- うすい硫酸と亜鉛板,銅板からできる「ボルタの電池」(教科書本冊3年p.105図20)では,銅板からだけでなく亜鉛板からも泡(水素)が発生するのですが,どうしてですか?
- ボルタの電池は,亜鉛板(−極)と銅板(+極)をうすい硫酸(教科書本冊3年p.106「科学偉人伝」参照)に入れて電池にしたものです。
ボルタの電池においては,複数の化学反応が起こっていますが,代表的な反応として以下の2種類の反応が起こっています。
まず,1つ目は「電池の反応」です。
(−極)Zn → Zn2+ + 2e−
(+極)2H+ + 2e− → H2
この反応では,+極の銅板表面から水素が発生します。電極間に導線をつなぐと,この「電池の反応」で−極から+極に移動する電子によって,電流が発生します。
そして,2つ目は「金属と酸の反応」です。
(−極)Zn → Zn2+ + 2e−
2H+ + 2e− → H2
この反応では,亜鉛板とうすい硫酸の反応(教科書本冊3年p.122参照)により,−極の亜鉛板表面から水素が発生します。なお,この反応は電極間に導線をつないでいない状態でも起こっており,つないだ後も,水素の発生は,上記の「電池の反応」によって電流が発生することと直接的には関係していません。
このようにボルタ電池では,「電池の反応」と「酸と金属の反応」の2種類の反応が同時に起こり,+極の銅板表面と−極の亜鉛板表面の両方から水素の泡が発生する状態になります。
また,教科書本冊3年p.105「ためしてみよう」の実験のように,ボルタの電池の電流の強さは,溶液(塩酸)濃度の条件などにより変化します。ある程度以上溶液(塩酸)の濃度を高くすると,亜鉛板付近の水素イオンの濃度が高くなり,亜鉛板から放出された電子が−極で水素発生のために使われるため,+極に流れにくくなります。すなわち,「電池の反応」が抑制されて,電流の強さが低下してしまいます。そのため,電流が強くないからといって,溶液(塩酸)の濃度を上げて実験することはおすすめできません。2.5%〜3%程度の溶液(塩酸)の濃度が最適な条件です。
なお,上記のようにボルタの電池は「電池の反応」と「酸と金属の反応」の2種類の反応が同時に起こり,実際にはその他の反応も関与する複雑な電池です。そのため,電池の原理を説明する一般的なモデルとして示すのは生徒の混乱を招くのではないかと考え,平成28年度用の教科書の本文ページでは,軽く扱う程度にとどめています。