賀中学校区
1.はじめに
私たち横須賀中学校区は平成15年度に「総合的な学習の時間」モデル事業の研究委嘱を文部科学省より受け,校区として総合的な学習の時間の実践研究に取り組むことにした。
私たち横須賀中学校区の児童生徒は素直で素朴な子が多い。ただ,ここ数年,人間関係をうまくつくれず,学年が進むにつれて不登校になったり,問題行動を起こしたりする児童生徒も出ていた。
人間関係をうまく築くには,自分を適切に表現し,まわりから認められる必要がある。しかし,わたしたちは児童生徒に十分な自己表現力を育成することができなかった。そこで横須賀中学校区のめざす児童生徒の姿を次のようにし,その育成に取り組んだ。
横須賀中学校区のめざす児童生徒の姿 |
「進んで人とかかわり,自分の思いを豊かに伝え合う児童生徒」 |
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2.取り組み
上記の表現力の育成のために次のような取り組みをした。
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総合的な学習の時間における英語活動(小学校)・英語学習(中学校) |
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昨今の生徒の英語へのあこがれは強く,英語を使って外国の人と話したいと思っている子が多い。東海市は「幼少時から生の英語にふれさせたい」という方針を打ち出し,平成15年度よりALT(英語指導助手)を全小学校に配置した。
東海市英語活動指導カリキュラムも作成をした。この恵まれた環境を生かし,表現力の育成に向けて総合的な学習の時間における英語活動(中学校では英語学習)に取り組んだ。
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(2) |
表現活動の基盤となる各教科の基礎・基本の指導 |
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平成16年度まで総合的な学習の時間を中心に表現力の育成に取り組んできたが,総合的な学習の時間だけでは表現力は身につかないことを実感し,全教育活動を通して取り組む必要があることに気づいた。
自分の思いを表現するためには,その基盤となる確かな学力が必要である。そこで,各教科の基礎・基本が身についていれば,それらをもとにして表現力を発揮することができると考えた。 |
3.取り組みの実際
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英語活動・英語学習 |
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1) 小学校の英語活動 |
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●目 標 |
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英語を習得するための方法や自分以外の人とのかかわりかた,人とかかわる上で大切なことなどを考える力を育成する。 |
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→資料1 小学校英語活動活動内容 |
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●手だて |
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「生きた英語を使う場面」の設定 |
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1時間の授業にコミュニケーションをする時間を設け,人とのかかわりや表現力を育む。 |
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授業はできるだけEnglish Only |
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指導の5つの重点 |
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「Big Voice」「Big Gesture」「Big Smile」
「Face to Face」「Good Listener」 |
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ALTとHRTの役割分担の明確化 |
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ALT・・・主体
HRT・・・主導 |
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2) 中学校の英語学習 |
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●目 標 |
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異なる言語・文化を理解することができる |
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自分の思い・考えを,積極的に英語を用いて表現することができる |
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コミュニケーションすることの楽しさと大切さを理解することができる |
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●実 践 |
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<1学年> |
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年間14時間で「海外旅行に出かけよう」という題材で活動を行っている。 |
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2時間で1つのレッスンとし,1時間目は調べ学習,2時間目を調べ学習を生かした会話の時間という形で行っている。 |
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指導に当たる教員は学級担任の教師とALTである。 |
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<2学年> |
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年間10時間で「留学生がやってきた」という題材で活動を行っている。 |
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2時間で一つのレッスンとし,1時間目は調べ学習,2時間目を調べ学習を生かした会話の時間という形で行っている。 |
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指導に当たる教員は英語科教員とALTである。2学年で英語科教員が指導に担当することにしたのは,2学年になると教科の「英語科学習」の習熟が進み,専門的な内容に対応するためである。
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(2) |
各教科の指導 |
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横須賀中学校区にある3小学校,1中学校の実態に合わせてテーマを設定し,基礎・基本の育成に取り組んだ。横須賀中学校では各教科に注目をし,各教科の基礎・基本が身につけば,それらをもとにして表現力が発揮できると考えた。 |
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●手だて |
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各教科の基礎・基本を明確にし,その内容の確実なを図る |
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本校では基礎・基本を次の3つに分類した。 |
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a |
基本的生活能力としての基礎・基本 |
b |
各教科の基本的事項としての基礎・基本 |
c |
人間形成としての基礎・基本 |
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本校で育成したい基礎・基本を「bとc」と考えた。 |
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本校の「各教科の基礎・基本」のとらえ |
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学習するときに既習事項と照らし合わせるものであり,新しい学習に生かすことができるもの |
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各教科の基本的事項は教科書の単元ごとに一覧表を作成し,それに基づいて授業を進めた。また,cの「人間形成としての基礎・基本」は道徳・特別活動・総合的な学習の時間を中心に育成しようとした。 |
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教師の資質向上を図る |
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学校教育活動の中で最も大切なものは授業である。授業の中で身につける確かな学力が表現力の基盤となってくる。教師が授業を実践することができるように,お互いに授業を見て,授業力向上をめざし,表現力の基盤作りをめざした。 |
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本校では授業力を次のようにとらえた。 |
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授業を構想し,展開する力 |
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生徒を的確に評価する力 |
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わかりやすい言葉で説明したり,学ぶ意欲を喚起したりする表現力 |
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●授業実践例 |
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数学科 1学年「比例と反比例」(3/14) |
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本時の目標 |
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ともなって変わる2つの量を表にして,その特徴を調べようとする。 |
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変域を不等式や数直線に表し,その意味を理解することができる。 |
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本時の基礎・基本を定着させるための工夫 |
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小グループでの話し合い活動 |
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発問,投げ返しのあり方 |
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まとめにおける口頭設問テスト(Oral Math)の実施 |
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机間指導時の声かけ |
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基礎・基本を生かした表現活動の場面 |
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深化の場面で,本時に学習したことを生かせるように,単に答のみを要求するのではなく「なぜそうなるのか」という理由や根拠についての発表も重視する。 |
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4.成果と課題
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成果 |
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1) 英語活動・英語学習 |
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会話練習をしていない生徒に対して2つの手だてを実施した。 |
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その結果,手持ちぶさたにしている生徒がほとんどいなくなった。 |
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小学校・中学校で継続して総合的な学習の時間に英語活動・英語学習を実施してきたので,中学校に入学してくるときに英語に対して以前の生徒より高い興味をもっている。 |
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英語で会話しているときの表情が年々良くなり,自分の気持ちを伝えようとする意欲を感じることができるようになった。 |
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英語学習での取り組みが他教科において生かされてきた。例えば,以前は自分の意見を発表することに対して苦手であった生徒が,発表することに対して抵抗感を示さなくなってきた。 |
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2) 各教科の指導 |
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各教科の基礎・基本を明確にすることにより,指導すべき内容を再認識することができた。 |
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各教科の基礎・基本の定着を図ることにも重点をおいて研究を進めたことにより,少経験者教員への授業の指導法の研究となったり,ベテラン教員のマンネリ化した授業からの脱却する研究になったりするなど,さらなる授業改革にむけて一歩進めることができた。 |
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(2) |
課題 |
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1) 英語活動・英語学習 |
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「相手の目を見て話す(Face to Face)」「大きな声で話す(Big Voice)」ということが教師からの指導なしにできない場面が多かった。 |
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英語学習の授業を行うことに対して抵抗感をもつ教師がいる。現職教育で小学校の授業をビデオで見たり,教師が生徒の役になって模擬授業を行ったりするなど,教師の英語学習に対する抵抗感をなくそうとした。年々改善されてきてはいるが,現職教育において,英語学習の指導のあり方をより一層学ばなければならない。 |
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2) 各教科の指導 |
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表現力の向上を目指した授業実践をしてきたが,授業が小グループを編成した話し合い活動や発表会が主になってきている現状がある。授業に話し合い活動や発表会を取り込むことが効果的かどうか吟味する必要がある。また,1時間の授業の中で生徒が習得した「基礎・基本」を生かして表現力を育成する手だてが不十分である。 |
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教科において小学校と中学校の連携ができていなかった。小中学校9年間を見通した学習指導計画の作成や,生徒指導のあり方など小学校と中学校の連携をより強化していく必要がある。 |
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5.おわりに
横須賀中学校区では「表現力の育成」をめざして平成15年度より取り組んできた。
しかし,まだ多くの課題を抱えており,これからの日々の教育活動の中で引き続き取り組んでいきたい。
平成18年11月9日には横須賀中学校で本研究の中間発表会を開催する予定である。多くの先生方にご参観していただき,ご指導・ご助言・ご批判をいただければ幸いである。
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